第153話 上には上がいる

 俺はモニターを見ながら、対策を練っていく。

 そのモニターに映るのは白髪混じりの老紳士と大変恵まれた体型の他に類を見ないほどに巨体な獣人族との戦闘。

 一方的な蹂躙かと思っていたが、そうではなく老紳士の方が若干…、いや、かなり押している。


 モニターに映る観客を見てみるが、みんな俺の予想とは違い、老紳士が絶対に勝つと信じてると思われる歓声が響いている。


「あの方は、ノヴァ・スターク。かつて最強を冠しており、事実、S階級冒険者「最強」と呼ばれていた方です」


 俺の疑問に答えるように後ろからフルティエが答えてくれる。

 それより、こいつなんで俺の考えてることが分かるんだよ。


「つまり、通り名が「最強」…、だったと?」


「はい。冒険者街道を最速で駆け抜け、最年少でS階級冒険者になったようですよ」


 …そりゃあ、凄いな。

 俺が思っていたより何倍もヤバそうな老人だ。

 人生経験や戦闘経験から来る勘や行動の選択がずば抜けているし、最年少でS階級冒険者になった実力も兼ね備えている。


「…だが、そんな老人を打ち倒して「最強」になった奴がいるんだよな」


「はい。シドニスと言う名前の「戦王」呼ばれる人物です」


 戦の王、ねぇ。

 戦の王と呼ばれる程に強いなら興味が湧いてくる。


「すまないが、シドニスと戦うのは俺だ」


「…ノア様といえど、ここは勝負の場所ですからね。手加減は致しませんよ」


 …俺はフルティエのこういうところが気に入っているのかもしれないな。


 さて、出来る限りあの老人、ノヴァ・スタークを観察しておかなければな。


 ―――


 案の定、と言ったらあの獣人族には失礼かもしれないが、やはりノヴァは軽々と倒してトーナメントを進めた。


 そして、俺がここで勝てればノヴァと戦える。


「4回戦目!ノアVSイシュグリンド!」


「よろしくな、坊主」


 そう言って手を差し出して握手をしようと誘っているように、筋骨隆々の男は笑顔を見せた。


「よろしく」


「お、いいねぇ。俺を恐れていない顔…、久々に見たよ」


「はっ、どうやらクソ温いお湯にずっと浸かって生きてきたようだな」


「…威勢がいいな。最高だ」


 こいつ、煽りに耐性がないな。

 必死に抑えようとしているが、声が明らかに震えている。


「では、両者構えて…」


 フルティエにこいつの経歴を聞くのも忘れていたが、簡単に勝てそうだな。


「初め!!」


 さて、どうす…!?


 目の前に巨大な拳が迫るのを脳が一瞬で理解して、反射でステップを踏み、咄嗟に避ける。


「危ねぇ…」


 イシュグリンドは数十メートルある距離を一瞬で近づいて、俺の顔面を狙って拳を振り抜いていた。

 振り抜いた先には衝撃波が走り、地面を抉って凹んでいた。


「流石、3冠ってことか。今までだと、今のでだいたい魔物もも粉々だったんだけどな」


「ふぅ。そりゃあどうも。だけど、今の当てなきゃお前に勝ち目は無かったぞ?」


「…ははっ、1発食らわねぇと分からないようだな」


 その言葉と同時にイシュグリンドは駆け出した。

 身体強化の魔法を常に足や腕に維持して速度を落とさないようにしている。


 体にも微弱な身体強化の魔法が使われており、ある程度の攻撃を食らうことも予想して使っているのかもしれない。


「5連追尾水銃ホーミングガン


 だが、いくら速くしようと追尾する魔法を目の前にしてはどうしようもない。


 5発の水の玉がイシュグリンドの体を貫かんと、一斉に飛び出す。


「俺が魔法を対策している訳ないと思ったか?はっ、残念だったな…」


 迫っていく追尾水銃はイシュグリンドに近づき、一瞬消えた。

 だが、すぐにその5つの玉は出現し今度は俺に向かって追ってくる。


「リフレクションか。面白い」


 5つの水玉が俺に向かって一直線に向かってくる。

 イシュグリンドは身体強化の魔法を解除して、遠くで俺がどう対応するか観察するようだ。


 だが、そんなことをしている暇なんて試合にはないぞ。


「5連反逆の大鏡リベレクション


 俺の前方に出現したのは水玉用に大きさを変えた反逆の大鏡×5枚。

 全ての鏡が、その魔法の威力を上げて、ホーミングするという特性を維持したまま今度はイシュグリンドに向かって突撃する。


「リフレクションとはまた別の何かか?まぁ、いい。反魔法域アンチ・マジックエリア


 その途端、俺の体が急な重力に襲われる。

 いや、これは強化魔法が解除されたからだな。


 反魔法域とは、範囲内の対象に魔法の関連が一切使え無くなるという魔法だ。


 つまり今は、魔法が使えない。


「最初からこうすれば良かったぜ。肉体なら俺の方が上だ」


「…本当にそう思うか?」


「あぁ、体格差を見たら歴然だ。すまないが、勝たせてもらう」


 イシュグリンドのパンチが俺の顔の数センチ横を捉える。

 俺はそれを避けて、ステップで逃げようとジャンプをした。


「ははっ、これで終わりだ」


 イシュグリンドには俺は空中に浮いてしまった哀れな子供だと思っているだろう。


 だが、その傲慢や驕りが身を滅ぼす。


 空中にて俺は体を捻ってその勢いで俺を掴もうとしたイシュグリンドの腕に蹴りを入れる。


 一瞬、よろけたイシュグリンドに着地際に腹にパンチを入れ込む。

 空中で踏ん張りが効かないが、ダメージは入っただろう。


 そして、着地後、俺は立ち上がる動作に足での薙ぎ払いを組み込んで、イシュグリンドを転ばせる。


「どうだ?脳は処理しきれてるか?」


 空中に投げ出されたイシュグリンドは上から俺の強烈な拳を食らって、地面にめり込んだ。


「勝者、ノア!!!」




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