第125話 狂い燃える炎、相対すは正義の心 その漆
神聖国内を魂だけとなった存在が、慌ただしく探し物をしている。
その男の名は、高橋 一郎太。
この世界の住人ではない。
高橋もほかと同様に神聖国内で転移させたれた被害者であった。
最初は隷属魔法で奴隷化させられて、呼び出した男に従う生活を送っていた。
しかし、ある日高橋は自分の力に気づいた。
その力とは「精悪占領」、他人の精神を乗っ取り、悪感情を糧として力を増すことが出来るスキルであった。
そのスキルで、神聖国内でいくつもの人を転々としながら生活していた。
(チッ、せっかくいい器をゲット出来たと思ったんだけどなぁ)
彼が目標としていた、「八源厄災を乗っ取り世界を支配する」は早くもその対象が現れ、戦うことはおろか、支配することも出来なかった。
(悪感情はあくまでこのスキルのオマケのようなものだ。効果はあるだろうが、結局本体が強くなければ元も子もない)
そう考える高橋は、神聖国の中心にある白色の塔へとやってきていた。
(ん?なんだあいつ)
白色の塔から出てきたのは神官のような服を着た男だった。
そして、その男の気配は途轍もなかった。
(俺はこの強い奴を求めて生活をしてきたからか、気配などで強さが分かるようになってきたが…。あいつはヤバい…、ヘレイムシングに及ぶ程の力がありそうだ)
しかも何故かその男は、下を俯いて油断しているように見える。
(チャンスだ)
高橋は神官の男に近づくと、スキル「精悪占領」を発動させた。
「は…」
高橋はその体の動きを確認するように手足を動かす。
「ははは!こりゃあいい!力が漲ってくる!」
『おい、なんですかこれは』
「おや!流石の精神力!乗っ取られた時の反動でも意識が覚醒しているか」
『チッ、体が動かせない…』
「まぁ、落ち着けって。あとちょっとしたら返してやるよ」
『悪魔の類ですか…、クズ野郎め』
「ふっ、間違いねぇ」
高橋はその新しい体を馴染ませるように、魔法を使いながら、ヘレイムシングがいた通りへ向か…。
「おい、どこへ行くのじゃ」
高橋が上空を見上げるとそこには2人組の男と女がいた。
「新手か?殺」
「殺、すか?そんなんじゃ、殺せないぜ」
意識がそこに向いた瞬間、左手から激痛が走り抜けた。
「くっ!」
高橋は、急な攻撃に対応出来ずに跪いてその2人組を睨みつけた。
―――
「作戦は?」
「二手に分かれて攻撃、それだけじゃ。彼奴の魔法には我を一瞬で拘束する魔法や神聖魔法の槍などがある。気を付けい」
「了解」
そういうフェルだが、内心はその神官の男に勝てる気がしていなかった。
先程、ヘレイムシングから受けた2段攻撃によって既に体に火傷を負っており、辛い状況を強いられているからだ。
「強え…、速すぎて見えなかった」
「はっ、どうも」
その言葉と同時に、予備動作なしに一切の妥協なしの神官の男の魔法が高橋によって放たれた。
「
「不味いッ!」
フェルは属性を付与させたプロテンド魔法を発動させる。
「はは!脆い!」
一瞬で突き破られたプロテンド魔法を更に掛け直す。
「――50連プロテンド」
プロテンド魔法のメリットは消費魔力が少なく、その割には耐久値が割とあるところだ。
そうすると、
だがしかし、プロテンド魔法を紙のように貫いていく神罰の槍。
そして、49枚目にして神罰の槍は勢いを減速させて、その場で霧散した。
「…かなり場数を潜ってきたみたいだな。完璧な予測だったよ」
高橋も、神官の男もその光景には驚きを隠せない。
「だがッ!神罰の槍は1本だけではないッ!」
上空に2本の槍が出現して、1本はフェルを、1本はダーグに狙いを定める。
その槍は加速をつけて、迫ってくる。
「ふっ、こんな奴に使うのは少々勿体ないが、使うしかあるまい…」
そう言うと、フェルの近くに嵐が集まっていく。
「ダーグ、少し離れておれ」
その言葉を聞くと、ダーグは一歩下がって、その光景を観察し始める。
その嵐は時間経過とともに威力が増していく。
だが、上空には既に2本の槍が待ち構えており、あと数秒でフェルの心臓を貫きかねない。
「だ、大丈夫か?」
「あぁ、全く問題ない」
神罰の槍が、フェルの心臓を目掛けて突進した。
触れるまで、数秒…。だが、その数秒が永遠のように長く感じる。
「――
その嵐は自身の「死」という結果を吹き飛ばした。
「…はぁ?なぜ死んでいない…!」
「結果を変えたのじゃ。我の死は訪れない」
「くっ…!
だが、神罰の槍はその姿を表すことは無かった。
「さらばじゃ、強かったぞ」
フェルは拳に嵐を纏わせる。
その嵐は小さいながらも、全てを巻き込まんと勢いをましていく。
「
神官の男は吹き飛ばされ地面に激突した。
だが、その後に不気味な行動に出た。
「ガッ!ガガガガガガガ」
地面に叩きつけられた神官の男は体が痙攣し始めた。
「なんじゃ!」
「一旦下がれ!近づくと不味いかもしれない!」
男は苦しそうに立ち上がると、言葉を続ける。
「ち、力が…、吸い取られていく…!ヘレイムシングッ!これはっ!なんなんだ…」
そう言うと完全に神官の男の動きは止まった。
「…どうゆうことだ?」
「分からない…、取り敢えずノアたちのところへ向かうぞ」
フェルとダーグは空を駆け出し、ノアたちがいる大通りへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます