第141話 閃光

 ゲリアイアVSチェリアの1回戦目はどちらとも失格となった。

 ゲリアイアは素手での過剰なまでの追撃と両腕の損失によって失格となった。

 チェリアもスキルの使用により、失格となった。

 これは俺が運営にそう伝えたのだった。


 仮にあれがスキルの力ではなく、獣人族に眠る力的なやつでもあの状態で戦い続けるのは精神的にきついだろうし、またあの姿になってしまったら今度こそ悪い方向へ行ってしまう気がする。


 そんなこんなで、2回戦が今始まろうとしている。


 俺はというと観客席にて、使用人たちと観戦している。


「2回戦目はブリゲドVSエレノーラ!」


 1人は獣人族で、1人はエルフのようだ。

 …あのエルフ、格が違うな。


「両者構えて…。始め!」


 その言葉と同時に閃光が走る。


「…!勝者エレノーラ!」


 観客がエレノーラが何をやったか理解する前にブリゲドが地に倒れ伏した。


「異常だな」


「えぇ、彼女はA+冒険者「閃光」のエレノーラ。剣筋が見えないことで有名です」


 なるほど。

 とゆうか、今日はフルティエはいるんだな。

 誰かに留守番を任せてきたのだろうか。


「閃光、ね。確かに速かった」


「はい、私でもギリギリ追えましたが、速いのは間違いないですね」


 あの光速の一閃をフルティエは見えてたのか。

 流石はなんでも出来るエルフだな。


「さて、次は俺の試合だな」


「そうですね。頑張ってください」


 俺たちが一通り話し終えたあと、観客たちは何が起こったかを理解して、歓声がコロシアム中に響き渡った。


 ―――


「3回戦目!ノアVSゴンドール!」


 その声と共に観客たちが立ち上がる湧き上がる。

 自分で言うのもなんだが、この歓声が全て俺に向かっての事だと考えると嬉しい。


「随分と人気なようだな」


「あぁ、昨日のが原因だな」


 俺がそう返すとゴンドールは顔を顰め、分かりやすく悪感情を抱く。


「相当実力があるようだがな、剣術では勝てるとは思わん事だ。剣術は格闘技とはまるで別の戦い方が求められるのだから」


「あぁ、分かってる。分かってるからここにいるんだぜ」


「チッ、ガキが」


 そう言うとゴンドールは振り返り、元の場所に戻る。

 俺も同じように元の位置に戻り、剣を構える。


「では、両者構えて…」


 さて、どう倒そうか。

 エレノーラみたいに瞬殺も悪くは無いが、それでは折角来ている観客に2度も同じ光景を見せることになって申し訳ない。


 俺はそう考えて、空間収納から2本目の剣を取り出して両手に1つずつ持つ。


 その光景を見ていたゴンドールの顔が、怒りの頂点に達したようで、真っ赤に膨れ上がっている。


「始め!!!」


 その瞬間、ゴンドールが怒りに任せて突進してくる。

 俺はその姿を滑稽に思えて、クスッと笑ってしまう。


「コノヤロウッ!!」


 我武者羅に振り回す剣は更にスピードを上げて俺に向かってくる。


「まぁ、落ち着けよ」


 俺は1本を狙いをすませて投擲する。

 その剣は見事に剣と剣の間を掻い潜り、ゴンドールの腹に突き刺さった。


「と、思っていたのか?」


 だが、その剣をゴンドールは素手でのキャッチしてのけた。


「やるな。だが…」


 俺のもう一本の剣は的確にゴンドールの背中を切り裂き、鮮血が飛び散る。


「ぐぁぁあっ!」


「背中が疎かだぞ」


「勝者!ノア!」


 観客たちが沸き立つ。今のは理解しやすく、楽しめただろうか。

 俺はゴンドールにヒールを使用して、コロシアムから退場したのだった。


 ―――


「…あの回復魔法は何なのかしら」


「ヒールと聞こえたけど…、瞬時に回復したよねぇ」


 エルヴィ・リーヴとジェリー・ドームは今しがた始まった4回戦目を観戦しながら、例の少年…、ノアについて話し合っていた。


「貴方のヒールはあそこまで性能良かったかしら」


「…歴史的に見たら魔法使いとしてはまだまだ若輩者だけど、仮にも私はS階級…。あそこまでの性能は引き出せないねぇ」


 エルヴィは目の前で行っている4回戦目なんぞ、興味無いと頭の中で思考の海に潜っていく。


(格闘技には収まらず剣術や果てに得体の知れない超回復する魔法…。彼は一体何者かしら?それに加えて魔法部門にもエントリーしているのだから驚きだ。是非とも私の弟子にしたい…。いや絶対にする!)


「エルヴィ…、涎が…。それに顔がやばいよぉ…」


「あ、あはは。ごめんなさいね。ついつい…」


 初めて見る友人のその顔にジェリーは引いてしまった。

 顔が引き攣るジェリーと惚気顔のエルヴィ、やがてその瞬間を撮った写真は人気が出て複製され世の中に出回ることをまだ彼女らは知らない。


 ―――


「あ、れ…私…」


 チェリアは医務室にて意識が覚醒した。そして遅れて脳内に流れ込んでくる自身の恐ろしい姿。


 私が後悔のどん底に沈みそうになったその時、隣から声が聞こえてきた。


「あ、やっと起きた!」


 私の傍にはジェンドマザーさんがいてくれて看病してくれていたようだった。


「ありがとうございます…」


「いーよいーよ。私は見てただけだから。それよりも後でみんなにお礼をしないとね。取り敢えず今はあれを見た方がいんじゃないかな?」


 ジェンドマザーさんが指を指したその先には、モニターがあり、5回戦目が今まさに始まろうとしていた。


 …後悔するよりも先にやることがあるんだった。


 チェリアはそう感じ、体を起こす。


「ノア様…、頑張ってください…!」


 チェリアは魔力通信の首飾りエクスペル・ネックレスを小さな手で握り締め、モニターに集中するのだった。






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