第154話 やはり人間

 フルティエは2回戦目に勝ってトーナメントを上がってきたA+冒険者を瞬殺してのけた。


 そして、3回戦を勝ち上がったノヴァ・スタークと4回戦を勝ち上がった俺との戦いが今始まろうとしている。


「相手はあのノヴァ・スタークとはねぇ…。ノアは勝てると思う?」


「あら、愚問ね。ジェリーももう分かってるんじゃないのかしら?」


「ふふ、やっぱり信じちゃうよねぇ。いや、そう思わされるほどに強烈だからねぇ。彼は」


「えぇ、あの文字通り「最強」の男にどう立ち回るか気になるわ」


 これから起こるであろう世紀の戦いを前に考察を深める2人であった。


 ―――


「最強、だったんだってな」


「えぇ、だいぶ昔のことですが」


 その老人は老人と呼べないほどに肌は若く、筋肉は衰えずにいた。

 先程の戦いを観察して、恐らく反射神経や瞬発力などの年齢の増加と共に衰えるであろう能力でさえ、衰えていないように感じる。


「…貴方はそれを凌ぐ史上初の「3冠」を獲得しました。私の若い頃と比べたら貴方の方がお強い」


「若い頃に比べたら?」


「えぇ…」


 その歳で、俺に勝てると。

 そうこの老人言ってるんだな。

 ノヴァ・スターク、それは過去の栄光が強すぎた為に、未だに光っていると勘違いしているだけだ。


「そんな自信満々なあんたを俺が一瞬のうちにしてダウンさせる手段を持ち合わせていたとしたらどうする?」


「ははっ、私が対処出来ずに瞬殺などありえません。番外戦術ですか?私には効果はありません」


「ははははっ」


 俺の乾いた笑い声が、コロシアム上に響いた。

 互いの息遣いが聞こえてしまうほどに、意識を集中させていく。

 2人の間合いにはまるで稲妻が走っているかのような重い空気感に観客も声が出ない。


「では、両者構えて…」


 意識が、より鮮明に、より鋭くなるのを感じる。

 今ならなんでも出来る、そんな万能感が俺を満たす。


「始めッ!!!」


 その言葉を合図に俺は限界突破・雷リミット・ビュート電光石火スピードを発動させ、更に空中に追尾水銃ホーミングガンを30個連続で発動させる。

 その全てがノヴァに向かって方向を調整し、突撃を開始し始めた時には俺はそれらの水玉と同時に移動を開始する。


 そして限界突破・雷の恩恵を受けた俺は時間にして、開始1秒でここまでやってのけた。


「まだ甘い」


 だが、研ぎ澄まされた刹那の時間、ノヴァの声がそう聞こえた。


 分かっている。

 これじゃ足りないってことは。


 だから…。


賢者の大結界ラリアガロテクス


 賢者の大結界をコロシアムの舞台を囲うように出来ている観客席全てを覆うように張った。

 これで、被害の心配はない。


「纏うは雷…」


 空間収納から零主還藤を取りだし、雷属性を付与させる。

 ギラギラと雷を迸らせる妖刀は、鞘へと戻戻すと同時に構える。


「手足が切断されても文句は言うなよ」


 30個もの追尾水銃がノヴァに殺到し、土煙をあげる。

 だが、最後に見えたノヴァは無表情であり、この状況に全く焦っていなかったように見えた。


「…今は信じるのみだ…」


 雷の如く迸った軌跡は、一直線にノヴァを目指して描かれる。


雷之軌跡スラーク・ゼロ


 バシュンッ!!!


 とてつもない音がコロシアムに木霊する。

 誰もが思った…、あのノヴァが敗退するのかと。


「くっ…」


 だが、そのうめき声は。その声は。


「…なかなかいい一撃でした」


 ノアのものであった。


 ―――


「あの攻撃を見切るなんて、やはり最強は最強、と言ったところだねぇ…」


「えぇ、私なんて最初から最後まで何も見えなかったわ」


 今現在、ノアは零主還藤を杖代わりにして何とか倒れずに立っているが、足が震えており、瀕死であるとわかる。


 そして、肝心のノヴァだか、彼もまた「左腕」を失っていた。


「だけど、代償なしではあの最強も受けきれなかったみたいね」


「えぇ…」


 2人はその試合を食い入るように見ていた。

 そして、また観客さえも誰一人も欠かさずその戦いの結果を待ち望んでいたのだった。


 ―――


「やはり、3冠…。そこら辺の冒険者とはわけが違う。レベルが違う、技術が違う、持ち合わせている才能も違う…。紛れもなく天才でしょう。だが、私も同じように天賦の才を貰い、そこから人生のほぼ全てを才能に注ぎ込んだ。経験値の差…、これさえなければ貴方は勝てていたでしょう…」


 目の前にいる少年は、私の右手による手刀をモロにくらい、刀を杖代わりにして倒れないように震えている。


 今の一撃…、A階級魔物ですら1発でやられるのに、この少年は耐えたのだ。


 魔法による肉体のダメージ削減か、生まれ持った体の耐性か…。

 どちらにせよ、すごいのは間違いない。


「だから、降参を」


「絶対に嫌だ」


 少年に視線を合わせる。

 そこには震えていたあの少年はいなくなり、巨大な刀を手に持ち、堂々と立っていた。


 そして、少年は無造作に剣を振り下ろした。

 これは…、剣術部門の時に行った不意打ちの斬撃を飛ばす技だろう。


 私は警戒しながらもその動きをしっかり観察して、避けた。


 …はずだった。


「グハッ…、何故…」


 確かに避けた。確かに避けたはずなのだ。


 なぜ…??


 私の服からは斬撃を食らった後から血が滴り落ちてくる。

 自分の血など見たのは何年ぶりだろうか。


 そして、また少年は無造作に剣を振り下ろした。


「来るッ!」


「来ない…。やはりあんたも人間だな」


 私の読みは外れて、どこにも斬撃は飛ばなかった。


 そして、私の意識がノアの方に向いた時には遅かった。


 何故なら、零主還藤は私の目の前に投擲されて迫っていたのだから。


「グゥッ…」


 脇腹に深々と零主還藤が突き刺さるのが分かった。

 その瞬間、意識は深い闇にほおり投げ出されたのだった。

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