第165話 故郷

『獣人族の里の南方面、大陸の端に山が幾つも点在しているところがあります。そのどこかにあります』


 獣人族の里の南方面か。

 行ったことがないが、見つけられるだろうか。


「他にも情報はないの?」


『ほう?更に要求しますか。始まりの悪魔へのお願いにはそれ相応の対価…』


「早く教えてよー。ラルムくーん」


『………花畑、にあります』


 おぉ、流石ジェンドマザー。

 始まりの悪魔も八源厄災を敵には回したくないのだろうか。


「あー、そうだった気がする!花畑!」


「山が点在する地域のどこかにある花畑ね。いい情報だ。ありがとうラルム」


『ははっ、どうってことないですよ』


 ―――


 数千年前に、ある者が転移魔法を生み出した。

 時空と時空を繋いで、一瞬で移動出来るその魔法は当時の魔術師に大きな衝撃を齎した。

 だが、その者は過去に激しい迫害を受けており、その魔法の理論を世に公開することを拒んだ。

 それはその者の一種の復讐心から産まれた産物であったのだ。


 だが、その者はある1人の弟子にその理論を受け継がせた。

 その者は「時の女神」から神力を借り受けていた。


 そして、その者はその理論を誰にも教えることはなく、大陸のどこかに隠した。

 師匠の意志を継いで、世には公開したくは無い。

 だが、この魔法を私の代で終わらせる訳には行かない。


 そう考えての行動であった。


『そして、その場所とは山に囲まれた魔法で枯れることの無い、白銀のリコスターローズの花が一面に咲き乱れた花畑です』


 リコスターローズ。

 確か、ダーグが花言葉を教えてくれたっけか。


 花言葉は「時空をかけた思い出」。

 なるほど、転移魔法がある場所にはピッタリの花っていうことか。


「ロマンチックだね…!」


「そうだな。白銀の花畑なんて見たことないから、さぞ綺麗なんだろう」


 カルトが話しかけてきたので、振り返って話をしている時に、視界の端にフェルの顔が見えた。

 その顔は何処か罪悪感を感じさせるような、そんな暗い顔だった。


 どうしたんだろう。


 何か悩み事か?


 まぁ、道中は未だ長く、何日もかかる。

 どこかでフェルに話を聞こう。


 ―――


 旅は終盤に差し掛かり、前方には天を劈く程に巨大な山が聳え立っていた。

 その周りには幾つもの山があり、あの中心がリコスターローズの花畑だと思われる。


 現在、空は暗く染まり月明かりだけが、俺たちを照らしている。

 八源厄災には睡眠は必要ないだろうが、俺もカルトには必要なので、近くの小さな森で野宿をしている。


 フェルは魔物が来ないかを見張ってくれている。

 ジェンドマザーは普通に寝ている。

 必要ないはずなんだが、カルトより爆睡するのはよく分かんない。


「ふぁぁ…、寒いな…」


 春とはいえ、夜の野宿は寒くてなかなか寝付けない。


「なんじゃ、寝ないのか」


 木の上からフェルが話しかけてくる。そう言えば、こんなこと前にもあったな。

 俺は木に登り、フェルの近くの枝に座る。


「寒いから中々寝れないんだよ」


「ふむ、そうか」


 暫くの沈黙が続く。

 木々は風によってゆらゆらと揺らめき、その度に月の明かりが俺とフェルを照らす。


「…神って本当にいるか知ってるか?」


「………知らないのじゃ」


 意味深な間に、言葉が詰まる。

 この先聞いたら行けないようなそんな感じがしてならない。


『風の八源厄災。別名、神殺しのフェンリル』


 その空気を断ち切るように、ラルムが突然話し始めた。


「え?何言って…」


『約15年ほど前、時の女神と時の八源厄災が風の八源厄災に殺されたんですよ』


「………」


 …フェルの口からは直接は言われていなかったが、フェルが風の八源厄災だということは薄々分かっていた。


 ――フェルが時の女神と時の八源厄災を殺した。


 俺の頭の中にはラルムのその言葉がずっと響いていた。

 どうゆう事だ…?なんで殺したんだ?


「…ノアの故郷はって言う星なんじゃよな…?」


「…!?」


 何故フェルが、地球のことを知っている?俺はフェルと出会ってから1回も故郷の話はしてない。


 何故…?


「あ、あぁ。そうだ」


「やはり…、我はなんて事を…」


「おい!どうゆう…」


「ちょっと!うるさいよ!!」


 声のする方へ視線を向けると、ジェンドマザーが両腕を上げて頬を膨らまして怒っていた。


「…我は少し、出かけてくる。朝までには戻る」


「あっ…」


 フェルはフェルリルの姿になって、森の木々を伝って遠くに行ってしまった。


「え?どうゆうことなの?」


「…分からない。けど、明日のためにとりあえず寝とかないと…」


「え?うん、そうだね?でも君達の話し声のせいで起きちゃったよ?」


 俺はジェンドマザーを無視して何とか心を鎮めて、眠りについた。


 そして、朝。

 そこにはいつも通りのフェルが木の上で見張り番をしていた。




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