第127話 狂い燃える炎、相対すは正義の心 その玖
100個の大鏡はヘレイムシングが放った特大のの魔法を分け合うようにして、少しづつだが、確実に小さくしていく。
「なっ、なんだと…!」
やがてその特大の魔法はその全てを100個の
そして、反逆の大鏡から出てきたのは小さくなったが、とてつもない魔力が篭った炎玉だった。
「くっ…!」
「逃げるつもりかッ!」
100個の大鏡から無数の炎玉が飛び出てくる光景を目にして、ヘレイムシングは逃亡を図る。
俺はそれを捕まえようと拘束魔法を放つが、生命還元魔法で還元した魔法は全て反逆の大鏡へと使ってしまった。
「クソ…、ダメだ…。意識が…」
朦朧とする意識の中、ヘレイムシングの焦り顔が見えた。
(もう、ダメか…)
だが、その時ヘレイムシングを取り巻く一筋の光が見えた。
そして、そこで俺の意識は完全に途絶えたのだった。
―――
「君、そこで逃げるのはダメなんじゃないかな」
ジェンドマザーは無意識にヘレイムシングへと拘束魔法を放っていた。
ノアを信用していない訳では無いが、ヘレイムシングがこれで終わらない、と心のどこかで思っていたからだ。
「はっ!こんな貧弱な拘束魔法なぞっ!」
だが、その言葉とは裏腹にヘレイムシングはその拘束魔法がなかなか解けずにもがき苦しんでいる。
「私が水の八源厄災である限り、魔力を使い果たした君に負けるはずがないよ」
「…!?お前は水の八源厄災なのか!?」
「うん、そうだよ」
ジェンドマザーは嫌味のように最高の笑顔で魔法を唱えた。
「9連
「くっ!!クッソがぁぁあ!!」
完全に空中に固定されたヘレイムシングは反逆の大鏡から放たれた無数の炎玉が自身に近づいてくるのを見ることしか出来ない。
ゆっくりと確実に迫ってくるその炎玉に、ヘレイムシングは恐怖した。
その恐怖ゆえか、死ぬ気の馬鹿力で10個の拘束魔法を気合いだけで壊した。
「やったぞ!俺は逃げるぞッ!」
「――我の存在を忘れてはおらぬか」
ヘレイムシングは後方から聞こえたその声の方へ視線を向ける。
そこにはもう既に魔法を放った後のフェルが佇んでいた。
「
その嵐は、ヘレイムシングに巻き付くとその場に固定した。
「お主がここから生還するという結果を吹き飛ばした」
「クソッ!クソッ!クソクソクソクソッ!クソがッ!!これがッ!これが時の神の…」
嵐によって固定されたヘレイムシングに無数の炎玉が殺到する。
反逆の大鏡で反射され強化された炎玉は着実にヘレイムシングの命の脈動を終わりへと導く。
そして、時間にして1分、無数の炎玉を食らったヘレイムシングは完全に燃え尽きて無くなっていた。
「勝った…」
だが、眼下に広がるのは綺麗に整っていたはずのボロボロになった白色の街であった。
―――
「んぅ…」
ここは…?
俺が寝ていたのはごく普通の一般的なベットで、部屋を見渡すと豪華でもなく貧乏でもない、特に印象に残らなさそうな平凡な部屋だった。
「あ、起きた!」
この普段よりも一段と大きい声は…、ジェンドマザーか。
俺の隣で座っていたジェンドマザーが目に涙を浮かべて叫んでいた。
「フェルとダーグは?」
「あぁ、どっか行ってるよ!いやぁ、心配だったよぉ。ノアったら1週間も寝てたんだからね!」
なに…?1週間…だと?
近くにあったカレンダーを見てみると、確かにあの日からちょうど1週間経っていた。
1週間も寝ていたのか…、しかし…、何故俺は…。
「おぁ!ノアじゃねぇか!ちゃんと戻ってきたなぁ!」
ダーグが扉を開けて、俺の姿を目にした瞬間、叫び散らす。
そして、後ろにはフェルがいた。
「元気か?」
「あぁ、ばっち…」
ペシンッ!という叩き音がうるさかった部屋に木霊した。
それはフェルのビンタだった。
「生命還元魔法の代償は死なんじゃぞ?それを分かっておったのか」
あぁ、俺が勝手に死のうとしたことに怒っているのか。
「あぁ、でもあそこで俺がやらなきゃみんなどころかここら一帯が消し飛んでただろ?」
フェルは緊迫した表情からどこか呆れた表情に変化していく。
「それに街が壊されなくてよかったしな」
完璧に守りきれたとは言わないが、それでも恐らく死者は限りなくゼロに近づけたのではないだろうか。
「全く!なんでやつじゃ!」
「あ!知ってた〜?フェルってねぇ…ノアが寝込んでた時に、泣い…」
「おい」
「あ、ごめんなさい」
ふふ、いつものみんなに戻ったようだな。
しかし、なんで生命還元魔法を使ったのに俺は死ななかったんだろうか。
…考えても分からないな。
俺はフェルがジェンドマザーを睨みつけているその状況を微笑ましくも思いながら、1週間過ぎてしまった残りの冬休みをどう過ごすか考えるのだった。
「さて、忘れそうになっていたが…。あれがまだ終わってないよな」
俺は1人ボロボロになった神聖国内を歩いていた。その場所は戦いがあった中央から10分ほど歩いた場所にある「教会」に来ていた。
そう、半年前にフェルから聞いた教会にて「スキル」を貰えるという事だったので、せっかくだし来てみたのだ。
街並みに合うように設計されたスタイリッシュな造形と白色が上手く街に溶け込んでいる。
「お邪魔しますー」
「あら、あなたは…」
教会内で清掃をしていたシスターが俺に気づいたようだ。
「あ、すみません。スキルをもらおうと思って」
「あ、あぁ!スキルですね!分かりました。ではこちらへ」
俺はシスターの言葉に従って、中央に飾ってある像の前へとやってきた。
「ノア…さんですよね。この街じゃもう有名人ですよ」
「え?あ、そうなんですか?」
「はい!ピエロの人が色んな人に貴方の凄さを伝え回ってるそうですよ?ふふ、何だか健気で応援したくなっちゃいます」
あぁー、あの乗っ取られてたピエロの人か。
まぁ、悪いように言われるよりは良いように言われた方がいいんだが、なんだかむず痒い。
前世の有名人とかもこんな気持ちなんだろうか。
「あ、失礼しました。ではこの炎の神、プロメテウスの像にお祈りをしてください」
炎の神プロメテウス…、つまりヘレイムシングに神力の一端を貸し与えた神だよな。
この街の人が偶像崇拝するものが、この街を破壊しようとしていた、とはなんとも皮肉な話だな。
まぁ、言わぬが仏だな。
「じゃあ、祈りますね」
プロメテウスよ、俺にスキルをください。
俺はそう願ったのだった。
―――――――――
もう少しだけ続きます。
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