第146話 最速の試合

「今日は…!魔法部門の試合だー!!」


「やけにテンションが高いですね」


「あ、分かる?」


「いや、分かりますよ。だってその格好…」


 現在ノアは自分の家にて、衣装に着替えていた。

 前日は確かにワクワクしていて楽しみだったノアだったが、本番になる急にテンションがぶち上がっていたのだ。


 そして、フルティエが指摘した衣装というのは、全身黒いローブに包んで、先のとんがった大きな帽子を身に付けているような、まるで魔女のような服を着ていたからだ。


「よくよく考えたら、自分自身で研鑽して、自分自身の魔法の正解、到達点にに辿り着いた乃至辿り着きそうな奴らが参加する戦いだぜ?これが盛り上がらずにはいられるか?いられねぇよなぁ!」


「………」


 1年間過ごしてきて稀に見るノアのハイテンションな姿に若干引きながらも、なにかに夢中になっているのはいい事だと感じるフルティエ。


「そんなわけで行ってくりゅ!!」


「は、はい…。私も観戦に行きますので後ほど…」


 のめり込むとこうも人は変わるのだと、驚いたフルティエであった。


 ―――


「王戦祭3日目だー!!盛り上がってるかー!!」


「「「「おおおおおー!!!!」」」」


「今日もあの男の名前がっ!あるぞっ!!」


「「「「おおおおおー!!!!」」」」


 途轍もない歓声がコロシアムに木霊する。

 一方、その歓声の原因である少年は廊下を1人、歩いていた。


(魔法部門エントリー数は8人か。7人分の試合が見れるなんて最高じゃないか)


「さて、もうすぐ抽選だな。行くか」


 ―――


「さ、流石2冠を達成した子ね…。観客の期待度が桁違いだわ」


 エルヴィ・リーヴは一足先に控え室のモニターを見ていた。

 誰よりも先に対戦相手を観察しておきたかったからだ。

 普段の癖や性格がその戦いに反映される者は少なくはない。

 その人の癖や性格を理解するのは対人戦において大事なことなのである。


「ジェリーはいつも通りね。この1年で何か習得してきた可能性はあるけど…。まだまだ私の方が実力は上だと思ってるから大丈夫だと…思う。その他の選手も私の目線からは気になるような実力者はいないようね。そして、問題は…」


 モニター上で、ようやく登場したその少年。

 歓声がより一層の強くけたたましくなっていく。


「…ノア。きっとジェリーも倒して来るでしょうね。あぁ…、楽しみだわ…」


 エルヴィは控え室で1人、ノアへの対策を練っていくのだった。


 ―――


 抽選は問題なく行われ、俺は4回戦目に出ることになった。

 ある程度、参加者を観察していたが、恐らくみんなレベルは相当低い。

 これは大変残念な結果だが、まぁ仕方ない。


 だが、その中で1人だけそこそこいいレベルまで来ている人がいた。

 名はジェリー・ドーム。

 S階級冒険者で「紫炎」という通り名がついている人だ。

 期待するのはこのジェリー・ドームっていう選手と、最強を防衛するS階級冒険者「最魔」のエルヴィ・リーヴっていう人だな。


 最強って名が付いてるんなら、俺を楽しませてくれよ…、頼むぜ。


 俺は自分の試合が来るまで、控え室にて待機することにした。


 ―――


「さぁ、2回戦目はジェリー・ドームVSラユマユラ!!」


「よろしくねぇ」


「ふんっ、馴れ馴れしい。S階級冒険者だからと言って私の前にはだかるのならただ倒すだけだ」


「威勢がいいねぇ」


 ふむ、この人はせいぜい「ユニーク」くらいだろうねぇ。

 このレベルだと確かに中途半端に自信を持ってしまう強さだろうかねぇ。

 ふふっ、私がそのプライドへし折ってあげようかぁ。


「ユニーク」というのはジェリー・ドームが勝手に他人のレベルを評価した値だ。

 レベルの段階は「レア」、「ユニーク」、「レジェンド」、「アルティメット」。

 武器や武具に付く等級を魔術師に当てはめた物であり、あくまでジェリー自身の評価である。


「では、両者構えて…」


 2人は杖を構える。


 この魔法部門は観客の間では最速の部門と言われている。

 魔法にはそんなイメージはないだろうが、初撃を逃したら、両者距離を取り持久戦に持ち込まれることになる。

 相手の魔力量が分からないのに持久戦に持ち込むのは両者共に精神的に不利な状況に自らを追い込むことになる。

 それを何とか阻止しようと、生まれたのが最初の一撃で相手をノックアウトするという戦法だった。

 それが良い事か悪い事か分からないが、魔法使いの戦いとは最速の初撃で倒し切るのがセオリーになっていた。


「始め!!」


「はぁ!」

「えい」


 両者、始まりの合図と共に魔法を放つ。

 ラユマユラは魔法の中でスピードに特化した雷魔法。

 ジェリーが放ったのは火力が高い炎魔法であった。


「炎!?馬鹿め!これで終わ…っ!?」


 魔法の速度はラユマユラの方が若干速く、ジェリーの魔法の方が1歩出遅れている。


 これは決まった!


 そう確信したラユマユラだが、目の前で自身の雷魔法が炎魔法に掻き消される光景が目に写った。


「スピードだけじゃ勝てないよぉ?」


 弾道がいきなり急カーブして、ラユマユラが放った雷魔法の弾道上に居座った炎魔法によって雷魔法は打ち消されたのだ。


「ぐっ…」


「勝者、ジェリー!!」


「喜んじゃったのが原因だねぇ。それさえ無ければ持久戦に持ち込めたのに。驕りはやはり身を滅ぼすよ?覚えときなぁ」


 魔法の弾道を無理やり変えるという荒業を見せたジェリーに観客は歓声を上げたのだった。

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