第133話 油断を誘い込む
「あの少年なかなかやるねぇ」
私は一回戦目のあの少年、ノアの戦いをじっくりと観察していた。
廊下であったあの時に、何故かこの子供は強いとそう感が働いたが、どうやらその感は正確だったらしい。
1試合目、初めの合図の瞬間、セイヤルト選手が靴から何かを取り出した。
私はそれを刹那の時間で見切った。
それは
その衝撃石は強い衝撃を感知した瞬間に、炸裂するような衝撃を放つという石で、主に狩りなどに使われるものだ。
「確かに、衝撃石は人をダウンさせるくらいの威力は持っているが…。さぁ、どうする少年」
セイヤルト選手は衝撃石を手に握りしめると、その腕をノアに目掛けて放った。
このまま行けば、セイヤルト選手も多少の衝撃は受けるだろうが、あの筋肉でダウンはしないだろう。
だが、ノアの方は直接体に当たると、ダウンするレベルまでその衝撃は強くなる。
セイヤルト選手の拳がノアに近づくが、ノアはそれに動じず、寧ろその拳を迎えうとうとしている。
「バカっ」
私の焦りの表情とは真逆にノアは飄々とした表情で、コロシアム上に立っている。
だが、次の瞬間、セイヤルト選手は地面に倒れ伏している。
「…!?勝者…!ノア!」
…衝撃石の衝撃が当たらなかった?
否、そんなことは無い。
この距離で正確な判断は難しいが、確実に衝撃石は当たっていたと思う。
だが、私はその時にノアから発せられる魔力を感知した。
「これは、身体強化の魔法…」
そうか、自身の体を鉄壁にすることで、衝撃の行き場をセイヤルトだけに限定させたのか。
しかし、その仮説で行くとノアはとてつもない身体強化の魔法を…。
「なかなかやるねぇ」
私は久しぶりに燃えていた。
―――
「2回戦目はクレランスVSメリウラリス!」
私は司会のその声と共にコロシアム上に歩みを進める。
「ダークエルフ…」
向こう側から歩いてくるその狼のような獣人族のその言動に少々の苛立ちを覚えるが、私は気持ちを落ち着かせる。
何せこの舞台は、ノア様が用意してくださった物…。
私をここに立たせて頂き感謝している。
だからこそ、こんな所で冷静さを欠いて負けるなどあってはならない事なのだ。
「では両者構えて…。始め!」
さて、まずは軽く身体強化を施して様子見だ。
相手の動きを観察して、弱点を探す。
「…ふぅんッ!」
相手も無駄口を喋らず、私への攻撃へと専念している。
その攻撃は破壊神の如く、コロシアムの床をバンバンと破壊していき、辺りは砂埃に包まれる。
「…作戦か」
「あぁ、これで終わりだ」
その声と同時に砂埃から不意打ちの拳が飛んでくる。
だが、その攻撃は…。
「属性身体強化:風」
あまりにも遅い。
私の視界に入った瞬間に、私は風の如くコロシアム上を駆け回る。
その速度で巻き起こった風は辺りの砂埃を一瞬のうちにして吹き飛ばして、メリウラリスが姿を現す。
「早い、な。流石はダークエルフだ」
「…ありがとう」
私はそう一言言って、駆け出した。
フェイントをかけつつ、兎のように飛び回りながらメリウラリスの辺りを駆け巡る。
「ここだ」
「分かっている」
「…!?」
私は完全に不意打ちであろう一撃を受け止められて、後方へジャンプして体制を立て直す。
「ここらで終わりにしよう」
メリウラウスが拳に魔力を集め始めた。
その魔力はとても凄まじく、容易に近づくと、殺されてしまう、そう感じてしまうほどに威圧感を放っていた。
「なら私も1つ必殺技を」
私はさらに集中を深くしていき、やがて周りの音は一切聞こえなくなる。
「属性身体強化:風」
更に早くなった風で、私はメリウラリスへと突撃する。
「そんなものは効かない…」
私の渾身の一撃は、その獣にダメージを与えられることなく、メリウラリスの拳が炸裂する。
「
だが、私の足蹴りはメリウラリスの後頭部へ思いっきり炸裂して、倒れ伏せる。
「な、何が起こったのか!!勝者!クレランス!」
私はその司会の咆哮を無視して、控え室へ戻る。
「お、クレランス。今の良かったなぁ」
…ご主人様はあのトリックを容易に解かれているようだった。
流石…、としか言いようがない。
「はい、私の
「あぁ、流石にお前が「分身」してるなんて誰も予想はつかないだろうな」
そう、私は分身していた。
属性身体強化:風を限界までその効果を高めて、私は速さにより分身を可能としていた。
先程メリウラリスの攻撃を受けたのが、私の分身であり、その直前までの映像が私に流れ込んだいた。
そして、メリウラリスが私を完全に殴り、油断したその瞬間を狙い、後方から足蹴りをかましたのだ。
「よくやったぞ。さて、次はダリアの試合だ」
「ええ、不思議な女性でしたが、どう戦うのか楽しみです」
そして、映像はスラッとしたスタイルのダリアと筋肉と体毛で体がデカく威圧感がある獣人族を映し出して、司会の言葉を待っていた。
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