第139話 剣豪
「さぁ!王戦祭2日目!盛り上がってるか!!」
「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」
爆音の歓声がコロシアムを支配する。
観客たちは前日のあの試合を見せられて、興奮は最高潮に上がっている。
だが、それだけが原因ではない。
なんと、今日は剣術部門であるはずなのだが、出場者欄には「ノア」の2文字が書かれていた。
あのとんでもない試合をして、観客の心を奪ったあの少年がまさか剣術部門にも…!そんな事で、コロシアムでは史上類を見ないほどに観客が興奮状態にあった。
「な、なんか怖い…」
そんな中、その光景を怖いと感じる1人の獣人がいた。
その手は若干震えている。
「なんだ、緊張してるのか?」
「は、はい!多分、すごく緊張しています…」
「なら、少し手合わせでもするか?」
「え!」
「ほら、まだ時間あるしさ。そんなんじゃ剣も握れないまま終わっちゃうぞ」
「…はい!お願いします!」
―――
人より少し身長が低い、オールバックの髭を生やした男が王国を堂々と歩いていた。
彼自身は身長は同族間で見ればそれ程に低い訳でもないし、寧ろ高い方ではあるのだが、人間と比べると身長だと少々劣る。
だが、彼はそれ以外だったら人間に劣るところはないと言いきれるほどに体を鍛えていた。
そして、彼が最も鍛えているのは…。
「あれってもしかして…」
「え!!そうよ!あれって!」
「あぁ、間違いない…!」
彼を見かけた人々が、次第に集まりだしザワザワし始めた。
「「「剣豪だ!」」」
そう、剣術である。
彼の人生は剣で出来ていると言っても過言ではないほどに剣と共に過ごしてきたのだ。
「あっ!リンジェフ様っ!!やっと見つけました!!」
「あら、エレノーラじゃないか。久しぶりだな」
「さっきぶりですよ!!」
ぷりぷりと怒りながら登場したのは、誰が見ても美しいと言うに違いない程に美形のエルフだった。
「とゆうか、リンジェフ様!もうすぐ剣術部門が始まっちゃいますよ」
「あ!忘れてた!ありがとう、エレノーラ。流石は私の弟子だ」
「私は弟子じゃありませんって!」
昨日たまたま馬車であった関係なのだが、周りの人々は既にこの2人が師弟関係だと勘違いしているようで、面白がって笑っている。
「あ、私も行かなきゃ…」
人混みを掻き分けてエレノーラはコロシアムを目指す。
ドワーフであり、S階級冒険者「剣豪」のリンジェフ・サイバーと、エルフであり、A+階級冒険者「閃光」のエレノーラ・ブルーの2人は剣術部門注目の的であった。
―――
「どうだ?体は
「はい!緊張も少し緩和したような気がします!」
ノアとチェリアは控え室にて剣術の手合せをしていた。
そのおかげでチェリアは少し緊張が解れたようである。
「なら、抽選に行くか」
格闘部門と同じようにコロシアムの中央に集まり、抽選にて対戦相手を決めていく。
剣術部門の参加人数は8人である。
「ん?あの人、凄く応援されてるな。チェリア知ってる?」
「あ、はい!えっと…、確か…」
「剣豪って呼ばれてるぜ?よろしくな」
チェリアがなかなか思い出せず、頭を抱えているとあちらの方から近寄ってきてくれた。
身長は俺より少し低いくらいだな、ドワーフ族のようだ。
「よろしくお願いします」
「おう!だが敬語なんていらねぇよ。しかし、お前さんもかなり人気のようだが?」
うん、確かにそうだな。
昨日の試合が原因か、俺のことを応援してくれている人がいるのがコロシアムの中心からでもわかる。
「互いに頑張ろうな」
「おう、上がってくるの待ってるぜ」
そう言うと、他の選手を少し見たあとにコロシアムから退場していった。
確か、「最強」は特別な控え室にて待機だったよな。
「さぁ、では抽選をさせて頂きます」
司会の方が、次々と試合相手を決めていった。そして、トーナメントが出来上がった。
俺はフードを深々と被った男と勝負で、チェリアは人間と、だな。
「では、1試合目はチェリアVSゲリアイアです!他の選手たちは退場をお願いします」
俺は剣術では特には鍛錬も必要ないと判断したため、観客席にイミテスゴーストの力を使って変装して、紛れ込んだ。
控え室のモニターでも見れるが、直接見た方が今後の為のアドバイスがより細かく出せると思ったから、観客席だ。
チェリア、頑張れよ。
―――
「…では、舞台は整いました」
司会がそう呟く。
そして、チェリアの数倍はあろうかという程の巨体を持つ男が、舞台場にあがる。
チェリアはノアと手合わせをした時以上に緊張していると自覚する。
(あぁ、手が震えてる…。なんで…)
そんなチェリアに向かって男は小さく司会に聞こえないように呟く。
「チッ、雑魚は帰れよ」
「ざ、こ…」
チェリアは基本的には怒らない性格だと自分でも思っているし、周りもそう思っている。
だが、チェリアは何故だがその「雑魚」という言葉に非常に不快感を覚えた。
それは恐らく、ただ見た目で判断されて、今までの努力を貶されたような気がしたからだ。
チェリアの体はもう燃える闘争本能に支配されていた。
怒りが込み上げてくるのを自覚する。
「…倒します」
チェリアはそう小さく呟いた。
手の震えはもう無くなっていた。
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