第126話 狂い燃える炎、相対すは正義の心 その捌

 その大渦巻は、かの水の八源厄災には及ばずともヘレイムシングにとっては驚異そのものであった。


 何故か、それは自分の存在を消し去る「水」が大海の如く流れ込んできたからだ。


(不味いな、かなり不味い。この威力を見るに水の八源厄災の魔法を模倣した感じか…、だが、それでも…否、それゆえに異常だな)


 ヘレイムシングの焔は大渦巻に攫われて、今にもその命を終わろうとしている。

 だが、ヘレイムシングはそんな状況でも冷静さを欠かない。

 寧ろ、関心すらしていた。


(しかし、ちゃんと街に被害が出ないように上空に魔法を放ち、俺を引きずり込んだ。余程人を巻き込みたくないらしいな)


 大渦巻の中心にて、ヘレイムシングは力を解放した。


 いや、と言うべきか、その力は益々火花を散らして燃え盛る。


(リスリッチ、意外と良い奴だったが…。俺を殺すのには1歩足りなかったな)


「ハァァァ!!」


 ヘレイムシングが大渦巻の中、雄叫びを上げた。その雄叫びは神聖国中に広がる程のけたたましいものであった。


 そして、大渦巻はその焔によって全てを蒸発させられ、大爆発を起こす。


 ―――


「しまったッ!2連賢者の大結界ラリア・ガロテクス!」


 大渦巻の中にいるヘレイムシングの魔力総量が多くなったのを察した瞬間、最悪の展開を予想した。


 そして、俺はヘレイムシングを中心として、賢者の大結界を張った。


 俺の予想は的中して、ヘレイムシングの高温で大渦巻が気化して水蒸気爆発を起こした。


「お人好しだなぁ、お前は」


「はっ、褒め言葉か?」


 賢者の大結界はそれなりの魔力を使う。

 それを同時に出したのだ。

 魔力欠乏症の症状が出始めた体にムチを打って、魔力回復のポーションをがぶ飲みする。


「うぅ、さらに気持ち悪くなってなってきた…」


 こんなことをしている場合ではないと思うが、人間は生理現象には抗えない。


「ふぅ。で、ヘレイムシング。お前まだ形態を残していたのか。なんて要心深いんだよ」


「はっ、俺はさっきの焔の巨人でカタをつけるつもりだったんだ。けど、あの大渦巻でマジで死にそうになってなぁ…、だから…」


 ヘレイムシングの声色が一瞬で暗く、不気味なものに変貌する。

 その異様な空気は神聖国内を支配し、鋭くドス黒い殺気は俺の体を強ばらせた。


「――本気、を出すことにした」


「距離を取…」


 俺の言葉が終わる前に、左手に激痛が走る。


 これは…、腕が…。


「ノアっ!落ち着いて!」


「いてぇ…」


 痛い、痛い、痛い、痛い。

 くっそ痛てぇ…。


「ひひっ!この状況でも俺を睨みつけてくるとはよぉ…、人間にそんなやつ1人もいなかったぜぇ!!」


 ヘレイムシングは上空に飛び上がった。

 そして、中心の白色の塔のてっぺんに登ると叫んだ。


「今からッ!この街を盛っ大にぶち壊す!人も!建物も!土地も!全て!!」


 ヘレイムシングに途方もない力が集まっていく。


「くっ…、ヒール」


 取り敢えず、ヒールをしてジェンドマザーと合流する。


 ジェンドマザーのところに向かうとフェルとダーグも一緒にいた。


「の、ノア…、それ…」


「あ、あぁ、少し待ってくれ」


 俺は魔力を集中させて、魔法を唱える。


大女神の祝福聖域セレスティション・オールブレッシング


 女神の祝福の対象を個人から複数人を対象にした魔法だ。

 とてつもない魔力を使うからあまり使いたくないが、みんなの傷をゼロに戻せるから唱えた。

 再び魔力回復のポーションをがぶ飲みして、緊急会議を始める。


「ふむ、あれの周りには結界が張られているようだ。それに魔力を割いているのか本命の魔法の発動が遅くなっているようだ」


 俺は試しに上空にいるヘレイムシングに追尾水銃ホーミングガンを放つ。

 だが、その結界に阻まれる前に高温にて蒸発した。


「うーん、下手に水系統魔法を撃つと爆発しかねないなぁ…。どうするべきか」


「あの魔法やばいね、本当にここら一帯を無に返すレベルの魔法だよ」


「あの高温じゃ、俺は近付くことすら出来ないな…。チッ、面倒くさい体質しやがって」


 打つ手無し…か。

 いや、もしかしたら考えたら光は見えるのかもしれない。

 だが、その前にあの魔法が撃たれたら終わりだ。


 全てが無に帰る。


「ひひひっ!!!どうした!!ノア!!本当にここら一帯全てを破壊し尽くすぞ!?」


「………」


 確か…、あれは王国に来てから数日後の事だったか?

 俺は図書館に行って本を読み漁りまくった。

 そして、その中の1つに「生命還元魔法」というものがあった。

 その魔法は、読んで字の通り…。


 ――命を糧として大量の魔力に還元する魔法。


「…ふっ」


「ま、不味いよ!もうすぐ来るよ!」


 俺はステップウィンドを行使して、白色の塔へと近づいていく。


「ノア!何をするつもりじゃ!」


「ちょっとあいつを倒してくるだけだよ」


「ノア…!」


 俺は更に上空へと登っていく。

 そして、そこには結界に包まれたヘレイムシングがいる。


「やっと来たか…!来ると思ったぜ!お前は人を皆殺しに出来ない…!」


「…あぁ、そうだ。出来れば救いたい」


「その考えがお前自身を滅ぼすぞ!食らえ!!」


 結界が破裂して割れたガラスのように破片が散乱して霧散して消える。

 そして、その中から特大の魔法を構えたヘレイムシングが現れる。


新しき紅炎の如き輝きプロミネンス・ノヴァ


 その星は神聖国を全て破壊し尽くさんとゆっくりと、だが加速をしながら迫る。


「その考えが身を滅ぼす?」


 俺は生命還元魔法を行使する。

 徐々に体の衰えと共に魔力が昂っていく。


「あぁ、確かにその通りかもしれないな」


 魔力を集中させろ。

 今までより更に深く、鋭く。


「――だが、俺はそれで死んでもいいのさ」


 今まで生きてきた中で1番の魔力の昂りを感じる。

 これ程までに、力が溢れ出てきたのは初めてだ。


「決着を付けよう」


 俺の後ろに現れたのは…。


「…100連反逆の大鏡リベレクション


 100個の巨大な大鏡であった。







 ―――――――――

 100個の凄さがあまり分からないと思うので補足。

 反逆の大鏡の10個分の魔力の総量がジェンドマザーが素で持ってる魔力と同じくらいです。(※大体)

 なので、生命還元魔法はかなり強力なんですね。でも何故、あまり使われないのか…。それは後々分かります。

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