第131話 なんだこいつぅ!
王戦祭前日、ノアは特に訓練をすることも無く王立魔剣学校の2年生が慌ただしく始めることがないように準備をしていた。
「まさか、王戦祭の5日後が入学式とは…」
勿論、その事は春が始まる前に知っていたが、いざその時期が来ると慌ただしくなって誰に言う訳でもないが、文句が溢れてしまう。
「しかし、4部門に出ることになってしまうとは思いもよらなかった」
王戦祭のエントリーは全て、ダーグに任せていた。
ダーグはああ見えてもちゃんとした大人だ。
ある程度の常識を持ち合わせていると思っていたが…。
結果はこの通り、俺は4部門全てにエントリーされていたのだ。
ダーグに理由を追求すると、色々言い訳をした後に、「だって、勝てるでしょ」と開き直って、訓練を再開していた。
ノラさん…、貴方の弟はとんでもない奴になってしまいましたよ…。
「…そんなこと思い出してる暇はないな。早く準備しちゃおう」
そして、使用人たちはそれぞれ1部門にエントリーした。
チェリアはいつも訓練をしていたから「剣術部門」にエントリーして、フルティエは「総合部門」にエントリーし、クレランスは「格闘部門」にエントリーした。
一応、全員の実力は把握出来て、みんな結構腕を上げていたので、公衆の面前で瞬殺はされないと思う。
クレランスだが、格闘部門にエントリーして、日々訓練を行っている。
フルティエと同じように日々の仕事をこなしながら、訓練も欠かさないので、本当にエルフ族というのはなんでも出来る超人のようだ。
この3人の実力を表すならチェリア<クレランス<フルティエの順番だろうか。
皆それぞれ戦い方の個性を持っていたり、そもそも戦う武器種で不利有利が変わってくる為、一概には言えないが。
それでも、フルティエは王戦祭に出ると聞いて相当頑張っていたので、期待したいものである。
「さて、頭の中を整理していたら、準備が終わっていたな。ちょっと街に出てご飯でも食べに行くか」
俺は財布を持って、まだ見ぬ料理を探しに街に繰り出すのだった。
街を探索中、なにか見覚えがあるような、そんな店を見つけた。
どこか懐かしげなその建物に、俺は誘われるように入っていく。
店内は客が殆ど居なくて、奥の席に筋骨隆々の男がずっしりと座っている。
それを見てか分からないが、客が寄り付かないようになっていた。
(店はこういう客にはあまり来て欲しくないだろうな)
俺はそう思いつつも、席に座り近くのメニュー表に目を通した。
「…!?蕎麦…?」
蕎麦、それ以外の言葉では形容できない程に日本で見た蕎麦そっくりの食べ物が並んでいたのだ。
「あの、大変失礼しますが…、ここを急遽貸切にすることにしましたので、またのお越しをお願いします」
俺はメニューを選んで注文しようとしたが、店員の予想外の言葉に頭の理解が追いつかない。
(貸切?あの筋肉のか?)
別に俺は店を変えてよかったと思ったが、1度店に入ってメニューまで注文しようとしたのだ。
もう気分は蕎麦1色である。
しかも、久しぶりの蕎麦だ。
譲れないものがある。
「俺はここで食べると決めたんだよ」
少々面倒臭い奴になってしまっただろうか。
だが、ここで適当に流されたらずっとこの事が頭の中で残り続けると思うと、それはそれで嫌なのだ。
「ほう、坊主。相当な肝の座りようだな。俺を見ても信念を貫くとは」
いきなり隅っこの方に座っていた、筋骨隆々の男が話しかけてくる。
誰だコイツ。
自分が世間に周知の存在だと思っているのか、知ってることを前提に話が進む。
「俺が貸切にしようとした店に居続けたのはお前が最初だ。このS階級の…」
「あ、すみません。蕎麦1つ」
「おい」
「え?」
なんだコイツ。
いつの間にこんな近くによってきたんだよ。
何考えてるか分からないし、余り関わらない方がいいだろう。
「蕎麦かぁ、何年ぶりだろうか」
「おい、話を聞け」
いきなり男がその拳を、思いっきり俺目掛けて振るわれる。
だが、俺はその腕を無理やり鷲掴み、思いっきり握り潰そうと力を込めた。
「いっ」
「痛い!?まさか痛いはずないよな!お前から挑んできたんだからなぁ!痛いなんて言ったら実質的な負けだからなぁ!?」
「くっ…」
男は俺を物凄い表情で睨みつけると、緩くした俺の手を振り解き、店を後にした。
「あ、ありがとうございます!」
「え…?」
「あの男に毎回いきなり貸切の注文をされるもんだから困っていたんだよ。ありがとう。ところで蕎麦は無料大盛りでいいかな?」
「あ!ならお願いしますー!」
たまにはいい事をするもんだな。
俺は少し量が多い懐かしい味の蕎麦を頬張りながら、明日をどう戦うかイメージを行うのだった。
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※入学式の始まりを2日後から5日後に変更しました。
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