第134話 気づけるはずのない
ダークエルフのクレランスも中々やるようだった。
私にはそのトリックが分からなかったが、相当の実力者ということは理解出来た。
「3回戦目はダリアVSアカサタチ!」
「さて、私も魅せないとね」
「お前は…、ダリアか」
「お、私の名前を知ってる〜?嬉しいね」
「あぁ、お前はドバイザンが来るまで最強だった者だからな」
「…あは、そうだよ」
私の心の奥底から、あの日の負けの記憶が濁流のように脳に流れ込んでこようとする。
だが、私はそれを必死に押さえ込み、この戦いに集中する。
「では、両者構えて…。始め!」
先手必勝っ!
私はその司会の声と共に身体強化の魔法を行使して、一瞬のうちにアカサタチ選手に詰め寄った。
「食らいな」
私の拳は確実にアカサタチ選手を捉えて、当たった。
だが、何か…、感触がおかしい。
「効かないぞ」
私がその違和感について考えている一瞬の隙を突いて、アカサタチ選手の反撃の拳が私を貫く。
「くっ…」
私の体はその衝撃に耐えられず、後方に大きく飛ばされる。
なんとか姿勢を立て直し、立ち上がる。
(思ったより重い一撃だった。すぐ油断する…、私の悪い癖だ)
「最強を手にしていたとは思えないほどに貧弱だな。警戒して損したぞ」
「はは、それは申し訳ないことをしたね。でもさ…」
私は拳に力を込める。
そして、魔力も…。
その拳は炎の如く燃え盛り、やがて私の拳と同化した。
「――警戒しといて損は無いよ」
「がっ…!?」
刹那の時間、私の炎の拳が軌跡を映し出す。
その拳は烈火の如く、アカサタチ選手をぶち抜いた。
「
会場は一瞬の沈黙に包まれる。
そして。
「勝者!ダリア!」
司会の劈く拡声魔法で、会場は再び熱狂の渦へと戻ったのだった。
―――
「足と右拳だけに身体強化の魔法を行使して、反撃されたら終わりの捨て身の一撃ってところか」
「だけど、その分威力も増し、目で追えないほどの速さも獲得する為、反撃はほぼ不可能…」
「いい分析だ」
俺は映し出されるダリアとアカサタチの戦いを観戦していた。
ダリアの方が劣勢だと思った瞬間、拳が燃え盛り、刹那の一撃を放ったのだった。
「そして、あれは同化魔法と言われるやつだな」
「同化魔法ですか?初めて聞きました」
「あぁ、同化魔法はかなり危険だということで、あまり公で使われない魔法だからだな。同化魔法はその名の通り、魔法と同化する行為のことを言う。例えば自分の足に風魔法を同化させたら風のように速くなるし、拳に炎魔法を同化させたらダリアのように燃える拳に変貌する。一見強そうに見えるが、かなり調整が難しくて、強すぎたら自分が燃えてしまうし、弱すぎたら同化がそもそも出来ない。恐らくダリアは相当訓練したか、天性の才能か、だな。どちらにせよ、戦い方が分かれば勝てないことは無い」
「なるほど…。同化魔法…。失礼ですが、ご主人様ならあれをどう対処しますか?」
次がダリアとの決戦の為に、俺に色々聞いておこうという魂胆だな。
しかし、俺だったらか…。
「うーん、急には止まれない…かな?」
「…なるほど。単純ですが、効果はありそうですね」
…まぁ、クレランスにとって何か分かったことがあったようなので良しとする。
さて、次はクレランスVSダリアか。
2人の試合、じっくりと見させて貰いますか。
―――
「貴方は、最強を勝ち取っていた方だったのですね」
「まぁね。見えない?」
両者、対の入場口から歩みを進める。
その感情は緊張か、興奮か。
観客席が盛り上がるその様子を見て、自信を落ち着かせる。
「…余計なお世話かも知れませんが」
私はダリアに向かって、ヒールを行使した。
するとたちまちアカサタチに殴られた箇所が元通りに戻っていく。
「いいの?チャンスだったのに」
「えぇ、貴方とは対等でいたいので」
「はは、嬉しいね」
私は集中力を高めていく。
この人は強い、確実に。
この戦いで頂点に立ったことのある人物だ。
「いいね」
「では、両者構えて…。始め!」
まずは…。
「先手必勝っ!」
ダリアの光速の一撃が私の頬を掠る。
ギリギリ見えなくもない速度だが、これをずっと交わすのは不可能だろう。
「短期決戦で行きます」
「はは、私も短期決戦好きだよ」
私は属性身体強化:風を行使して、私の分身…、
「………」
…なるほど、一瞬だかダリアの口角が下がった。
恐らくだが、この攻撃を嫌がっている。
つまり、まだこのトリックが分かっていないということか。
なら、それを有効活用させてもらおう。
「恐らくあのよく分からなかった攻撃だよねぇ!でも私には策があるよ!」
…言葉での意識を分断させる作戦か。
だがトリックが分からないものに、この一撃は気づけるはずがない。
予定通り私の分身体はダリアに特攻をしかけ、かき消される。
「ここだ」
女性には申し訳ないが、脇腹を狙わせて貰った。
この舞台はどうしても勝ち進まなきゃ行けないのだ。
「――油断しちゃダメだよ」
私の蹴りが脇腹を捉える瞬間、顔面に強い衝撃がぶつかり私の視界は暗く染っていった。
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