第169話 目覚め
「…なら、本気で行くよ」
ユウキの殺気が更に鋭さを増す。
だが、未だに表情は穏やかだ。
『ふむ、今の私の体が死んでしまったら主界に強制的に放り投げだされてしまいますね。私も少し力を貸しましょう』
「そうか。なら頼むぞ、ラルム」
『えぇ。
おぉ?なんだか力が湧いてくる。これがラルムの魔法か?
試しに魔法を撃ってみるか。
「…10連
掌から出現した10個の水玉はユウキを目標として放たれた。
水玉の大きさは同じだ。
だが、その放たれた速度は瞬間的に上がり、ユウキへの認識出来ない攻撃へと昇華していた。
「くっ…、どうやら君の方が厄介そうだッ!」
10個の拳銃よりも速い水玉を食らったユウキだが、若干怯んだだけで双剣を構え直し突撃してきた。
『水系統魔法の威力の著しい上昇と水系統魔法を使用した際に魔力を消費しないというのが、この魔法の内容です。相手は八源厄災を殺せる相手です。ぜひ頑張ってくださいね』
「あぁ、サンキュー!」
水系統魔法の消費魔力をゼロにするとか、流石始まりの悪魔だな。
「
ギンッ!
厚さにして1メートルはあろうかという、分厚い水の盾が目の前に出現する。
盾は留まることなく流動しているが、ユウキの双剣を容易く受け流す。
「
双剣を盾で弾かれて体勢がよろけた瞬間、目の前に激しく渦巻く嵐が出現する。
それはユウキの体を軽々と持ち上げ、飲み込む。
「…あんな嵐を一般人が受ければ、間違いなく即死だが…」
案の定、ユウキはどうやったかその嵐から抜け出し体勢を立て直していた。
俺は水神の守護盾を発動させながらも、1つ気になっていたことを問いかける。
「何故、フェルを殺そうとする?」
「…ははっ。君は知らないかな?そこのフェンリルが時の八源厄災を殺したことを」
「…いや、知っている」
「そう…。時の八源厄災、ファル・リコは僕の友達だったんだよ。最も仲が良かった親友だ。だけど、今はもういないけどねッ!」
怒りが混じった殺気を纏い、ユウキはさっきと同じように水神の守護盾を斬りつける。
結果は同じだ…、と思ったが守護盾にヒビが入るのを見てしまった。
「離れろ!フェル!」
「くっ…」
後方に跳躍した瞬間、縦は破壊されて俺たちがいた場所には雷が迸った。
付与魔法か。
練度はかなり高いように思える。
付与した瞬間が確認出来ないほどに流れるように付与魔法を発動させたようだ。
立て続けに、ユウキは地を思いっきり踏み締めて跳躍をした。
目標は未だ空中に浮いて無防備な俺たちだ。
俺はわざと空中で焦った仕草をする。
ユウキが油断して近づいてこれば、零主還藤を振り払うだけだ。
そして、俺の思惑通りにユウキが俺の目の前で剣を振りかざした。
「かかったな」
「うん。そっちがね」
「!?…ぐっ、そ…」
俺が零主還藤を取り出す一瞬の隙に、ユウキは俺の目の前から姿を消していた。
そして、数瞬後に俺の背中から温かいものが滴り落ちてくるのが理解出来た。
(くっ、血か…。いつの間に後ろへ回ったんだ?明らかに予測出来ていないとできない動きだ。もしかして、本当に俺の行動を読んでいたのか?)
「…ヒール」
傷口が塞がり体が癒えていくのが分かる。
ジェンドマザーとカルトは逃げれただろうか。
―――
「チッ、噂には聞いたがこれ程までとは…」
ノアが背中を斬られ、ユウキと名乗った男は既にノアを殺したと思ったのか、我に斬りかかってくる。
「…時の八源厄災は強かった」
「機嫌取り?無駄だよ。死は確定している」
刹那の攻防を繰り返す。
ユウキは魔法を纏った双剣をまるで舞うように連撃を繰り出してきて、守るのが精一杯で攻めに転じられない。
だがしかし、ユウキも我を殺そうとしたら結果改変の力を使われると思っているのか、少しづつ我の体力を削るような戦い方をしている為、どちらも攻め手に欠けていた。
更に攻防は続くが、どちらかがミスをしない限りこれは終わらないと我は悟った。
そこで、何かユウキの心の動揺を誘発出来るような話を放り込むことにした。
「ならば、グライドとはどうゆう関係だ?」
エリーゼの森を出るあの日。
我も気になり、盗み聞きしてしまったあのグライド逃亡の一連の話。
そこで世界最強の魔剣士が出てきたことを思い出し、関係性は薄いだろうが何か動揺を誘えないかと話を放り込んだ。
「…グライド?何故風の八源厄災がグライドの話なんかをする?」
何か、関係性があるのか?ユウキの今の発言だけじゃ、なんにも分からないな。
仕方ない、誤魔化すか。
「…!なんだよ、その笑顔は!まさか…、グライドまでッ!」
ふむ、上々じゃな。
心を動揺させることに成功した。ここから一気に押しかえす。
「…
怒りで冷静さを欠いたのか、ユウキは大振りで剣を振りかざした。
我はそこに渾身の一撃を叩き込む。
ユウキの肋からは鈍い音が響いた。
「ぐぅ…!」
ユウキは放物線を描いて遠くに飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「流石はフェルだな」
そこにヒールで復活したノアが駆け寄ってくる。
「ここから一気に攻めるぞ」
「あぁ、分かってる」
我らが気合いを入れた時、八源厄災にも匹敵するような気配が辺りに迸る。
「…!なんじゃ!?」
その気配は、先程飛んで行ったユウキの落下地点からだった。
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