第151話 総合部門
王戦祭4日目、総合部門において「最強」に君臨している男がコロシアムに先行していた。
「今年も使わせてもらうぞ」
早朝の誰もいない、静寂が辺りを支配するコロシアムで「戦王」の声だけが木霊した。
戦王は数時間後に迫る総合部門の為に、訓練を始めたのだった。
―――
総合部門とは、言わばなんでもやっていい制限が無くなった部門である。
ほかの部門のように必要とされる技術が少なく、自分の得意分野で戦える為、総合部門は参加者が多いことで有名だ。
だが、なんでもありという訳でもなく、スキルや相手を即死させるような大魔法は使用禁止となっている。
「フルティエは自信はあるか?」
「はい。なんとしてでもノア様と戦いたいのでノア様以外の負けはありえないです」
「…そうか。まぁ、俺もお前と当たることを楽しみにしてるよ」
フルティエと雑談しながら、コロシアムへ入場する。
既にかなりの参加者が集まっていて、試合前だと言うのに選手の目はギラギラと燃え盛ってやる気満々といった様子だ。
「参加者は50人程度。あまりに多いため、残り8人になるまでバトルロイヤル形式で戦い、そこから抽選でのトーナメントとなるようですね」
「なるほど…」
まぁ、俺はあまり狙われないだろうな。
なんたって3冠を獲得してるしな。
「さぁ、選手が集まったところで早速始めよう!バトルロイヤルだ!」
そう拡声魔法で響き渡る声が聞こえた瞬間、舞台上は結界に囲われる。
なるほど。
逃げれないようにするのと、観客に攻撃が飛ばないように配慮しているのか。
「さぁ!いよいよ始まるバトルロイヤル!では、参加者の皆さん…、構えて…。始め!!」
その掛け声とともに全ての選手が入り乱れて、混戦状態となる。
案の定俺の周りには人はやってこないし、寧ろ避けられているな。
「あは、いたいた!ノアッ!」
この声は…。
俺は突撃してきた拳を回避して、距離を取り体制を立て直す。
「ダリア…」
「そうだよー?なんでもありでノアと戦えるなんて最高じゃん!」
ダリアがそう言って手のひらを翳す。
魔力の昂りから察するに上級魔法か。
「そう言えば、魔力量も高いんだったな。いいぜ、真っ向勝負だ」
2つの上級魔法が相殺し合い、爆発を起こす。
バトルロイヤルは始まったばかりだ。
―――
私は基本的には戦わず、戦闘の影に隠れながら、移動を続けていた。
こんなところで体力を消費するわけにはいかないのである。
このまま、8人になるまで逃げるつもりなのだが、そうは問屋が卸さない。
「…お前、あのノアと一緒にいたよな?」
混戦の中でも鮮明に聞こえる声が、私の耳に届いた。
なにか不気味な気配を感じて、距離を取る。
「あ、ミスった。動かないでよ」
「貴方は…」
私の目の前にいるのは黒いフードを被った少年であった。顔は見えないが、長い耳がフードの外からでも確認出来るのでエルフだろう。
「ウォーキンド…」
「あら?俺の名前知ってるんだ。まだB階級だから有名じゃないと思ってたのに」
「ふっ、階級は数年前に止まってるじゃないですか」
この少年、ウォーキンドは数年前人を殺して指名手配にされていた。
だから、そこで階級は止まっているが、実際はA階級冒険者を殺している為、少年ながらに王国から危険人物認定されているのだ。
「よく、このセキュリティの中、エントリーしてここまで入れましたね」
「あぁ、たまたまね。それよりお姉さんは強いのかな?試してみるね」
「ふっ、子供相手に負けるわけ…!?」
目の前にいたウォーキンドが、いきなり消えて姿を消す。どこに行ったのだろうか。
「驚いた表情を見せるなんて…。戦闘の基礎からやり直したらー?」
そして、突然後ろから声がする。
そう認識した私は一瞬で振り返り、ウォーキンドの腕を掴んで地面に叩きつける。
「なっ、なんでバレた!」
「ノア様と一緒に行動している私が、貴方がどう行動するか分からないわけないですよ。驚いた顔にニヤついちゃって…。魔物相手には「次」はないんですからしっかりしてくださいね」
私は地面から立ち上がろうとするウォーキンドの首筋へと手刀をして気絶させたのち、体を結界の壁際に持っていくのだった。
―――
筋骨隆々の白髪が混じった髪の老紳士が、舞台上を駆け回る。
老紳士は瀕死になった選手に的確にトドメをさして、人数を着実に減らしている。
そんなことをしながらも老紳士は考えを巡らす。
私がシドニス様に挑みたいが為に、本気で戦うことを許してくれ。
取り敢えず、気絶させていって人数を減らそう。
老紳士はその目的のために動く。
着実に選手を減らしながらも…。
―――――――――
※生き残り人数を6人から8人に変更しました。
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