第171話 真実

 気がつくと僕は森の中を一生懸命走っていた。

 どうやって逃げだしたか、どうやってここまで来たか分からないが、今とても怖いものから逃げているのは覚えている。


 だから、僕は走っている。


 走り続けて数日後、森の先に明るい景色が見えるのがわかった。

 そこを目指して走り続け、僕の視界いっぱいに広がったのは広大な草原であった。

 その中心には大きな建物があり、人が多く賑わっているようであった。


「あそこなら…、たすかるかも」


 直感だが、今までいた場所の雰囲気とは180度変わるほどに明るいその街を見た僕は、とても足が凄く痛かったけど、今まで以上の速さでその街へと向かっていた。


「いてっ…」


 走るのに夢中になっていて、横から歩く人を見えてなかった僕は通行人にぶつかってしまった。


「服がボロボロじゃないか。大丈夫か?」


 目の前にいたのは僕と同じくらいの年齢の質素な服を着た子供だった。

 その隣には同じく目立たない服装をした子供だ。


「う、うん…」


「そうか、ほら手を」


 そう言って男の子は僕に手を差し伸べてくれる。


「あれ、この魔法陣って…」


「本当だ。隷属魔法をかけられてるみたいだね。君、どこから来たの?」


「…海が見えるところから森を通って…。怖い人が沢山いた…」


 そう言うと2人は頭を悩ませてるようで、頭に手を当てている。


「もしかして、帝国かな。こんな子供を奴隷にするなんておかしいよ」


「…そうだね。もしかしたら隷属魔法解除出来るかもよ?」


 そう言うと僕は2人に手を握られて、行動を共にすることになった。


 ―――


 僕は隷属魔法という生物を奴隷化させる魔法を解いてもらい、男の子…グライドの家に預けてもらうことにした。

 グライドは貴族だったらしく、貴族でもなんでもない自分が部屋に入ることに親は賛成しては無かったが、グライドの説得により、僕は少しの間だけ住まわせて貰えることになった。


 そして、グライドがいる時は一緒に鍛錬をして、いない時は冒険者として頑張る生活が8年も続いていた。


「ユウキ!S階級冒険者になるなんて凄いな!」


「あぁ、グライド!褒めてくれるのはありがたいけど、今日は騎士の訓練があるんじゃなかったの?」


「そんなことより、ユウキがS階級冒険者になったことを祝わないと!」


 そう言ってグライドは慌ただしく家の中を駆け回り、お祝いする準備を始めた。

 その頃になると、冒険者としての稼ぎが良くなっていた僕はグライドの親にお金を全額渡していた。

 そのお陰か、グライドの親は僕をずっと住まわせていてくれていたのだ。


「でよ…、どんな魔物を倒したんだ?」


「小さな村を襲っていたヘルスパイダーって言う蜘蛛の大群だよ。普通は1匹でもA階級冒険者何人も必要な程に強いらしいんだけど、僕1人でやれたから、本当にこの評価は正し…」


「あったりまえだろ!俺ですらユウキに勝ったことないんだからな!よっ、流石「世界最強の魔剣士」!」


「もう!それやめてよ!」


 …その頃、王国では兵士の訓練が活発になったり、資源が沢山持ち込まれたりと、きな臭さが漂っており、街はピリついていた。

 そんな中でもグライドは明るく、元気だった。


 ―――


 グライドが19歳の時に、彼は騎士団長へと就任した。

 これは王国建設以来の前代未聞の事態であった。


 だが、それでも文句は周りからは出なかった。


 いや、出せなかったのだ。


 グライドは圧倒的な戦闘センスで、誰も彼に勝てなかったのだ。


 そして、その数ヶ月後。

 帝国が動き出したと報告が上がり、王国は更にピリついていた。


「エリーゼ…なぜ…」


 部屋の一室で、グライドが酷く落ち込み、項垂れていた。


「…エリーゼがどうかしたの?」


「エリーゼが徴兵されるようだ…。幻惑魔法はそりゃあ、強いだろうけどよ。なんでエリーゼなんだよ…」


 戦争ということは死が隣人の危険な場所だ。

 いつ死んでもおかしくは無い。

 そんなところに自分の好きな人を連れて行けれるはずがない。


「…逃げ出そうよ」


「…え?」


「逃げちゃえばいい。勝手に戦争を始めてなんで僕らが被害を受けなきゃいけない?おかしいでしょ?」


「だけど…」


「理由がいる?なら僕が理由になってあげるよ」


 そう言うと僕はその一瞬で浮かび上がった計画をグライドに話した。

 それは、僕が帝国側について、それを理由にグライドがエリーゼと逃走。

 僕は王国側と帝国側の死傷者をなるべく出さずに、戦争を終わらせる。


 というものだ。


「…いいのか?」


「うん。そもそも、あの時グライドとエリーゼが助けてくれなかったら死んでいたかもしれないしね。恩返しがしたいって思っていたんだよ」


「そうか…。ありがとう」


 こうして、更に僕たちは計画を綿密に練り、必ず成功させることを誓った。


 ―――


 暫くして、世界最強の魔剣士が帝国側についたという知らせが王国中を駆け巡った。

 僕は隷属魔法の魔法陣に似せた偽物を体に浮かび上がらせて、帝国側についた。

 帝国側は戦争の始まる前だったからか、詳しく調べずに僕を戦力としてカウントした。


 そして、帝国兵と王国兵が草原でぶつかり合う直前、騎士団長グライドの逃亡が帝国側に知れ渡ったのだった。




 ―――


 ※段落先頭を字下げを忘れていましたので、修正しました。

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