第166話 友達
朝日が昇り、そして降る。
それらを何回見ただろうか。
俺たちは山を超えた。
眼下に広がるのは、リコスターローズの花畑であり、太陽の光に照らされて輝いている。
山に囲まれた銀色の花畑は、まるでこの世のものとは思えぬほどの絶景で、思わず息を飲む。
「じゃあ、私はカルトと探索するよ!先に転移魔法の情報を見つけた方が勝ちね!!」
「えぇっ!?あぁ…、ジェンドマザーさん力強い…」
ジェンドマザーに強引に引っ張られて行くカルト。
ジェンドマザーがそばに居るのなら安全だろう。
「さぁ、俺たちも探すか?」
「…あぁ、そうじゃな」
俺とフェルは山を下っていき、花畑周辺を探すことにした。
時々、フェルは表情を暗くして、落ち込んだ雰囲気を醸し出している。
俺はフェルを先生と思うと同時に相棒でもあると思っている。
人間の俺に解決の出来るものでは無いかもしれないが、相棒がこんな雰囲気じゃ、こっちも気分が下がるし、心配になる。
「良かったら、何があったか教えてくれないか」
銀色の花畑に山の山頂から吹き込んでくる風がフェルの銀髪の髪を靡かせる。
海が近いのか、少し潮の匂いがする。
「………」
こちらに顔を向けてはないが、悩んでいるのがわかる。
それほどまでに言い難いことなのか。
「フェル…、いや。相棒、良かったら話してくれ。俺は人間だから、神様や八源厄災のことは分からないが、それでも悩んでいるのなら解決する力がないとしても、ほっとけない」
フェルは徐にしゃがみこみ、1輪のリコスターローズの花を摘む。
なんの魔法か、一瞬で再び花が咲き、この景観を保たんとしている。
「我には友がいた。最初はただの気まぐれだった…」
―――
「あー、君の名前はなんて言うの?」
寝ている我の前に現れたのは、小さい子供の人間であった。
勿論、我はその子供の存在に気づいてはおったが、我を見た瞬間に逃げ出すだろうと思い、何もしなかった。
だが、どうだろうか。
子供ゆえの好奇心か、はたまた恐怖心がないのか、我に名を聞いてきた。
「………」
睨んで追い払おうと思ったが、その子供には左腕がなかった。
切断面を見るに、生まれつきではない様で、何者かに切断されたかのように綺麗な断面だった。
そして、次に視界に入ったのは子供の頭の傷だった。
よく見ると子供の体には至る所に擦り傷やアザがあり、我はなんとなく察しが付いた。
気まぐれか、それとも八源厄災になっても我のどこか心の奥底に同情する心があったのか…。
それは分からないが、我はその子供に返事を返した。
「…フェンリルじゃ」
「フェンリルかぁ…!もふもふだねぇ」
「なっ…」
子供はダッと駆け出して、あろう事か我に飛びかかってきた。
我は条件反射で、体を拗らせて、その子供の飛びつきを回避した。
「いっ…。うう…う」
べチンとその場に体を叩きつけられた子供からは嗚咽が聞こえてきて、徐々にその声は大きさをましていく。
我はこの穏やかな場所で大声で泣かれてはかなわないと思ったので、治療を施す。
「…ヒール」
「…?わぁ!傷が治った!」
「ふん、気をつけるんじゃぞ」
「ありがとう!フェル!」
「はぁ?フェル?なんじゃそれは」
「君のあだ名!いいでしょ!」
「なっ!我にそんな適当な名前…」
反論をしようとしたが、子供は我の体に飛びかかり、寝転がった。
そして、余程疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。
「フェル…、全く。適当にも程があるじゃろ…」
怒りも少し湧いたが、それ以上に人間の子供と接して奇妙な関係性が出来たことが我の頭を支配していた。
「人間の寿命は短い。少し付きあってやるか」
その子供、ハヤトは異世界から転移されられたのだという。
その子供は所謂転移者であり、転移させられた転移者は使えないと判断した後に、ストレス発散道具として暴行を加えられ、捨てられるのだという。
ハヤトもその1人で、腕を切断された後に心優しい兵士に逃げ出すのを手伝ってもらったのだとか。
なんと人間は腐っているのだろうか。
我はその時に心底そう感じた。
あの出会った日から、ハヤトは我と一緒に行動を共にすることになった。
我はこの世界のことを話し、ハヤトは元いた向こうの世界「地球」という場所のことを話してくれた。
転移者という存在は知っていたが、向こうの世界はこちらの世界とは全く違うところが多くあり、我も楽しかった。
やがて、2人の世界の話は底を尽きた。
そこで我は、その子供に魔法を教えることにした。
魔法を覚えれば、我が居なくともハヤトは生きていけるだろうし、何より魔法は面白い。
後に知ったのだが、転移者は次元の空間を超える時に、魂が再構築されるから強いスキルや強靭な肉体などが手に入りやすいのだという。
ハヤトはその例に漏れずに、とてつもない魔力量と才能を持っていた。
魔法とは、際限なく広がっていく宇宙のようなもので、研究すればするほどその深みは更に広がっていく。
そんなものだから、我とハヤトは既に長い時をずっと2人で魔法の研究をしていた。
だが、所詮ハヤトも人間だ。
老化や記憶力の低下などの、人間の機能がどんどん衰えていく。
とてつもない魔力量と才能を持っていたハヤトだが、もう既に1人では歩けないようになっていた。
「よう、ハヤトー。お前の為にわざわざ、我が狩りを…」
そして、ある日。ハヤトは冷たくなり、動かなくなっていた。
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