9章 王戦祭編

第129話 王戦祭!

 神聖国の長い旅路は終わり、いつも通りの平和な日常にみんなが戻りつつあった。

 かくいう俺も、残り半年の勤務となっているお菓子職人の皆さんのお菓子を頬張っている。


「ノアは知ってるか?王国で春に何があるか」


「ん?急に何の話だ?」


 落ち着いた雰囲気の食堂に、2階から降りてきたダーグの質問が響く。


「王戦祭という、まぁ、なんだ。みんなでバトる祭りがあるんだよ」


「へぇ、ダーグはそれに出るつもりなのか?」


「あぁ、だからそこでみんなも出ないか聞きに来たって訳だ」


「…なるほど」


 その「みんな」に属されているであろう、八源厄災のお2人はそんな話には興味はないと言わんばかりに、お菓子に食らいついている。


「まぁ、流石に規格外な2人は覗くとして…、みんなって言うのは使用人のことだ」


「ほう?」


 そのダーグの言葉に、休憩中で食堂に来ていた使用人たちが一斉にこちらを向く。

 そして、自分は該当しないと察した数人は普段通りの生活に戻る。


 そして、こっちに近づいてきたのはフルティエ、チェリア、それにクレランスであった。


「王戦祭に出てもいいんですか?」


 フルティエが俺に向かってそう質問してくる。

 別に俺はダメとは言ってないんだが…。

 そもそも知らなかったし。


「いいんじゃないか?最近は戦ってなかったから分からないが、いいところまでは行くと思う。多分」


 なんせ俺の周りには規格外な化け物がいっぱい居るのだ。

 恐らく世間一般の強さの感覚が狂ってると思うので、多分って言った。


「王戦祭…!」


「ご主人様、私もいいんですか?」


 そう跪いて話すのはクレランスだ。

 そう言えばクレランスとは1回も戦ったことはないかも。

 いつもフルティエとチェリアが訓練するところには全く現れないので、実力をあまり知らない。


「あぁ、いいと思うよ」


「ありがとうございます」


 よし、なら春の王戦祭とやらに向けて、少し鍛えようかな。


 俺はクレランスとフルティエ、チェリアの仕事をそうそうに終わらせて、訓練の時間を多く取れるように予定を組み変えたのだった。


 ―――


 季節は冬を巡り、暖かい風と共に春がやってきた。

 だが、王国にある最大級のコロシアムは王戦祭前日だと言うのに活気で溢れかえっていた。


「王戦祭!明日からだよ〜!」


 それに便乗して飲食店は出張をして、コロシアム周辺で売買を行うようになる。


「さぁさぁ!お初の皆さんもいると思います!私が説明をしましょう!」


 1人の酔っ払った男が拡声魔法を使い、誰も聞いてないのに周知の事実である説明を始める。


「王戦祭とは…!」


 王戦祭とは、王国にて行われる大陸最大級の祭りとも評されるほどに人気な祭りである。


 その昔、王国にて兵士たちがストレス発散のために行ったのが始まりと言われるこの祭り。

 その姿は時代の流れと共に変わっていき、今では年の最強を決めるという祭りに変貌した。


「さぁー!楽しんでいこうー!」


 その掛け声でさらに活気に溢れるコロシアム周辺であった。


 ―――


 王戦祭は主に4つの部門にわけられる。


 1つ目は剣術で、これは剣術だけの戦いを強いられることになる。

 参加者はこぞって剣を練習し、その栄光を掴もうとしている。


 そして、剣術部門にて前年、最強の名を手にした男が、今年も馬車に揺られながら王国を目指していた。


 その男は、髭を長々と蓄え、髪は黒のオールバックで整えられ、短身の筋骨隆々のドワーフである。


 男の名前は、リンジェフ・サイバー。

 剣1本に生きる姿に周りから言われ始めた通り名は「剣豪」であった。


「いやぁ、今年も始まったねぇ」


 男は馬車に揺られながらも、その遠目でもわかる王国の活気に独り言が思わず出てしまうほどに、気持ちが昂り始めていた。


「今年はどんな奴が現れるかなぁ。楽しみだぁ!」


「リンジェフ様、煩いですよ」


 そして、そのリンジェフの隣にいるのは、長身の細身、そして短い金髪を靡かせ、細々とした体型と整った顔立ちのエルフの女性であった。


 その女性の名は、エレノーラ・ブルー。

 こちらも、閃光と評される程に実力を持った人物である。


 エルフとドワーフは世間一般の認識としては、仲が悪いという印象があるが、この2人はそんな雰囲気は一切感じとれない。


「剣豪の俺が鍛えてやったんだ。お前は全力を出せばいいんだぜ」


「リンジェフ様とは馬車でばったりあった間柄なんですが、なんで師匠ズラしてるんですか」


「あら、そうだったそうだった!」


「全く…、憧れの人と会えたと思ったら、こんなにも世間の印象と違うなんて…」


 1人は落ち込み、1人は能天気に。

 そんな2人を乗せた馬車は王国に向かって進むのであった。







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