第142話 付与魔法

 5回戦目はチェリアとゲリアイアの両者共に失格な為、エレノーラが戦わずしてトーナメントを上がった。

 そして、俺は6回戦目の為にコロシアム上へと上がっていた。


「6回戦目!ノアVSアギト!」


 俺が見てきた中でもかなり体格がいい筋骨隆々の獣人族だ。

 しかし、この大会は獣人族が多いな。

 獣人族はやっぱり血気盛んな奴らが多いのかもしれない。


「もはや貴方をただの子供だとは思いません。大人気なく本気で行かせていただきます」


「分かった」


 そう一言だけ会話を交し、始まりの位置に戻る。

 さっき剣術部門の規定を読んできたから「あれ」を使ってみようと思う。


「両者構えて…。始め!!!」


 その合図で俺は後方に跳躍して、相手の出方を確認する。相手はその場に留まり、こちらを伺っている。


 10秒、30秒、1分…。

 睨み合いが続いていたが、痺れを切らしたのか、アギトが警戒するように、だが、豪快に接近してきた。

 剣は自身の目の前に構えて、攻撃に何時でも対応出来るようにしている。


 どう崩していこうか。


 …「あれ」、行ってみようか。


「纏うは炎」


 俺は剣に魔法を付与した。

 司会の方をチラッとみたが、何も反応してないから本当に大丈夫なんだろう。


 付与魔法には付与された魔法を使用者が操れるという特徴が実はある。

 そして、剣術部門の規定を見た時は正直、目を疑った。

 それは何故か?この付与魔法の特徴である付与魔法操作はほぼ魔法と言っても過言ではないからだ。

 だが実際、あまり強くないから進んで使う人はいないだろうけど。


 俺の周りには10数本にも及ぶ炎が剣の形を象った複製が何個も浮いていた。


炎剣の踊りフレイム・ダンス


 対象の魔力を感知して自動追尾する炎の剣が一斉にアギトに襲いかかる。


「な!魔法使ってるぞ!!」


「規定上は問題ないらしいぞ!すまないな!」


「くそっ!!」


 最初の数本は撃墜することに成功したが、次から次へと来る炎の剣に為す術なくアギトは体を切り裂かれる。


「…勝者ノア!!」


「なんかごめん」


 ―――


「なるほど…、付与魔法操作ね。私も数本は出現させれるけどあの量は異常ね…」


 エレノーラはモニターを見ながらノアVSアギトの戦いについて考えていた。


 私は格闘部門を観戦してないから本当か分からないが、あのノアという少年は格闘部門でかの有名なS階級冒険者「血悪」のドバイザン・クルームを倒したのだという。

 格闘センスだけでも相当なものと見受けられるが、今の試合や前の試合を見て剣術の方も練度はS階級冒険者と遜色無いレベルのものだ。


「凄い、な。あれが才能か。私も才能があれば…。ううん、こんなこと考えてちゃダメだ。心を落ち着かせて」


 エレノーラは次の試合相手であるノアに勝つ為、精神を統一させた。


 ―――


 A+階級冒険者「閃光」のエレノーラ・ブルー。

 階級はノルザさんと一緒だな。A+とはあと一歩でS階級になれる冒険者階級だ。


 コロシアム上に上がってきたのは美形なエルフ。

 フルティエとタメを張るレベルの美人だな。


「なにを考えてるのかな?」


「…!」


 おっと、視線がいやらしかっただろうか。

 いや、俺がジロジロ見てしまうのはもう、そちら側が美形過ぎるのが原因だろ。


 断じて俺が悪い訳では無い。


「いや、特には」


「そう?」


 特に話すこともないので、俺は集中モードに入る。

 エレノーラの戦闘スタイルは先手で速攻片付けるタイプだ。

 逆に最初の一撃を防げれば、立ち回りにボロが出るかもしれない。


「…私があれよりさらに速度を上げれるとしたらどうする?」


 なに…?あれ以上速く移動が出来るのか?

 確かに、属性身体強化の魔法を使えば可能だろうが…。

 いや、使おうが使わないが俺はまず防御をして最初の一撃を受けるか躱すかしないとな。


「では…、両者構えて…」


 沈黙が流れる。俺の意識は更に鋭さを増して、敏感になる。


「始め!!!」


 来るっ!!


 そう思い、剣を抜いて防御したが衝撃はどこにも走らず何が起こったか分からない。


「意識し過ぎたね」


 声のした方に振り向く前に俺は無意識に魔法を唱えた。


(属性身体強化:雷)


 キィィン!


 刀身と刀身がぶつかり合い、火花を散らせた。

 エレノーラは不意打ちが失敗して、距離を取って様子を伺う体勢になる。


 危ねぇ…、まさかの番外戦術…。

 確かに、初撃に意識し過ぎて他が疎かになっていた。


「…今のを防ぐのね。君本当に人間かな」


「あぁ。俺はそう思ってるが周りには俺が人間じゃないと思ってない奴がいるみたいだ」


「ふふっ、なにそれ」


「さぁな、分からん」


「君、面白い…」


 最速で地面を蹴って、距離を詰めるエレノーラ。

 速度はもう既に一般人には追えないほどに加速している。


「ねっ!!」


「どういたしまして」


 俺はその一撃を何とか躱す。

 頬に閃光が掠れて、血が吹き出る。


「やっぱり、そう簡単には当たらないよね」


「あぁ」


 エレノーラは勢いを殺しつつ、地面を滑りながら俺との距離を取って着地する。

 エレノーラの魔力が昂っているのを感じとれた。


「なんかやる気か」


「うん、君に躱せるかな」


 すると、エレノーラの剣が煌びやかな光に包まれた。


 なるほど、ここからが本当の「閃光」の本番という訳か…。


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