第147話 パフォーマー
「ふむ、なるほど…。何故あんな決着を急いでるのかは何となく分かるな」
つまり、同レベル同士の魔術師の戦いは両方とも遠距離を使える為、守りに回りたくなる。
だが、それをすると持久戦に持ち込まれる為、魔法使いとしてどちらとも不利になるから、短期決戦で始めの合図と共に魔法を放ち、試合をゴタゴタする前に終わらせるのか。
ひと通り選手の行動を観察して、それに対する理解を深めたところで、俺はかなり絶望した。
「思っていたより数倍酷いな…。そもそもこんな試合見せられてたら俺の気が収まらない。期待していただけに残念だ」
「ふむ、随分な言いようだな」
ブツブツと呟いていたのを聞かれたのか、いつの間にか控え室に入っていた選手に話しかけられた。
後ろを振り返ると、男のエルフのようで耳が長い。
エルフというのは男でもとてつもない美形で、短い金髪がエルフという存在の特別感を増している気がする。
「…あんたは?」
「あんた…か。俺のことを知っての物言いか?」
まるで自分を知らない方がおかしい、自分を知らない奴はいない、というような喋り方だな。
有名なエルフか?
「…本当に知らないようだな。世間知らずなお前に聞かせてやるからよく聞け。俺はアルフ…、ちょ!どこへ行くのだ!」
喋り方からしてどこぞの偉いエルフなんだろう。
関わったら確実に面倒だ。
観客席からイミテスゴーストで変装して、観戦するか。
俺は偉そうなエルフを置き去りにして、控え室を後にしたのだった。
―――
4回戦目、私は観客席の1番前を陣取り、集中してその様子を見ていた。
コロシアムの登場口から出てきたのは黒いローブに黒い帽子の2冠を獲得した少年、ノアだ。
そして、対の登場口から出てくるのはこれまた小さな少女だった。
「さぁ、ノア。相手はあの歳でA-階級冒険者に登り詰めた生粋の天才、「雷進」のアハマだぁ。君はどう対処するんだろうねぇ…」
ノアとアハマは舞台上に上がり、互いに言葉を交わすことも無く開始の合図を待つ。
「おや…、ノアは杖を持っていない…?何故だぁ?」
その事にアハマも気づいたようで、ノアに不快と言う文字が浮き出してきそうな表情で何かを話していた。
(ふむ、確かに私も相手が杖を持っていなかったら舐められている、と感じるだろうな。だが、何かあるんだろう?…しかし、そういう他とは違うところが更に私を、観客を魅了するなぁ。さぁ、どうなるんだろう)
アハマが話し終えたのか、定位置に着く。
審判員が拡声魔法を使用した声でコロシアム内に行き渡るように合図をした。
「始め!!」
さて、アハマは魔術師同士の試合の定石通り、初手で雷魔法を放つ。
彼女は「雷進」の名の通り、雷のように魔術師界を駆け抜けて突き進むというところからそう呼ばれており、そして雷魔法が得意なのである。
「…!何故!」
ジェリーはノアの噂は確かに聞いていたし、剣の実力や知識は凄かったが、所詮魔法の実力はB階級冒険者レベルだと思っていた。
だから、定石通り「初手最速魔法」を放つと思っていた。
だが、実際はそんなことは無く、ノアは雷魔法が迫ってきているというのに何もしていない。
まさかアハマの下調べをし忘れた?
いや、そんなはずは無い。
だって彼は2冠なのだから。
魔法の試合の定石を分かっていなかった?
いや、モニターや観客席で今までに行われた1、2、3試合を全て見ているはずだ。
何故何もしない…。
ジェリーが「やはり噂は噂」とボソッと呟いたその時、雷魔法がノアに直撃した。
その光景にアハマは当たった、勝ったと喜ぶ素振りを見せた瞬間、倒れた。
「…は?」
ジェリーが魔術師になってから最大の混乱が、今訪れていた。
「何故…、予想も立てられない…。何をしたか、まるで分からない。こんなことは初めてだぁ…」
そして、雷魔法の爆発の黒煙が散ったそこにはノアが立っていた。
「まさか…、雷魔法を耐えたというのぉ…?」
みんなが思っていた。
先にやられたノアが負けであると。
だが、その予想は覆してノアは観客席に手を振って喜んでいた。
その瞬間、コロシアムが歓声によって盛り上がる。
何が起こったか分からない。
だが、彼は凄いのだと全員が理解した。
「凄い…」
ジェリーは思わず、その言葉が口から漏れたのだった。
―――
「このトリック、分かるやついるかなぁ」
俺は控え室に帰ってきて、椅子に座り自身のにヒールをかけながら呟いた。
(相手のアハマという子は初手で最速で魔法を撃ってくるんだろうなってのは何となくわかった。雷進なんて名前がついてるくらいだし、雷魔法なんだろうなぁと。そして、地面なんて一切見ないんだろうなぁと。案の定、アハマは後方不注意により呆気なく撃沈。スピードに振り切った雷魔法は俺への致命傷とはならず俺は生還)
「おい!お前!何をやったんだ?まさか不正じゃないだろうな?」
「あ、偉そうなエルフじゃないか。どうした、分からないか?」
「俺にはちゃんと名前がある!アルフィ・リボード、エルフの上級貴族だぞ!」
「知らねぇよ。少なくとも今の攻撃を不正なんて言うやつは俺から見たら下民と一緒だ」
「なっ…!チッ、確かにそうだ。考えるから待て」
お、なんだただの傲慢エルフかと思ったら魔法への探究心はしっかりとあるんだな。
(さて、気づくだろうか。俺が空間魔法で座標を目視でアハマの少し後ろに設定し、そこから小さい小粒程度の土魔法で創造した小石を後頭部に放ち、気絶させたことに。いや、気づかないだろうな。そもそも空間魔法というのが世間で一般的な魔法ではないからなぁ)
「ふむ…、アハマという子供がスピード重視の雷魔法を撃つと予測して、わざと食らい、黒煙の中から魔法を放った…?」
「それならお前だって気づくはずだろ」
「確かに、な…」
未だに使い手があまりいないマイナー魔法だから、少し意地悪が過ぎたかも。
まぁ、せいぜい悩んでくれたまえよ、エルフくん。
さて、次はS階級冒険者「紫炎」のジェリー・ドームが出る5回戦目だ。
観察させてもらおう。
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