第170話 闇色の斬撃
このピリつくような、肌を粟立たせるような殺気…。
これは間違いなく、八源厄災に匹敵するレベルであった。
「何故…?確かにユウキは人間にしては強すぎた。だが、それは転移者だからという理由で片付けれた。だが、この気配はレベルが違う」
そう、まるで本当に八源厄災かのような気配がユウキから溢れ出ているのだ。
暗闇から絶望の声を上げるような、そんな苦しみや憎しみが籠った断末魔がリコスターローズの花畑を駆け巡る。
闇色のオーラを纏ったユウキは、自分の意思を失ったように目は白目をむいている。
まさか、これは…。最後の…。
「――闇の八源厄災じゃ」
闇の八源厄災が、目の前に立ち塞がった。
―――
一方その頃、ジェンドマザーはカルトを抱えて王国に向かってひた走っていた。
カルトの体は人化を使っているが、フェルとは違い元々のスライムの体を流用して人の体を型作っている。なので、人間みたいに疲労という状態異常は存在せず、休憩をせずに走れるのだ。
(私だけこうやって逃げ出していいのかな。…でもノアはカルトをとても大切にしていた。そのカルトを無傷で無事に王国に帰らせることも戦いだよね。待ってて、すぐに行くから…!)
その時、後方からとてつもない殺気がジェンドマザーを貫く。
それはカルトにも影響を及ぼしたようで、冷や汗をかいて身体が震えている。
私ですら悪寒を感じる殺気だ、カルトは長時間当っていれば本当に死を錯覚してしまう。
「…これは、闇の八源厄災…かな」
「闇の八源厄災…?」
「うん。闇の八源厄災は大昔からこう呼ばれることが多かった。8柱の内、最強の八源厄災だと」
その言葉にカルトの生唾を飲む音が響く。
(今すぐ、カルトを置いて助けに行きたい。だけど、そんなことをしたらノアは死んでも怒りそうだね。頑張って、ノア)
さらに加速してスピードが増したジェンドマザーは王国を目指し、走り続ける。
―――
闇の神ハデスの闇の力は頻繁にその宿主を入れ替わる。
何故か、それは宿主がその力に耐えきれずに体が持たないからだ。
それ程までに強大な力だが、八源厄災とは何年もこの世に存在しないと均衡を保てなくなるため、神々は八源厄災がいなくなったら早急に力を貸し与える。
そして、数年前。
ケイ ユウキによって闇の八源厄災を殺された怨念か、憎しみか、闇の神ハデスはユウキ自信に力を貸し与えた。
体がふわふわと浮く紫色の空間にユウキは漂っていた。
そして、自分に満ちる力を自覚する。
「なん…、だ…?この力…。まさか…!」
時の八源厄災、ファル・リコによればある程度の力を持つ者と適性がないと力は受け入れられないと聞いたことがある。
「ハデスに憎しみや苦しみの感情に付け込まれてしまったようだね…。これじゃあ、ファルは風の八源厄災に復讐しても喜ばないだろうな。そして、グライドも…」
しばらく会っていない友人たちを思い出しながら、ユウキの心は完全に闇に吸い込まれた。
―――
「殺してはダメだ」
俺はフェルにそう訴えた。
その言葉にフェルは顔を顰めて、反論する。
「八源厄災に貸し与えられた神力の一端は八源厄災の死でしか無くならない。あの化け物を殺さずに人格を呼び起こすなんて無理じゃ」
…例えそうかもしれないが、死人をだすのは許容出来ない。
最後まで何かないか模索したい。
「…そういう性格じゃったな、ノアは」
「まっ、出来る限りはやろうぜ」
気配に鋭さが増す。ユウキは双剣を構え、臨戦態勢になる。
「来るぞッ!」
「分かってるのじゃ!
ユウキの突進を阻むように巨大な嵐が出現する。
「
ユウキのその声と同時に俺の
「おいおい、まじかよ…」
「対象内の魔法を全て無力化する魔法…か」
続け様にユウキは双剣を逆手に持ち、空中をを切断した。
そして、闇色の斬撃が飛ばされるのが分かると同時に俺の体に激痛が走る。
「なっ…!」
認識出来ないほどのスピードの斬撃が飛んできた。
それはノアに死を容易く連想させた。
「ヒールオール!なりふり構ってられないッ!フェル、最高火力を!」
生かして倒したい、などという傲慢な考えを捨て去り、全てをぶつける勢いで魔力を練り始める。
「あぁ。流石にあれを野放しにしてたら不味い…!」
フェルに嵐が渦巻いていく。
その姿は嵐の化身だ。
「この世の悉くよ、我に集まりて力となれ。ニンリルよ、我に嵐の力を。放つのは嵐を纏った大厄災、全てを呑み込め」
ジェンドマザー、借りるぜ。
「大海の悉くよ、私に集まりて力となれ。ネプチューンよ、私に大海の怒りを。放つのは全てを呑み込む大災害、大海の怒りに触れて」
ラルムの加護で、今まで感じたことの無いような万能感が湧き出てくる。
「フェル行くぞッ!」
水と風の2つの力は更に力を増していく。その魔法は果てしなく巨大な竜巻を作り出した。
「
「
大陸を破滅させるほどに威力が上がった2つの魔法はユウキに向かって一直線に進んでいく。
その魔法は全てを飲み込む…、ことは無かった。
「――
その放たれた魔法は、全てを無に帰した。
残ったのは、闇色の斬撃だけであった。
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