第122話 狂い燃える炎、相対すは正義の心 その肆

「出来たッ!結界魔法覚えててよかったぁ…」


 あれから1時間後、俺は闇結界を開発出来ていた。

 結界魔法というのは最近基礎が知れ渡った比較的新しめの魔法だ。

 それゆえまだ何も進展がないダイヤの原石のような魔法なのだ。


「よし、はやくいこう!」


 ドカン!ドン!


 神聖国の方から何かが炸裂するような爆発音が静寂な荒野に響き渡る。


「なんだ!?」


「ふむ、何が起こったようじゃな。早く向かおう」


 俺たちは洞窟を飛び出て、神聖国に近づく。


夜の結界ダーク・フィールド


 薄透明の神聖結界が覆う白色の神聖国がまるで夜が降りてきたかのように真っ暗な闇結界が覆い被さる。


「これで、神聖結界の効力は無くなったはず」


 俺たちは闇が降りる神聖国に侵入した。


 ―――


「チッ、なんだぁ?この爆発音は…。俺の国だぞぉ!」


 数刻前までは自分自身で破壊すると言っていたのだが、それを忘れたように謎の爆発音に不快感と怒りを覚えるヘレイムシング。


「リスリッチはどこだぁ!早く原因を排除してこい!」


 神官の男を呼びつけるが、来ない。

 いつもなら直ぐに現れるリスリッチだが、来ない事に不信感を覚える。


「チッ、どうなってやがる…。仕方ない、そろそろ回収の時期かもしれないな…」


 聖杯に宿った焔は足や手を象り始め、次第に人間のような容姿になる。

 一見して普通の20代ほどのさわやかな男だが、その体は炎に包まれていて、髪型も炎が燃え盛っている。


「さぁ、何年ぶりの地上かねぇ」


 人化したヘレイムシングは地下の暗がりから地上へと上がってくる。


「チャチャッとぶっ殺して、ノアと戦いてぇなぁ」


 不敵な笑みを浮かべて、ヘレイムシングは白色の塔から出てきた。


 ―――


『お前はなんなんだ?ただの子供じゃないな?』


「あぁ、そうだよ。ただの子供じゃない」


 ピエロ面の長髪男はガラクタに変わった大通りに立ち尽くす。


「俺は転移者だ。別の世界からやってきた人間だよ」


『口調が…、もしかしてあの男の子も俺と同じように乗っ取っていたのか?』


「あぁ、そうだよ。俺は転移時に力を得たのさ、スキルをなぁ」


『スキル…?』


「そうだ。名は「精悪占領」。他人を乗っ取ることが出来き、悪感情を力に変換出来るスキルだ。これぞ、まさに俺TUEEEEだろ!」


 不敵な笑みが次第に大笑いに変わっていく。

 ピエロ面から発せられるその声はまさに狂気だった。


「そこで俺ほ八源厄災とやらを乗っ取って世界最強へと至るのだ!いいだろ!これで世界一の魔法使いだぞ?」


(はぁ…、私はなんてついてないんだ。夢を語ったと思ったら精神を乗っ取られて…)


「よぉ、ひひ!お前がこの街を壊した元凶だなぁ?」


 街の中心から20代ほどの若い男が歩いてくる。

 その男はピエロ面を1点に見つめて、不敵な笑みを浮かべている。


(なんだあいつ?この状況を分かってないのか?)


「死んで」


 高速の斬撃を手刀から飛ばす。

 その斬撃は男の首を完璧に捉え、切り抜けた。


 だが、男は避けることも無く斬撃を食らいなお近づいてくる。

 切られたところは切断面が炎で燃え盛り、次第に再生していく。


「なんだ?お前、斬撃が効かない敵か?そもそも人間じゃないな?」


 今度は炎の弾丸を飛ばす。

 だが、それすらも食らってなお男は歩みを止めない。


「…効いてない…、いや通り抜けてるのか。実体がない敵…。切断面から見るに炎そのもの、みたいな感じか?」


「なんだぁ?もっと撃ってこいよ!楽しくねぇだろ!」


 男は右手を翳して、炎系統魔法を放つ。


「…炎低級魔法ファイアか?舐めてるのか?」


「ふっ、いいから撃ってこいよ。一方的にやられるつもりか?」


「あぁ、分かってるよ早死にやろう。5連フレイムバースト」


 5つの巨大な炎と1つの小さい炎…、その差は歴然だが、ピエロ面は不信感を抱いていた。


(…なにか怪しい。なぜ低級魔法なんぞ撃ってくるんだ?警戒…)


「ひっ」


 ピエロ面の顔の真横を通り抜けたのは小さな炎玉…、のはずだが、後方にて爆音で爆発する音が響き渡る。

 後ろを振り返ると、そこには巨大なクレーターが出現していた。


「…炎そのものの体…。それにその異常な魔法の威力。そうか、お前が…」


「焔環のヘレイムシング、だ。なんだ、怖気付いたか、つまらない野郎だ」


「はっ!いや、寧ろそちらの方から来てくれてありがたいよ。だって俺のスキルは絶対だからだッ!」


 ピエロ面の男は脱力して倒れる。


「スキルだァ?ひひ!こいよ!」


 その時、神聖国内は夜の帳が降りた。


 ―――


「なんだよ、この有様は…」


 俺たちが神聖国内に入るとそこには白色の綺麗な街並みは無くなっており家の残骸が至る所を埋めつくしていた。


「…あの2人…」


 神聖国の中央に続く道にて誰かが戦っているのを確認出来た。


「てめぇはっ!ノア!ひひひ!」


 若い男が俺の名前を叫んで、不気味な笑い声を上げる。


「あぁ、そうだが…。お前は誰だ?」


「俺かぁ?俺はなぁ!!」


 男の不気味な笑みは更に歪んで、この世のものとは思えないほどの表情になる。


「――八源厄災が1人、焔環のヘレイムシングだ!」


 その声が夜の帳が降りた静かな神聖国内に響き渡った。

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