第155話 「本気」
「…確か、リンジェフが持ち主の思いが伝われば剣はスキルを持てる、と。そういうことなのか?なぁ、零主還藤…」
俺は医務スタッフに運ばれて、医務室に来ていた。
今はノヴァに攻撃されたところはヒールで癒したが、安静にするために少し休憩しているのだ。
次の試合はフルティエだが、フルティエにも少し待ってもらっている。
申し訳ないと思っている。
「まぁ、剣は喋れないもんな」
俺はそう言って零主還藤を見つめる。
戦っている最中から、なにも見た目は変わっていなさそうだが、スキルを得たのは確かだった。
俺が斬撃を飛ばしたら、ノヴァは当然のようにそれを避けた…、はずだった。
だが、その斬撃は一瞬消えたかと思うと、ノヴァに当たっていた。
多分軌道変更とかそんなチンケなものでは無いと思う。
なにかもっととてつもない…。
「…しかし、君の回復魔法には驚きました。いや、あれは回復魔法では無くて、噂の神聖魔法…ですかな」
突然、隣から声が飛んできた。
隣を見るとノヴァ・スタークが横たわっていた。
その左腕を完璧に復活させて。
「俺は魔法が好きだから、神聖魔法も覚えようと思ったんだ」
「ふむ、追求心は人を強くさせます。先程は経験値の差で負けたと言いましたが、君は私にはなかった追求心があったのでしょうね」
「………」
追求心、か。確かに、そうかもな。
「…じゃあ、俺はそろそろ」
「えぇ。先程は本気で殴ってしまって申し訳ないてす。君の活躍を期待してます」
「ありがとう、ノヴァ・スターク」
俺はそう言うと医務室を出て、コロシアム上に向かうのだった。
―――
「物足りなかった、か」
「すみません。正直、そう思ってしまいました」
舞台上で言葉を交わすエルフと人間。
ふたりの関係性を知るのは観客にはいないだろう。
「ノヴァ・スターク…、私も戦いたかったですが、私では負けていたでしょうね」
「あぁ、俺でも負けそうだったからな」
「…ふふっ、ノヴァ以上の接戦を繰り広げますので、どうかお覚悟ください。ノア様」
「あぁ。それでいい」
2人は定位置に着く。
緊張感が辺りを駆け巡る。
「では、両者構えて…。始め!!」
―――
チェリアはその日、人生で1番の感動や喜び、悲しみ…、感情の全ての頂点を味わったと感じた。
目の前では、自分を助けてくれたご主人様のノア様と常に剣の鍛錬を見てくれていたフルティエが「本気」で戦うのだ。
フルティエの性格からして、ノア様に手加減をするはずがない、とチェリアは思った。
それをすれば逆に失礼であると察していた。
「両者構えて…。始め!!」
「あぁ…」
口に出た言葉は、戦って欲しくない、という感情が籠った声だったが、心の中では「どっちが勝つんだろう」と好奇心が湧いて、自分を殴りたくなる。
「がんばれ…」
その声は観客の歓声に掻き消されるが、チェリアは応援を続けた。
「どっちもがんばれ!」
―――
さて、フルティエとの試合だ。
フルティエは確かに万能でなんでも出来るが、その「本気」を俺は知らない。
「どう来る…」
「ふふっ」
フルティエは空間収納から数本のナイフを取り出して、それらを投げつつ、魔法を放って弾幕戦を繰り広げる。
(あいつ、いつの間に空間収納なんかを…)
俺は少し嬉しい気持ちになる。
恐らく、うちの八源厄災の誰かから教わったのだろう。
俺に絶対に勝ちたい、という思いが伝わってなんだか嬉しくなる。
「ノア様に勝ちを譲りたい…。だけど、ノア様の気持ちに応えたい…。私は今そんなに不安定な心の状態に置かれています…。いえ、それだけじゃないかも知れません。他の女の子を連れてきたり、剣の訓練をたまにしか付き合ってくれなかったり…、それらが全て今私の心に押し寄せているのかも知れません…。なのに私は今、凄く、楽しいです…。だってノア様と戦えているのだから!」
おーう、感情爆発ってところか?
だが、フルティエの動きには一切乱れはなく、寧ろ隙が無くなっていくような気配さえする。
「…あまり時間をかけるとやばそうだなっ!」
俺はナイフと魔法の弾幕を
限界突破・雷を発動させたのにギリギリ…。
相当な弾幕密度だ。常人ではとっくに滅多刺しにされて、魔法の雨を食らっていただろうな。
「だが…」
俺は飛んでくるナイフを1つ奪い取ると、それを装備してフルティエの首元へ踏み込んで切りつける。
「私は剣が得意ですので…」
接触まで僅か数ミリ程度のところまで迫ったナイフはフルティエの右手に弾かれて、それと同時に俺の姿勢も崩れて倒れそうになる。
その隙を見逃さないフルティエは放つ準備をしていた魔法やナイフを全て俺に向かわせた。
「くっ…。はぁ!」
起動直前に1発ナイフを受けたが動かせないってほどではない。
俺は跳躍で距離を取り、戦況をリセットしようと考えて着地する…、が着地直前にフルティエのナイフが首元わずか数センチのところを掠る。
「クソ…」
俺は大賢者の結界の強度を上げて、更に距離をとる。
「着地すら許してくれないのか」
「これが私の本気ですので」
その声に少し俺は恐怖を抱いたのだが、それを振り払い戦いに集中をする。
視線を再びフルティエの方へ向けると、そこには何本か数えることが不可能な程に大量の魔法が空中に浮いていた。
「ノア様は恐らく考えて戦うタイプ…。ですので時間は与えません!」
それらが一斉に俺に向かって殺到したのだ。
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