第123話 狂い燃える炎、相対すは正義の心 その伍

(クソ、今度は誰だ?この魔力量からして八源厄災の1人か?)


 その回答は当たらずと雖も遠からず、このどさくさに紛れて、乗っ取ってやろうとヘレイムシングに近づく。


(…!?)


 なんだ?壁がある…?


 ヘレイムシングの精神にはなにか、巨大な壁があるようにその先に進めない。


「ひひっ!本当に俺を乗っ取れると思ったのか?」


(クソッ!)


「お前の本体はあれだよなぁ」


(待て!!)


 ヘレイムシングは徐にファイアを放った。

 その小さい炎玉は加速度を増してピエロ面の長髪男に突撃する。


(チッ、ここまで来て終わりかよ!!)


「一般人を巻き込むのは違うだろ」


 だが、炎玉はノアの金剛石の要塞ダイヤモンド・フォートレスで弾かれた。


 ―――


「あんた大丈夫か?起き上がれる?」


「ん…、んうぅ」


 あれ?俺は…、乗っ取られて…。


「あっ、あいつ出ていったのか」


「お、大丈夫そうだな」


 俺が立ち上がると目の前にはかなり若い少年がいた。


「あ、あいつはどこ行ったんだ?」


「あいつ?誰だ?」


 大丈夫…か?

 あいつはヘレイムシングに乗っ取ると言ってたし、俺は用無しか。

 けど、良かった。

 乗っ取られたまま人殺しされるなんてたまったもんじゃない。


「おじさん、またよろしくね」


『くっ、またお前かよ…!』


「うん?どうしたんだ?」


 俺は体の支配権が乗っ取られていき、手足が自由に動かせなくなっていく。


「君、邪魔。死んで」


『待て!やめろ!』


 高速の斬撃は僅か数メートル程にいる少年に向かって飛んでいく。


『あぁ…、また私の体で…』


「急に攻撃してくんなよ。敵だったのか」


 だが、私の予想とは裏腹に少年はまるでいきなり小突かれただけとでも言わんばかりに文句を言っている。


「…そうかお前が時の八源厄災か…!と聞いていたが、また新たな力の宿主を見つけたか…」


「何を言ってんだ。俺は人間だ、八源厄災じゃない」


「はぁ?じゃあなんであの距離から俺の斬撃を避けれた!?時を止めたんだろう!?」


「はぁ、お前の斬撃はな…」


 言葉の途中、少年から雷のような稲妻が迸るオーラが溢れ出てくる。


「――遅いんだよ」


 私も、この乗っ取った男の子も…、例えヘレイムシングすらも目で追えぬほどの速度で、刀が私の体に触れた。


「…ッ!いつの間に斬られたんだ…」


 気づいた時には辺りは血塗れになっており、出血多量で意識が朦朧としてくる。


「はぁ…はぁ…、やばい…、次の宿主を…」


 その言葉が聞こえてくると同時に私の体は支配権を取り戻し、体が自分の意思で動かせるようになった。


 だが、血を出しすぎて今にも死にそうだ…。


「ヒール」


 あれ…?出血が止まった…?


「もしかして二重人格とか?大変だなぁ」


 呑気な物言いで近づいてくる少年。

 さっきの威圧感はまるでなくなり、今では普通のどこにでもいる少年のようにしか見えない。


「私の体が乗っ取られていたんだ。助かったよ、ありがとう」


「いいよ、それくらい。でもちょっと離れていた方がいいかも。だって、あいつが我慢出来なさそうだから」


 少年が視線を変えて、向き直る。

 その先にはヘレイムシングが、歪みに歪んだ笑顔でヨダレを垂らしていた。


「速えぇ…、八源厄災の俺ですら捉えられなかった…!」


「な、下がってた方がいいぞ」


「わ、分かった」


 俺は逃げるようにして、神聖国から逃げ出した。

 何か嫌な予感がしたからだ。だって、あの2人が戦ったらその周りがどうなるか分かったもんじゃないからな…。


 ―――


「もう我慢出来ないぜ!ひひっ!行くぞッ!」


 見た目は至って普通の人間のような見た目をしているヘレイムシング。

 だが、その周りからは炎が漏れ出ていて、溢れ出す力を抑えきれていないようにも見える。


 俺はこの半年で限界突破の消費魔力を極限に抑えるように作り直した。

 それによって出来るようになったことは限界突破に属性を付与することだ。

 属性を付与すれば、その属性の特性の恩恵を限界突破中に得られることが出来る。

 実質、限界突破と属性身体強化を同時に発動しているのと同等になる。

 限界突破と属性身体強化は2つとも身体強化の魔法から派生乃至強化された魔法だ。

 だから、普通はその両方を同時に使うことは出来ないのたが、俺はそれを擬似的に出来るようにしたのだ。


 だから、さっきのように…。


限界突破・雷リミットビュート疾風迅雷スピード


 刹那の一閃、その刀身の輝きは誰も見えず、だが、確かにそこにある。


勇ましき者の不可視の輝きインビジブル・ブライブ


 ――八源厄災だろうと、俺の一閃には遠く及ばない。


「くっ、異常だ…。八源厄災を凌ぐなど有り得ない…」


 ヘレイムシングの方へ振り向くと、そこには人化を維持出来なくなった焔が現れた。


「こりゃぁ、どうやら俺も本気を出さないといけないらしいな…。ひひっ!それでなくちゃ面白くない…よなぁ」


 焔が次第に大きく、そして燃え上がり始めた。

 そして、3m程の大きな焔になるとその焔は剣を象っていき、次第に焔の巨人まで象るとヘレイムシングは構えた。


 その迸る殺気は今まで見てきた八源厄災の中でもトップクラスの物で、悪寒が走る。


 どうやら、ここからが本番らしい。

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