第150話 邪道
末恐ろしいとはこの事だ。
15〜6年しか生きていないただの人間が、俺相手に手を抜いて戦っていたとは思いもよらなかった。
俺はそう考えながら、街を歩いていた。
王戦祭の熱冷めやらぬ王国は至る所で盛り上がり、夜の帳など関係ないとばかりに街の人の灯火が光り輝く。
しかし、四肢の欠損までもを回復させる神聖魔法も使えるなど前代未聞だ。
あの歳で神聖魔法を使えるとしたら神聖国にコネがあるとか…?いやいや、あの国だぞ?
そんなことはありえないだろう。
となると…。
そこで俺は半年ほど前に起きた神聖国の襲撃事件の記事を見たのを思い出した。
「はっ…、そういうことか」
私は自分自身で納得して、夜だと言うのに未だ明るい王国を理由もなくぶらつくのであった。
―――
心のどこかで「弟子にしてあげてもいいよね」、という上から目線の相手を見下したことを考えていた。
驕り、というのは実に怖いもので、強くなって得られるものであるはずなのだが、それを得ると自分自身を破滅へと導く。
その例に漏れず、私も今日少年に中級魔法でやられたところだ。
「最魔…、今となってはこの通り名も恥ずかしいわね…。通り名なんて勝手に付けられて勝手に廃れていく…。だから私が気にすることではないだろうけど」
ブツブツと呟きながらも、私はある場所へ向かっていた。
それは少年…、ノアの家だ。
弟子にすることはキッパリ諦めたが、関係を持つことは諦めていない。
なんなら弟子になってもいいし、序列が低い友達でもいいと思ってる。
だって、可愛いし、それくらいなら許容出来る。
「ノアはどんな家に住んでるのかなぁ。予想も付かないけど、意外と大きい家だったりし…て…?」
目的の住所に着くと、目の前には豪邸としか言いようがない家があった。
「えぇぇぇぇぇぇ!!」
―――
あの時の俺はどうかしていたと思う。
何者だ?とアルフィに言われた時に、何故か俺の前世を探られているような不快な気持ちになり、思わず魔法をぶっぱなしてしまった。
「何者なんだ、か」
無意識下でアルフィを攻撃したと感じていたが、それは嘘だったのかもしれない。
何者なのか…、分からない。
この異常な魔力は…、果たして人間か?
「なになにぃ?3冠になったんだから喜びなよぉ」
「まぁ、そうだけど…」
隣でジュースを飲んでパーティの楽しげな雰囲気で酔っ払っているのはジェリー・ドームだ。
ジェリーは急に家に来るなり、質問攻めしてきたので、一旦それら全てに適当に答えて落ち着いてもらったのである。
使用人たちは今日も今日とて俺が最強になることを信じて疑わず、パーティの用意をしていた。
ところどころ細かなところがアップグレードされており、同じパーティにはさせないといった感情が伝わってくる。
「ところでノアがランドニ・ジースと知り合いだとは知らなかったよぉ。しかも何か鏡の魔法を教えたんだって?私にも何か教えてよぉ」
「あぁ、ピエロ面の人…。確かに教えたけど…、あれは正直後悔してて…」
だって、ランドニさん俺が教えた魔法と俺の事を無茶苦茶周りに言いふらしてるからね!別に言いふらしたりしないでくださいね、とは言ってないが…。
お陰でこうして、ジェリーさんが家に押しかけてきたのだから、ランドニさんに金銭を要求しても受け入れられて当然だろう。
その前にあの人が善意で金銭を渡してきそうだが…。
…そんなことはどうでも良くて、そろそろ帰ってもらわないと。
「ジェリー、もうそろそろ…」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「またかよ!!」
玄関を出て、庭の方に視線を送ると、そこには「最魔」のエルヴィ・リーヴが腰を抜かしていた。
「…入れ」
「え…?怒ってる?なんで?」
「いいから…」
この展開を3回も見せられる身にもなってほしいものだ。
俺はいつも通り、食堂に案内した。
「な、ジェリーがなんでここに…」
「あらぁ、だってエルヴィ1人だとナニをするか分かったもんじゃないでしょぉ?あ、でもボコられたから何も出来ないかぁ」
「ん?なにかするつもりだったのか?」
「ジェリー、貴方覚えておきなさい。そのお喋りなお口がなぜ軽率にそんなことを行ってしまったのか一生後悔させてあげる」
いやいや、怖いな。
この2人、情報だと仲良いなんて聞いていたが、そうでも無いのか。
いや、喧嘩するほど仲がいいってやつか?
「…ところであの中級土魔法ロックショットはどうしてあんなスピードと威力があったの?
「あー、ロックショットはただ単純に俺の込める魔力や集中力で威力が上昇したんだよ。感情の昂りとかで魔法は爆発的に威力が上昇することがあるだろ?あれと似たようなものだ。感情の昂りは邪道だが簡単で出しやすいが、その一時しか繰り出せない。込める魔力や集中力の方は正統法だが、難しい代わりにいつでも出せるって感じだな」
「なるほど…、でも私の魔法はこれ以上威力が上がんないような気がするけど…」
「ちょっと練習してみるか?」
「え!するわ!」
「ちょっとぉ、私もやりたい!」
3人はパーティそっちのけで魔法の練習に行ってしまった。そんな3人を微笑ましく思いながら、使用人たちは主役の居なくなったパーティを楽しむのだった。
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