灯台もと暗し

 このノアさん、年齢は15歳だという。

 私はそれを聞いて思わず「15歳!?」と声を上げてびっくりした。

 だって、ノアさんの魔法の知識は途轍もないのだから。

 ここまで私は信念を貫いて、魔法を研究しまくっていたし、排泄や食事以外は殆ど魔法と触れ合っているというのにノアさんの知識には遠く及ばなかった。


 それを感じることが出来たのは、先程の会話での出来事であった。


「ノアさんのあの鏡の魔法ってどれくらいの魔力を使うんですか?」


 これは大事だ。

 例えば、剣術を教わっても筋肉が付いてないとその動きはできないように、魔法もやり方や方法を教わっても魔力が無いと発動は出来ない。


「うーん、そうだなぁ…。上級魔法アクアバーストという魔法を知ってますよね?」


「はい!撃てますよ!」


「それの数倍くらいですかねぇ」


「数倍!?」


 上級魔法というのは消費する魔力が大きい代わりに威力も跳ね上がる、言わば実質の魔法の頂点に立つ魔法。

 そんな上級魔法の数倍を使うのか…!?


「はい、これが多いか少ないか感じるのは人それぞれなんで、あれですけど」


「な、なるほど…。しかし、あの無数の鏡を出現させるのによくそんなに消費魔力を抑えれましたね…。凄すぎますよ」


「え…?いや、反逆の大鏡は1個しか出現させれませんよ?」


「え?いや、だってあの無数…の…」


 ここで私の中で、馬鹿げた仮説が生まれる。

 あの無数の鏡をひとつひとつ魔法として出現させたのではないかという仮説だ。

 上級魔法の数倍消費魔力が激しい鏡を無数に出すなんて人間じゃない。


 あぁ、そうだ。

 この人は私をおちょくっているのだ。


「あれはひとつひとつ魔法として発動させましたよ」


「はぁわわわわ…」


 今まで感じたことの無いような、とてつもない衝撃が私に襲いかかった。

 あの無数の鏡をひとつひとつ…。


「ぜ!ぜひ私に伝授を!」


 こんな凄すぎる人物に教えて頂けるなんて…!

 私の人生の中で一番の幸福だっ!


「そ、そんな焦らないでください。まずはリフレクションという魔法を使えるか聞いてもいいですか?」


「あ、はい!リフレクションは使えますよ!リフレクションという魔法は中級魔法に属されている魔法で、魔法限定でその効果をそのまま反射させるという数ある魔法の中でも珍しい魔法です!リフレクションは発動させる術者によって強度が変わっていき…」


「あー、すみません。そこら辺で大丈夫ですよ」


 あぁ、私としたことがなんてことを…。

 つい知ってるかと聞かれて長々と喋ってしまった…。

 聞いてきたということは相手も知ってるだろうに…。


 あぁ、恥ずかしい…!


「そのリフレクションを派生強化したものが、この反逆の大鏡という魔法です」


「なるほど!」


「じゃあ、まずはリフレクションを発動させてください」


 私はノアさんの言われた通りにリフレクションを発動させる。

 目の前には薄透明の結界のようなものが現れる。

 これがリフレクションだ。


「ではこれを先ずは大きくする「イメージ」をしてください」


「イメージ、ですか?」


「えぇ」


 イメージ…、この薄透明の結界を大きくする…。

 …薄透明と言えば、インビジブルスライムという半透明のスライムがいたなぁ。

 最近、その大型が発見されて魔物研究界隈が盛り上がったっけな。


「お、いいですね」


「え?…おぉ!」


 私が考え事をしていると、ノアさんが褒めてくれたので、自身の魔法を見てみると、そこには今までの数倍はあるリフレクションが出来ていた。


「これが…、イメージ…!」


「はい。魔法使いの人は至ってシンプルな「イメージ」という部分に中々気づきません。身近にあるからこそなんでしょうけどね」


 私はそこで関心をしてしまった。

 確かに、今までは私はイメージをしながら魔法を撃ったことがなかったかもしれない。

 考えるのは、上手くいって欲しいと言う気持ちと、失敗したらどうしようという気持ちだけだった。


 私はイメージというコツを掴んでからはみるみる成長していった。


 そして、ノアさんが帰る当日。


 私は不格好ながらも反逆の大鏡を完成させれたのだ。


「あのー、何か考え事ですか?」


「あ!失礼しました!では、何時でも神聖国に遊びに来てください、お待ちしてますよ!」


 その言葉と共にノアさんたちは荒野を歩き始めていた。


 私の今の気分は、初めての玩具を貰った子供のように高揚していたのだった。






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