第152話 過去の悪と全てを読む力

 人々が命を燃やし、戦い続ける戦場に1人、こちらに近づいてくる者がいる。

 その者は右手には身に覚えのある短剣が構えられていた。


「お前は…」


「お、俺の事を覚えていたかぁ?そうだよ、アルガだ」


 俺たちが潰した「薬毒牙」がという組織の幹部の1人、「死奪」のアルガ。

 俺たちがボスの相手をしている時に、どこに行ったか逃していたんだっけか。


「何をしてんだ?こんなところで」


「はっ?決まってんだろ、優勝だ。優勝したら10年は裕福な暮らしが出来るレベルの大金が舞い込んでくる」


 あー、確かにそうだった。

 各部門賞金が設定してあったな。

 俺はもうそんな大金すらも端金になってしまい、フルティエに渡していたっけか。


「そうか。ならなんで俺に食いかかる?」


「は?舐めてんのか。あの組織を潰したのがお前だからだ。あれでもかなりの大金は稼いでいたんだぜ?それを潰した奴がいりゃ復讐するのが俺のやり方だ」


「…だが、お前。ボスがやられて逃げ出していたよな。そんな奴が俺に勝てるとでも思っていたか?」


「俺はある人に鍛えてもらったのさ。たまたま出会ってなぁ。そこから数ヶ月だったが鍛えに鍛えた。そして、前よりも更に強くなった。お前がこの混戦の中、傷1つ無いのは想定外だったが、もはや関係ないな」


 やる気満々って感じの目付きで、俺の事を睨むアルガ。

 しかし、ある人って誰だろうか。アルガレベルの実力を鍛える人なら相当な強者だろうな。

 俺でも知ってる人かな。


「何考え事してんだ?そんなことしてたら…」


 その瞬間、アルガの体がぶれた。

 とてつもないスピードで駆け回っているようだ。

 この人混みの中よくそんなスピードを出せるものだ。


「死ぬぜッ!」


「まさか、お前…」


「グゴォッ!?」


 俺は残像すら残るほどのスピードでフェイントをかけながら近寄ってくるアルガをジャストタイミングで、顔を手でキャッチして地面に叩きつける。


「俺だけ停滞してるとでも思ったのか?現実はそんな甘くないぞ」


 その一撃で、アルガはダウンした。

 このまま放置しててもいいだろうが、俺はアルガの体を持ち上げて、結界の壁際に持って行った。


 ―――


 混戦の中、時間は流れて1時間ほどが経った。

 そして、1人が力尽きて地面に倒れ伏した。


「ここで!なんと!8名が決まりました!!」


 結界が解けて、明るい太陽の光が射し込む。

 舞台上に立っていたのはきっちり8人であり、目立った傷がないため、全員この混戦は楽勝だったのであろうな。


「ノア様!やりましたね!」


「あぁ、まぁな…」


 あのムキムキの白髪混じりの老人…、弱った人を狙って動いていたようだけど相当やり手だな。

 その老人が飛び抜けて強いが、他も相当強そうだ。


「では、抽選をさせていただきます!!!」


 こうして観客の歓声が鳴り響く中、抽選が行われていくのだった。


 ―――


「1回戦目は、フルティエVSハイト!」


 私は舞台上に上がり、対戦相手を見つめる。

 相手は人間で、歳で言うと30〜40代の若者…、いや人間だとおじさんになりそうな見た目で、武器は携帯していない。

 筋肉量やそういう点を顧みるに、魔法を中心として戦うようだ。


 しかし、S〜A階級の冒険者はほぼ網羅していると思っていたが、まだ知らない強者が世界に入るようだ。


「…転移者、というものを貴方は知っているかな」


「えぇ、それくらいの知識は」


「それが俺なんだ。転移者は奴隷になったあと捨てられるか逃げるかしないと自由になれない。俺は後者で、逃げ続ける日々を送っているから冒険者登録はしていない」


 …この人間、私の心を読んだのか?

 しかし、スキルの使用は禁止…。


「あぁ。だが、それを証明する者は誰もいない。すまないが、負けてもらうよ」


 そう言うと人間は話は終わりと言わんばかりに振り返り、自分の位置に着くと集中を高めている。


「………」


「では、両者構えて…。始め!!」


「………ッ!」


「喋らず、何も考えない作戦?意味ないよ。生き物は考えないと生きていけないからね」


 私は剣を持ちながら、ハイトに近づく。

 そして、足を狙うと見せかけて剣筋を跳ね上げて、肩から先の腕の切断を狙ったが、それらを全て分かっていたかのようにの動きで躱す。


 なるほど。


「ははっ、なにがなるほど、なんだい?貴方に勝ち目がないことが分かったってこと?」


「いえ…」


 私はまた同じ、ハイトに近づく。

 剣には炎を纏い、体には身体強化の魔法を行使する。


「決めに来た?流石にそれは当たる不味いかもね!でも当たらないよ」


 この一撃で人間の体は塵を残すことなく、跡形もなく消え去るだろう。


「…ッ!煽ってんのか?」


 ふふっ。

 もし…、もしも、この一撃が当たれば貴方を待つのは「死」。


「…クソ、落ち着け。必ず避けられる。俺は他人の心が読めるのだから…」


 剣が届くまであと数秒に迫った時、私は1つ魔法を唱えた。


女神の浄化オール・ハーシール


 そこでハイトは絶望じみた顔をする。


 その理由は…。


「よ、読めない!!??なぜ…!!」


「やっぱり…。それはと認定されるのですね。では、来世で会いましょう」


「死…!」


 そこで、私が剣を振る前にハイトは口から泡を吐いて倒れてしまった。


「勝者!フルティエ!!」


 私は剣を仕舞うと、退場して行ったのだった。





 ―――

 女神の浄化オール・ハーシールは自身に起こっている他者からの害意全てを一瞬無効化するという魔法。

 ノアから神聖魔法の扱い方をフルティエは学んでおり、神聖魔法をある程度使える。


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