第148話 楽しむ戦い

「5回戦目!ジェリー・ドームVSアデランス!」


 アデランス…、確か「怪魔」のアデランスだったかな。

 私の記憶では身体強化魔法を主にして戦うA階級冒険者だったはずだ。

 怪魔も「怪力魔術師」から呼ばれていたという記憶だ。

 そんな人物が、魔法だけの試合で戦えるのだろうか。


「紫炎さんが俺を気にかけてくれてるのは凄く嬉しいことだが、そんな無駄な心配で負けられたら俺は悲しいぜ?」


「あら、そんなことはないわよぉ。魔物相手だとは言え怪力だけでやってくには厳しいからねぇ」


 と、そんなことを言ってみたが、私の初手の最速の魔法をアデランスが防げるとは思えない。


「まぁいいわぁ。私は勝つだけよぉ」


「俺もそうだ。全力で行かせてもらうぜ」


 両者は位置について杖を構え、始まりの合図を待つ。


「両者、構えて…。始め!」


「はぁ!」


 私は炎の魔法を放った。

 恐らくアデランスは私を1発でノックアウトする手段を持ち合わせてはいないと思う。

 なので、様子見の火力に振った炎魔法を放つ。


 だが、アデランスは魔法を前にしても怯まず私の方を見て集中している。


 いや、私の後方を見ている…?


 私は何かを察知して、後ろではなく左にステップして距離を取ろうとした。

 その時、私の右頬ギリギリで何かが通り抜けて切り裂けて血が滴り落ちる。


「…危なかったぁ。これは、もしかしてノアの…」


「あぁ、トリックが分かったからな。簡単であり、奇襲性能も抜群で視線でしか気づかれない。紫炎さんはS階級冒険者だから流石の観察力で突破されたが…」


 私の不意に出た問いに解説をしながら、炎の魔法を躱す。

 その仕草は流石「怪魔」と呼ばれているだけの動きである。


「――それを乱戦でやられたら食らっちまうだろうな」


「くっ!」


 私が咄嗟に起き上がり、さらに距離をとる。

 先程、私がいた場所には何かが通り抜けた「ピシュン」という音が聞こえてきた。


 私は距離を取って、アデランスの視線を気にしながらも思考を巡らせる。


(…何かを透明化させて放っている…?だが、透明化の魔法は理論が難しく、簡単ではない。そもそも、後方から魔法を放つというのが私には理解が出来ない。何をやっている?)


「S階級冒険者の勘って奴か?まあ、いつかは当たるだろ」


 …その言葉を聞いて、何か私の中の何かが吹っ切れたのが分かった。

 それはトリックが解けなかったことへのプライドが傷ついたからなのかもしれない。


「…はははは!」


 あー、何やってるんだろ!私!

 こんな小細工なんて私には効果ないわ!


 だって、私S階級冒険者だし。


「どうした?気が触れ…」


「ド派手な魔法でぶっ飛ばしてやるよぉ」


 私の体を真っ赤な紅蓮の炎が包み込む。


 その炎は怒り。

 その炎はプライド。

 その炎は情熱。


「――そんな小細工な魔法では私を倒せないことを教えてあげる」


「お、おあぁぁぁ…」


全て燃やし尽くす赤プライド・フレイム


 渦巻く炎は力を増してアデランスに直進して行く。

 迷うことなく、ただプライドを傷付けられた腹いせを行うために、炎はアデランスを燃やし尽くした。


「…!勝者、ジェリー!!」


 ―――


「流石S階級冒険者ってところか。俺の予想は結構間違ってたっぽいな」


 俺はブツブツと感想を呟きながら、舞台上に上がる。

 相手はあの偉そうなエルフ…、名前は確かアルフィ・リボードだな。


 反対の登場口から出てきたアルフィは何故か俯いて歩いている。


「どうした?風邪か?」


「違う。そもそもエルフは自然への適応力が高いから風邪などかからん」


「ふーん、エルフって凄いんだな」


 …ふむ、何か考え事をしてるのか?

 まぁ、いいや。

 俺には関係ないし。


 ただ、勝つだけだ。


「では、両者構えて…。始め!!!」


「おっ」


 アルフィも俺も魔法を放たなかったことで、コロシアムはシーンと静かになる。


「あのトリックなんだが、もしかして空間魔法を使ったのか?」


「…!」


 …どうやら意外とみんなのレベルは高いのかもしれない。

 あのアデランスとかいう選手も俺のやり方を丸パクリしていたしな。


 これは俺も手を抜いたら相手に失礼かもしれないな。


「気が変わったよ。本気で行く」


「そうか。もとより俺も本気で行く予定だったが…、相手をしよう」


 まずは小手調べの3連追尾水銃ホーミングガンだ。


「くっ、ホーミングする魔法か」


 アルフィはある程度逃げて、無限に追いかけられることを察したのか、腕を身体強化の魔法で強化して受け流した。


(上級魔法を派生させた魔法だから割と威力はあると思うが…。アルフィの身体強化の魔法の練度や集中力がかなりずば抜けているっぽいな)


「今度はこっちから行かせてもらぞ。ライトニングスポット」


 そう唱えた瞬間、上空から俺目掛けて雷が降ってきた。

 これは上級雷魔法で、対象目掛けて雷を落とす魔法だな。

 動き続ければ当たらないだろう。


「俺の体力が無くなるまでやるつもりー?」


「ふん、煽り上手が」


 さて、次はどう来る?

 接近して魔法を放つ?

 遠距離で魔法を撃ち続ける?


 …そう来るか!


 アルフィは足を身体強化の魔法で強化して、素早く動きながら、上級魔法を撃ち続ける。

 ライトニングスポットでの半自動的なホーミングする雷魔法の連打と優れた身体強化魔法で常人では不可能な動きをしつつの各種属性の上級魔法での弾幕。

 アルフィも俺も動き回っているから、絶妙に被弾するタイミングがズレて防ぐのがやっとだな。

 さて、ここでアルフィのスタミナ切れ、魔力切れを待つのが最善だろうが、あえて俺はここで動くぞ。


「ここだっ!」


 魔法の中で最速の雷上級魔法を放つが、身体強化で動体視力も向上しているのか、余裕綽々で避けられてしまう。


「ふっ、もっとちゃんと狙えよ」


 くっそ、煽り上手はどっちだよ…!


 …あ、俺今凄く楽しい。

 この世界に来てからまともに魔術師と戦ったことないから、こういう戦いは新鮮で楽しいな。


「まだまだ行くぜ!!」


 俺の魔法とやる気のボルテージはどんどん上がっていくのだった。

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