第124話 狂い燃える炎、相対すは正義の心 その碌

 その焔は激しく燃え盛る。

 大量の薪を焚べられたかのように、その力は加速度的に増していく。


「俺ァな、この国を数千年前作った。だが、俺はこの国を捨てた。そして、また最近戻ってきたんだ。何故って?使に駆られたからだ。その使命は気の所為かもしれなかったが、戻ってきてよかった。だって、ノアが来たからだッ!」


 焔が爆発的に燃え盛る。

 ヘレイムシングはその手に持っている巨大な焔の槍を投げた。


「ッ…、これでギリギリか…」


 限界突破・雷リミット・ビュートは俺の魔法の中で1番加速させてくれる魔法だ。


 …やはり、今までの八源厄災とは格が違う。


「ヘレイムシングか…、どうするノ…」


 フェルが何か言いかけた瞬間、俺たちがいるところの反対側で爆発音が聞こえた。

 ヘレイムシングの仕業かと思ったら、特にその様子はない。


 …もしかして、あのピエロ面を乗っ取っていた奴の仕業か?


「フェル、ダーグ。あの爆発音の方へ行ってきてくれないか?」


「くぅぅぅ…、俺もあいつと戦いたいけど、戦力外みたいだな。分かったぜ」


「ふむ、ノアがそう言うなら行こう」


 フェルとダーグは反対側の爆発音の方へ向かって走り出した。


「へっ、逃がすと思ってんのか?」


 焔の槍を形成したヘレイムシングはその槍を振り投げた。


 ―――


「これくらいの槍なんぞ、我が食らうと思うたか?」


 フェルは持ち前の風魔法で焔の槍をかき消した。

 相性が悪い風魔法でかき消すフェルは八源厄災としての格を見せつけた。


 だが、ヘレイムシングと生きてる時間が違いすぎた。


「ひひっ!思ってねぇから来てやったんだろうがッ!」


 全身が燃え上がるヘレイムシングの高速の蹴りは火傷と蹴りの衝撃の2段攻撃で痛みは跳ね上がる。


「くっ…」


 それでもなお吹き飛ばされず、空中で持ち堪えるフェル。

 燃え盛るはずのヘレイムシングのその足をがっちりと掴むと、近距離にて魔法を放った。


「我は風の八源厄災だ」


「なっ!?…お、前が!神喰いの…!」


 フェルが放ったのは2つの小さい風の玉。

 それらは左回りと右回りで回り続け、その2つの玉の中心地は全てを葬り去る嵐の死の空間となった。


「いっ…」


 ドカン!とヘレイムシングは地面に叩きつけられた。


「ダーグ、早く行くぞ」


「お、おい。フラフラじゃないか」


「いいから、早く行くぞ」


 ダーグはフェルを心配するように、空中を走り始めた。


 ―――


「流石だな。フェルは」


 目の前には地面にぶつかって苦しむヘレイムシングがいる。


「お前、八源厄災を仲間にしてたのかよ…。ひひっ!いいなぁ」


「ほら、早く起き上がれ。その状態で攻撃されたいか?」


「へっ!当たるわけねぇだろ」


 25連アクアバースト。


「上級魔法25連続…!ひひっ!異常な魔力量だなぁ!」


 ヘレイムシングはそれらを全て打ち消して、立ち上がる。


「まぁ、あいつらはどうでもいい。俺はお前と戦いたかったからなぁ」


「ふふっ、私のこともちゃんと見てほしいなぁ」


 隣で戦いを静観していたジェンドマザーがいきなり水系統魔法を放つ。


「戦いたくなったのか?」


「いやぁ、流石に見てるだけじゃ暇だしね。いいでしょ?」


「まぁ、俺だけじゃキツいだろうしね」


 ジェンドマザーの水系統魔法はかなり効くようで、苦しそうにヘレイムシングは立ち上がる。


「くっ、強ぇなぁ」


「褒めてくれたよ!意外と良い奴かも」


 意外と良い奴かも…か。

 確かにこいつの戦闘衝動は強い奴と戦いたい、と言うだけだもんな。

 そこまで悪いやつじゃないかもな。


「そろそろ本気で行くかぁ」


 今までの焔が比にならないほどに燃え盛るヘレイムシング。

 焔の巨人は焔の鎧を着て、焔の槍を構える。


 その姿はまるで、焔の化身。


「来るぞッ!」


 避ける動作に入ろうとした時にはもう遅く、ジェンドマザーの腕が焔の槍にて吹き飛ぶ。


「速すぎぃ…」


「くっ、ヒール」


 取り敢えず止血を完了して、二手に別れる。

 女神の祝福セレスティション・ブレッシングは流石にこの緊迫した状況じゃなかなか使えない。

 例え使えたとしても、その次はヘレイムシングに警戒されてさらに使えなくなる。


「20連追尾水銃ホーミングガン!」


 指から射出された20個の水玉がヘレイムシングに殺到する。

 だが、その水玉がヘレイムシングに到達する前に蒸発していく。


「おいおい…、弱点がないようなものじゃないか…」


 生半可な水系統魔法は攻撃すら許されず、ほかの系統の魔法でも恐らく簡単に弾かれるだろう。


「ジェンドマザー!少し時間を稼いでくれ!」


「いいよー!でもあんま期待しないでねぇ」


 よし、まずは水の加護ウォーター・アビリティで俺とジェンドマザーに付与する。

 限界突破・水リミットビュート 廻天之力スペルを使用する。


 そして、魔力を集中させる。

 集中させて、集中させて、集中させて…、極限にまで集中する。


「ちょっとー!もう1分くらい経つよー!もうきついかもー!」


「もう少し!」


 そして、ついさっきのことを思い出す。

 魔力の昂りを感じる。


「…大海の悉くよ…」


「え…!まじ!?」


「その魔力の昂りはッ!まさか!」


 あの神官の男の炎玉を消したジェンドマザー…、その時のことをこと細かく覚えている。


「…私に集まりて力となれ。ネプチューンよ、私に大海の怒りを。放つのは全てを呑み込む大災害、大海の怒りに触れて」


 その魔力の昂りは、かの八源厄災を彷彿とさせる。


 海がノアの周りを漂い始める。


海内紛擾の死せる大渦巻メイルストーム・エンド


 死の大渦巻きが空に出現した。







 ―――――――――

 第83話にてジェンドマザーが言いかけた「神…」の続きがヘレイムシングが言った「神喰い」です。

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