第132話 舐めてかかって意識インパクト
王戦祭当日、街はとてつもない活気に溢れかえっていた。
どんな種族も入り交じり交流するその光景に、日本の東京の光景を思い出してなんだか懐かしくなる。
「王戦祭1日目は格闘部門だな。参加者はクレランスとノアか」
隣で歩くダーグがそう言って俺に説明してくれる。
勿論、俺はその事を分かっているが、最終確認の為だ。
「特にやばそうなのは?」
「前年度優勝して格闘最強の名を独り占めにしたS階級冒険者「暴力」のドバイザン・クルームだな。S階級の冒険者なだけあってかなり強い」
S階級冒険者、か。
そういえばS階級冒険者は闇纏のゴルバルド以外に出会ったことは無いな。
あの人も今はギルマスなので今はS階級では無いが。
「…身体強化の魔法でどうにかなる相手だといいんだが…」
俺はその不安を取り敢えずよけて、隣を歩くクレランスに話しかける。
「緊張してるか?」
「…えぇ、物凄く…緊張してます」
…ダークエルフというのは差別の対象になることが多い。
この国では第2騎士団が奴隷に続いて種族間の差別意識を無くそうと動き回っているが、それでもそういう無意識を持ってしまっている人は少なくない。
それも込みで、緊張をしているのかもしれないな。
「…なら1つ俺から頼み事…、いや命令がある」
「命令、ですか?」
「あぁ。それは俺と決勝戦で戦え、だ。お前にはそれぐらいの実力はあるだろ?」
そう言うとクレランスは少し陰りがあった表情が少し緩和される。
ちょっとくさいセリフだっただろうか。
ともかく、クレランスの緊張を少しでも解けたらそれでいい。
「さぁ、行こうぜ」
「あぁ、そうだな」
―――
「…あの小僧…、一体何もんだ?」
ドバイザンは最強を防衛をするので、自分の出番である優勝者との決戦までは控え室での待ち時間となるのだが、ドバイザンは体ではなく頭を動かしていた。
「俺のパンチを手加減はしたとはいえ、掴み返すなんぞ…」
S階級冒険者は数える程しかいない。
だが、あの小僧はS階級冒険者で見た事はないし、A階級冒険者でも心当たりがない。
と、なると、誰かの変装か?イミテスゴーストを使ったのならそれは納得出来るな。
「チッ、やるとしたら誰なんだぁ?」
知り合いのS階級冒険者をその候補になるかどうか頭に浮かべたが、特に誰も浮かばない。
「しかし、あの握力…」
S階級の冒険者である俺が、一瞬ではあるが、恐怖を感じたのは生まれて初めてだった。
俺とは何かが根本的に違うような…。
いや、考えるのはやめておこう。
防衛戦まで時間はたっぷりある。
身体をあっためておこうか。
ドバイザン・クルームは考えるのを放棄して、トレーニングを始めた。
―――
挑戦者の控え室に入ると、男男しいむさ苦さ全開の空間が広がっていた。
それぞれがそれぞれにトレーニングをするもんだから、汗と熱気で不快に感じる空間に変わっていた。
俺とクレランスは思わず控え室を飛び出して、廊下に座り込む。
「あら、君たちもあの空間に入ったの?」
俺が一息つこうとした時に、誰かから話しかけられた。
声のする方へ視線を向けると、少々肌の露出が高い動きやすそうな服を着たスラッとした体型で青色の剃りこみが入った短髪が特徴の美人の女性だった。
「あれは、酷いですね。流石に入るきにはなれません」
「あはは、そうだね。私もそう思うよ」
「…貴方も格闘部門に出るんですか?」
「そうだよ?意外だったかな。まぁ自分で言うのもなんだけど、体細いからね」
うん、確かにそうだ。
だが、この人は格闘家にしては魔力が高い。
つまり、身体強化の魔法の練度や精度が他の人よりも高い。
だから、体があんなに細いのに格闘家になれたんだろうな。
「…君意外と頭の回転は高そうだね。そこのダークエルフ君も一緒に頑張ろうね」
「あ、はい」
クレランスの表情が一瞬、明るくなった気がした。
差別無しのその女性の行動に少し嬉しくなったんだろうか。
「私はダリア。互いに頑張ろうね」
そう言うとダリアは廊下を颯爽と歩いていった。
それと同時に、控え室にいた人たちが一斉に出てきた。
「もう始まるみたいだな。体は動かしたか?」
「はい。動かなくても大丈夫です」
「そうか。なら行くか」
廊下を歩いてコロシアムに向かう。
コロシアムの片方から参加者がぞろぞろと出てきて、中央に集まる。
「では、今から抽選にてトーナメントを決めさせていただきます。参加者の7人の方は中央へお集まりください」
マイクを持った司会の人が、中央にて抽選を始めた。
そして、クレランスは獣人族の男と。
俺は筋骨隆々の大男と。
ダリアは獣人族の男と戦うことになった。
程々に頑張っていこうか。
「1回戦目はノアVSセイヤルトの勝負です!ではおふたりはコロシアム中央に残って、他の参加者たちは控え室にお戻りください」
「…チッ、ガキかよ」
セイヤルトはそう言って俺を睨みつけてくる。
なんだよ、それでビビると思っているのか。
しかもこいつ…、何か隠してるな。
「そのガキ相手に卑怯な手を使おうとしてるのに俺はガッカリだよ」
「…!」
お、表情が一瞬変化したな。
それはもう自白しているようなものだぞ、セイヤルト君。
「では、両者構えて…」
奴は恐らく…。
「始め!」
セイヤルトは靴から直ぐに、なにやら石のようなものを取りだして拳に握る。
そして、その拳で迷わず俺に殴りかかってきた。
だが、俺はそこから1歩も動かなかった。
「…!?勝者…!ノア!」
そして、俺は1回戦目を楽々クリア出来たのだった。
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