第173話 伝説の宝箱、それは浪漫

「それで、何故ノア達を襲ったのかをちゃんと教えて」


「何故ノアを襲おうとしたのか教えるのじゃ」


「ちょっと待って、フェル。今ふざけてる時じゃないよ」


「ふざけてたのはお前」


 夜明けが近づき、朝の日差しがリコスターローズに反射して綺麗な彩りを見せる。

 俺とフェルとジェンドマザーは、ぶよぶよしたスライム製の縄で縛られたユウキを見つめていた。


「え?襲うってなんの事?」


「実はな、この変態スライムがな…」


「ちょっと!!今はそれどころじゃないでしょ!それよりも君。早く、理由を言いなさい!」


 バタバタと手足を動かして、喧しく誤魔化すジェンドマザーを横目に、俺も詳しい話が聞きたいので耳を傾ける。


 しばらくの沈黙が続く。

 ユウキは言う準備をしているのだろうか。


「時の八源厄災、名をファル・リコという人間は僕の友達だった。それをフェンリルに殺されたから復讐をしようとした」


「フェルのせいだったのね」


「あぁ。だが、我は我の心に準じただけじゃ」


「このッ!グライドまでも殺した獣にどんな根拠があるって言うんだよ!」


 え?なんでグライドが出てくるんだ?

 同名の別の人か?


「そもそもグライドは殺してはおらぬ。今なお健在している」


「だけど、あの時の不敵な笑みは…」


「心の動揺を誘えると思っただけじゃ。嘘も方便と言うじゃろ」


「そうだったのか…。あっ、そうだ!君は、グライド・リーフレットの子供なのかな?」


 グライド・リーフレットは俺の父さんの名前だ。

 なんで転移者のユウキがグライドを知ってるんだ?

 そもそも、グライドは長い間森の中にいるはずだが…。


「そうだけど…、何故?」


「あぁ。そうなんだね、良かった…」


 うん?全くもって状況が理解出来ない。

 どういうことだ?


「僕は24年前に、グライドとエリーゼに助けられてね。友達なんだ」


 24年前…。

 グライドとエリーゼが今は36歳位だったはずだから、12歳くらいの時か。

 …つまり、ユウキは12歳の時に転移してしまったのか。


「なるほど…。でも帝国と王国の戦争でユウキは帝国に付いたことがきっかけに、父さんは逃げ出したって母さんが言ってたけど、あれはどうゆうことなんだ?24年前から友達ならその時期も友達だろ?」


「あれはエリーゼが徴兵されそうになったんだけど、僕の提案で2人は王国から逃げることにしたんだ。2人の決意は固かったから僕はその計画を全力で手伝ったんだよ」


 ふむ、それでグライドはのか。

 当時騎士団長に選ばれていたグライドが逃げ出すなんておかしいと思ったが、そういうことがあったんだな。


 エリーゼも「世界で1番強いと言われる程になった人だからね」と言っていた。

 あの時言われたら別に変だとは思わない文章だが、今思うと少し含みがある言い方に聞こえる。


「君があの時、2人の名前を言ってくれなかったら闇の八源厄災に飲み込まれて君たちを殺していただろうね。ごめんね、怖い思いをさせて」


「いや、大丈夫だ。生きていればそれでいい。それで、ジェンドマザーによると俺たちは2日くらい寝ていたそうなんだが、何か心当たりはあるか?」


「2日も寝ていたのか…。恐らく、単純な疲れだと思う。あの時、死にかけていたノアを回復させるときに魔法を使った。それで急激に体が回復し、疲れだけが残った。そして、僕も魔力を一気に失ったことで魔力欠乏症の症状で倒れたって言う感じかな?」


「そうだったのか、殺されそうになった相手に感謝するのは正解か分からないが、サンキューな」


 ユウキが回復魔法をかけてくれたのか。

 確かにあの時、本当に死ぬと感じたからな、俺。


「とりあえず、縄は解いていいんじゃないか?ジェンドマザー」


「…そうだね。恩がある人の子供をもう攻撃しなさそうだし」


 そう言うとスライム製の縄はしゅるしゅると解けてジェンドマザーに統合された。

 ジェンドマザーの胸が少し大きくなった気がするが多分気のせいだろう。


「ありがとう。ところで、君たちは転移魔法を習得したがっていたよね」


「あぁ!忘れてた!」


「ふふっ、転移魔法はこのリコスターローズの花畑の地下にあるんだ」


「そうか!なら…」


「だけど、ノア。君だけにしてくれないかな。八源厄災の2人はそこで待っていてくれ」


「…ノアに危害が降りかかる可能性は?」


「ゼロだ。無いだろうけど万が一があったとしても命に変えても守るよ」


「…そうか。信じる」


「うん。ありがとう」


 さて、話も終わったようだし、転移魔法を覚えるか!

 そうしたら、まずはグライドとエリーゼに会いに行こう。




「さっ、行くよノア」


「あぁ。しかし、ここはダンジョンなのか?」


 リコスターローズの花畑のやや中心から離れたところに穴が空いており、そこから地下に入れるのだが、まるで迷路みたいになっており、魔物も少なからず出てくる。


「うん。ファル・リコは転移魔法を師匠から伝承された時にどうするか迷った。師匠はファル・リコ以外には教えないというスタンスだが、ファル・リコ自身は転移魔法を世界に広めたいというスタンス。どっちの意見も尊重させるように出来たのがこのダンジョンだね。大陸のどこかに隠されたダンジョンを攻略すると転移魔法の理論が見れる。浪漫だよね」


 確かに、浪漫だな。

 男なら誰でも憧れる伝説の宝箱のような展開だ。

 しかし、ファル・リコという人物は考えたな。


「道のりは少し長いよ。気を抜かないようにしてね」


「あぁ。忠告ありがとう」

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