第145話 スキル×ソード

 やはりこの零主還藤れいしゅかんとうは異常だな。

 俺のずっと使っていた愛刀を一瞬で斬った悉漆一閃しつしついっせんを野菜のようにスパッと斬ってしまったのだから。


「しかし、良かったですね。あの結界で失格にならなくて」


「お、フルティエ。そうだな、俺も失格になると思ってたが、リンジェフ・サイバーが交渉してくれたらしい」


「リンジェフが…。確かに優しい性格ではありますが、そこまでするような人だとは思えませんでした。ましてや、敗北しているのに」


「まぁ、俺もリンジェフの真意は分からないな。取り敢えず失格にならずに勝てたんだ」


「えぇ、そうですね。今日もパーティーの用意は出来ていますよ」


「…まさか今日も準備しているとは…。用意周到だなぁ…」


「えぇ、使用人総出で明日も明後日も準備していますよ。最強になったお祝い、として」


 ふっ、なんだか嬉しいな。

 みんな俺が勝つことを信じているようだ。


「おい、ノア。早く乾杯の音頭を頼む。我は早く食べたいのじゃ」


「はいはい。じゃあ、みんな!乾杯!」


「「「乾杯!」」」


「うぉぉぉぁぁあ!!」


 …今度は誰だよ、家の前で驚いた奴は。


 ―――


 リンジェフ・サイバーは1人ギルドに来ていた。

 王戦祭の熱も冷めやらぬ為、ギルド内は数人しか居座っていなかった。しかもそのほとんどが酒飲みで、酔い潰れている。

 そして、リンジェフがギルドに来たその理由は彼…、ノアの情報を少し探ろうと思ったからだ。

 だが、冒険者というのは人に言えないような過去や経歴を持つ者が多く、あまり詮索をしては行けないという暗黙のルールみたいなものがある。


「すまない、ノアという冒険者の記録を見せて欲しいんだが」


「あぁ、リンジェフ様じゃないですか!分かりましたー!今持ってきます!」


 だが、リンジェフの好奇心はそんな物では遮られないと言わんばかりに、S階級冒険者としての権力を使いギルドの記録を手に入れる。


「はい、こちらですね。この方になにか用事が?」


「いや、少し気になってね。…ところで君は王戦祭剣術部門は観戦したかい?」


「いえ、今日は受付でした…。私も見たかったんですがねぇ…」


 リンジェフは自分で聞いたのにも関わらず、「そうか」と生返事をして、近くの誰も座っていないテーブルに座った。


「…B階級冒険者、名前はノア。歳は最近16歳に。経歴は…」


 ブツブツと声に出して記録とにらめっこをするリンジェフ。

 次第にリンジェフの顔は驚愕に変わっていく。


「…フロストベアの61頭同時討伐、それに特殊個体である巨大なフロストベアの討伐。そして、八源厄災、冥叶のアイタアルの撃退。アイタアルの方は情報が少なく不確かだが、大きな実績はこれくらいだ…。だが、この2つの質が違う。これ程までの実績を積み重ねて尚、B階級冒険者なのか…」


 更に続きを読もうとしたが、その記録はそこで終わっていた。


「冒険者になって約1年、ノアは殆ど冒険者の活動をしていないようだな。なにか彼の強さが分かるヒントがあればいいと思ったのだが…」


 そこでリンジェフは思いつく。

 簡単に知れる方法があるじゃないかと。


「本人に聞けばいい」


 リンジェフは階級が下の相手に教えを乞うなどあってはならぬ、などというくだらないプライドは持ち合わせていなかった。

 彼の心にあるのは「強くなりたい」という気持ち、ただそれだけだった。


 ―――


「今度はお前だったのか」


「あ、ノア!こんな豪邸に住んでるとは思わなんだ。びっくりしたぞ」


「いいだろ?入れよ」


「おう、そうさせてもらうよ」


 ふむ、なんか塀の奥に魔力が感知出来るな。

 この魔力は恐らく、あの人かな。


「…エレノーラも入るか?」


「えぇ?!バレた!けど私もお邪魔させてもらいます」


 俺は2人を食堂へ案内すると、フルティエが早速テーブルを用意してくれた。


「じゃあ、ひとまずは乾杯」


「「乾杯」」


 2人は喉が渇いていたのか、ジュースを一気に飲み干す。

 酒はチェリアが寝てからだな。


「…エレノーラに聞きたいんだが…。あ、別に答えたくないなら構わないが、あの閃光乱舞フラッシュ・ダンセントはどういうトリックだったんだ?」


「えぇ、別に秘匿にしておく必要はないから言うけど、あれは剣自体のスキルで空間移動って言うスキルだよ」


「は?剣自体のスキル?」


「うん、まぁ、信じ難いと思うけどね。剣もそうだけど武器や武具には等級があるのは知ってる?」


「なんとなくは」


 確か、武器の等級は「レア」、「ユニーク」、「レジェンド」、「アルティメット」がある。

 これは作った職人や素材によって変化する。これらは鑑定士に見てもらわないと正確には分からないが、基本的に武器の性能で等級が別れている。

 零主還藤は間違いなくレジェンド、またはアルティメット下位に入るレベルの性能はしている。


「私の使ってる剣はユニーク上位辺りの武器なんだけど、ある日スキルを身に付けちゃったんだよね」


「いやいや、どうゆう事?」


「まぁ、簡単に言えば持ち主の気持ちや感情が伝わったって感じだな。剣は付与魔法や身体強化の魔法で持ち主の魔力に曝される事が多い。その魔力を経由して持ち主のそういう感情を読み取り、剣は進化していく。恐らく、エレノーラの剣もユニークから進化していたかもな。ユニークの剣がスキルを使えるなんて聞いた事ないし、スキルが使えるならもうそいつはユニークに収まる器ではないしな」


 なるほど…。

 つまり自分の剣を使えば使うほど、持ち主の感情や気持ちを汲み取り、剣自体が進化していくわけか。

 …零主還藤は少々性能がイカれているが、それでもまだ「スキル」という進化先があるなら俺は見てみたいと感じた。


「…それで、空間移動というスキルは分かったが、それでもあの速さはおかしくないか?」


「…まぁ、確かにな。まさかお前さん…」


「えぇ、深夜のうちに忍び込んで移動する空間の座標を設定していました。リンジェフ様に対抗する為でしたが、ノアに敗れちゃいましたからね」


「「それありかよ!」」


「勝つ為です!規定には深夜に忍び込んで座標を設定しては行けないなんて書いてないですよ」


 この人、強いな…。と感じた俺であった。


 そして、その後、2人は俺に強くなる方法をせがんできた為、酒を飲ませて酔わせたあと意識朦朧の中帰ってもらった。


「さて、明日は魔法部門…。正直1番楽しみだ」


 俺は明日の魔法部門に思いを馳せながら、眠るのだった。







 ―――――――――

 12時投稿が出来なかったので少し長めです。


 エレノーラの剣、レジェンド下位の「一閃鮮烈」は空間移動というスキルを持っています。

 このスキルは事前に設定しておいた数箇所の座標を行き来出来るというスキルです。

 持ち主の魔力でその効果は変動するので、エレノーラはノア戦の時に十数箇所に増やしていました。


 エレノーラはこの技を魔物相手に使っており、その様子を影でひっそりと見ていたリンジェフに気づいていなかった…、という過去があり、結局のところこのスキルを看破していたリンジェフにエレノーラは勝ち目がありませんでした。

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