第138話 ラッキー

「あら、貴方は拳帝…」


「あ、先戦…」


 ダリアは王戦祭が終わり、夜色に染った王国をある目的地へと向かって歩いていた。

 そこでばったり「拳帝」のカットクスに出会ったのだった。


 だが、そこでダリアは不思議に思う。

 なぜこの道に拳帝なんかがいるのかと。


 それは同時にカットクスも同じことを思っていた。


「…そう言えば2人ともあの超新星にやられたわね」


 超新星…、恐らくノアのことだろう。

 確かに、それ程に輝かしく初登場を飾って、優勝までして「最強」に至ったのだ。


「えぇ、ノアは強いね。はっきり言って異常だよ」


 共感するようにカットクスは深く頷いた。

 2人とも同じことをノアに思っていたんだな、とダリアは微笑む。


「ところで、なんでこの道にいるんだ?」


「え?あぁ、ちょっと…。ノアと話がしたいなぁと思っただけよ。…ひょっとして先戦も?」


「その通り。輝かしく最強に至ったんだからお祝いを兼ねてお話を聞こうと思ってね。それと拳帝さんにも…」


「そう、だいたい予想はつくわよ。取り敢えずノアの家に行きましょう」


「…ギルドに聞いた?」


「えぇ、S階級冒険者じゃないと本当に情報制限がかからないわよね。どうかと思うわ」


「そうだね。さて、早く行こう。春とはいえ肌寒くなってきた」


 2人はノアの家をめざして歩き始めた。

 やがて、ノアの家に着いて2人はまさか豪邸とは思わず声を出して驚いたのだった。


 ―――


 王戦祭1日目、格闘部門が終わりを告げた。

 俺は格闘部門でドバイザン・クルームに勝利し、格闘部門最強へと至った。


 そのお祝いとして、使用人たちがパーティを開いてくれた。


「じゃあ、ノア様。掛け声を」


「おけい、じゃあ…。俺の為にパーティを開いてくれてありがとう!乾杯!」


 それぞれが好きな飲み物を手にして、大きな食堂でみんながみんな話し始める。


「流石じゃ。やはり人間最強はノアであろうな」


「うんうん。やっぱりそうだよね。ノアって異常だし!」


 全く、この2人はなんの話しをしてるんだか。

 確かに、人よりは多少は強いとは思うが、最強となるとそれは分からない。


「いやー、ノア様対ドバイザン!あの華麗な攻撃はまるでダンスのようで…」


「うん…!本当にかっこよかったです!ノア様!」


「あはは、ありが…」


「「えええぇぇぇえ!!!!」」


 俺の言葉を遮るように、家の外から大きな驚く声が響き渡った。


「ん?外からか?」


 俺が急いで外に出ると、そこには格闘部門に出場していたカットクスとダリアがいた。


「な、何してるんだ?」


「ちょっと!ノア!この豪邸はなんなのよ!」


「そ、そうだよ!びっくりした!」


 理不尽に怒られて、意味が分からない。

 何しに来たんだろうか。


「この家は王に貰った奴だ」


「王!?」


「もしかしてノアって結構有名人…」


 うーん、この2人ずっと驚いてて疲れないのかな。

 しかし、今日はちょっと肌寒いな。


「いいから早く入ってくれ。寒い寒い」


「あ、あぁ。上がらせてもらうわね」


「お邪魔します」


 2人を家に招き入れ、現在パーティー中の食堂へ案内する。


「みんなも見てたと思うけど、この2人もパーティに参加する。仲良くしてやってくれ」


 各自、返事をしてパーティに戻り再び騒がしくなる。そんななかフルティエがこっちに近づいてきた。


「…女たらし」


「え?なんか言った?」


「あ、いえ!なんでもないですよ!只今、お2人の机を用意しますね」


 フルティエはそう言うと机を移動させて3人の机を作ってくれた。


「…メイド服や執事服だけど、もしかして奴隷かしら」


「ああ。まぁ、俺はそういう視線は気にしないが、いちよコイツらには給料も支払ってるし、1人部屋も与えている」


「いいわよ、そんなの。奴隷は別に悪では無いわ。しかし、そんな高待遇なんて…、下手したら平民よりいい生活をしてるわね」


「そうだね。奴隷に対してここまでするのはノアくらいだね」


 雑談をし始めると、一気に時間が過ぎてやがて使用人たちの半数は部屋に戻って行った。


 ここからは大人たちによるお酒にて乾杯となった。


「しかし、ノアが属性身体強化を使えるなんてね…」


「拳帝もだよ。なんで最近発表された属性身体強化の魔法を使えるの?」


 話はやがて、今日の格闘部門の話へと話題は切り替わっていった。


「いや、私はそういうのがありそうだなぁと漠然的に思い描いていて、属性身体強化の魔法が発表された時に「イメージ」がもう出来てたんだよ。偶然ね、ラッキーだと思ったわよ。今年こそ行けるかもしれないってね」


「あら、そうなのね。それでノアは?」


 …うーん、これは俺が魔法学会に属性身体強化の魔法を提供したことを話してもいいのだろうか。


 …取り敢えず隠しておくか。


「俺もカットクスと同じようにその理論が頭の中に構想としてあっただけだ。俺もただのラッキーだった訳だ」


「ふーん…、そう」


 2人の視線がジト目になっている。

 疑ってるな、この2人。


「…Zzz」


「ねぇ!寝るなんてもう認めてるようなものだよ!」


 寝たフリをする俺にずっと愚痴を呟くカットクスとダリア。


 今日の夜はなかなかに長くなりそうだな…。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る