第135話 属性身体強化の魔法

「お、起きたか。動けるか?」


「んんぅ…」


 あれ…、私は一体…。

 そうだ!ダリアは!


 私がそう思って辺りを見渡すと、そこは控え室だった。


「そうか…、私は…」


「あぁ。油断、しちゃったか」


「はい。自分の技が前の試合で完璧に私の予想通りに出来たので、過信していました。恐らくダリアはトリックには築けていなかったはずですが、私がどこを攻撃するかを直前まで引き付けて理解し、そのありえない反応速度で私の顔面を殴った…」


「完璧に自分の悪かったところと相手の強さを分析は出来てるな」


 …分析出来ても勝てなければ…。

 あぁ、私はこの王国内でもかなり有数の強者だと心の底のどこかで思っていたある。

 それは飛んだ予想外れにも程があることを思い知らされた。


「次は、ご主人様とシードの…」


「あぁ、そうだな。じゃ、行ってくるわ」


 こうしてご主人様はコロシアム上へと歩みを進め始めた。


 私ももっと強くならなければ…。

 1人になった控え室にてそう決意した。


 ―――


「さて第5回戦目はノアVSカットクス!」


 さて、俺の目の前に現れたのは歳は20歳くらいの黒髪を後ろで結んだ人間の女性であった。


 この王戦祭のシードは前年に優勝手前で防衛されてしまった者が勝ち取れる物である。


 つまり、そこから予測出来るのは、この若そうな女性は相当なやり手だということだろう。


 前年の戦いを見てないから分からないが、ダリアやその他の選手を超えてきた相手だ。


 コロシアム上にいるその2人からは会話は一切なく、緊張感だけがその場を支配する。


「では。両者構えて…。始め!」


 その声と共に後方へジャンプして距離を取る。戦い方も何も情報が無いから、取り敢えず観察だ。


 カットクスも俺と同じように後方へジャンプして距離を取り、俺の動きを観察するようだ。


 数秒、沈黙が続くが耐えられなくなったのかカットクスが距離を詰めてくる。


 相手の魔力を見て、彼女が普通の身体強化の魔法を発動させたことがわかった。


 …1発受けてみるか。


 ドンッ!


 俺のガードに回した腕に鈍い痛みが走る。

 普通の身体強化とは比べ物にならない効果が働いているようだ。

 流石、身体強化の魔法ひとつとっても練度は相当なものと見受けれる。


「だが、隙を晒し過ぎじゃないか?」


 その重い1発を受け止めて、俺は身体強化の魔法を行使して1発反撃する。

 その一撃をもろに食らってカットクスは大きく後ろに飛ばされる。


「くっ」


 血が出ているな。身体強化の比率を拳に割き過ぎたようだ。


「…貴方、見ない顔だけど一体何者かしら」


「俺か?俺は…」


 その瞬間、目の前にいたはずのカットクスがいつの間にかいなくなっている。


 ふむ、なるほど。


「俺は、そんな不意打ちなんぞ食らわないほどには実力はあるぞ」


 後方にいつの間に書いたカットクスの蹴りが俺の首の後ろに接触する瞬間、回避をして距離を取る。


「あら、やるのね。もしかして最近S階級になったのかしら」


「いや、俺はB階級冒険者だ」


「ここで嘘つく意味あるかしら?まぁいいや、倒すだけだから」


 カットクスの集中力が高まり、魔力の昂りを感じる。


 これは…。


「属性身体強化:炎」


 やはり、属性身体強化の魔法か。


「最近、魔法学会にて発表されたこの属性身体強化の魔法をもう既に習得したわ。ふふっ、終わりね!」


 あぁ、そういえば魔法学会に属性身体強化の魔法の基礎を提供したんだっけか。


 あの時はかなりの大金を貰ったな…。

 いや、そんなことは今はどうでもいいか。


 しかし、最近提供したのにもうカットクスは習得したのか。やはりかなりの強者であることには違いないな。


「はぁっ!炎の重撃フレイム・プレス!」


「属性身体強化:水」


 炎は水に弱い。

 つまりこの属性身体強化にもその相性は適用される!


「なっ!そんなっ!」


「はぁっ!!」


 完全に今の一撃で俺を倒す気でいたカットクスは完全に隙を晒して、俺の正拳突きをモロに食らう。


 そして、強く吹き飛ばされたカットクスは遠くの方で動かなくなった。


「勝者!ノア!」


 コロシアムは歓声に包まれた。


 ―――


「拳帝のカットクスをああも簡単に倒せるものかしらね?」


 2人の魔法使いはコロシアム上で行われたノアVSカットクスの戦いを見ながら感想を述べる。

 シーンはちょうどノアがカットクスを正拳突きで吹き飛ばす瞬間であった。


「わからないけど、あれは属性身体強化の魔法だよねぇ。最近魔法学会が基礎を発表した新しい魔法だねぇ」


「拳帝は分かるけど、あのノアという少年…。何故だか彼は何かほかとは違う何かを感じ取れるわ」


「…ノア、ねぇ。まさかぁ…」


「ランドニが会ったっていう例の?」


「えぇ、だけど少年とは思えないのでやはり違うかもねぇ」


「ふふっ、分からないけど、彼は魔法部門にも参加するらしいわよ?」


「へぇ…。それは面白いねぇ。今からその戦う瞬間が楽しみだぁ」


 エルヴィ・リーヴとジェリー・ドームはその少年に期待を抱きながら、再び試合を観戦し直し始めた。






 ―――――――――

 身体強化の魔法の全身の比率を調整するのは、一般的な技術です。

 ノアは規格外の魔物と戦ってきたり、そもそも魔力量がとてつもなく、振り分ける必要など無いので、描写はしませんでした。








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