第121話 狂い燃える炎、相対すは正義の心 その参

 その巨大な渦は魔力の塊を呑み込み、その姿を消した。

 一瞬にて、その魔力の塊が呑み込まれて、改めて八源厄災の恐ろしさを実感する。

 ジェンドマザーはこんな性格だが、やろうと思えば世界を滅ぼせるのだ。


「なんとか、なったな」


「うん!やった、ね…」


 ジェンドマザーが疲れきって、ステップウィンドを発動できなくなり落下していく。


「あ、危ねえ」


 咄嗟に飛び出してジェンドマザーを抱える。

 八源厄災だから死なないだろうけど、流石にこの高さは怪我をするかもしれない。


「魔力欠乏症かも…、私ってそこまで魔力の総量高くないんだよね…」


 どんどん顔色が悪くなり、人化が解除されてスライムになり俺の腕からズルズルとずり落ちていく。


「お、おい!」


「う、うぇぇ。さっき食べたやつ吐きそう…」


 地面に落下したジェンドマザーを追いかけて俺たちは地面に降り立つ。


「ジェンドマザー!しっかりしろ!」


「ちょ…、ノア。魔、らょく回復ポーショ…」


「おい!しっかりするのじゃ!死んじゃ行かんぞ!」


「…ほんとに苦し、い。吐く…」


「は、半年しかお前と一緒に居られなかったが、楽しかった。ありがとうジェンドマザー」


「たすけ…、うおぇぇ…」


 ジェンドマザーがぐちゃぐちゃになった何かを吐き出して、場は騒然となった。


 ―――


「ひひ!本当だなぁ!益々楽しくなってきた!もう、この国も壊してもいいかぁ?」


「いや、最高のSHOWにするには最後まで我慢して…、壊すのが1番です」


「そうだなぁ!ひひっ!もう行っていいぞ、彼奴らを引き続き監視しておいてくれよ」


「はっ」


 神官の男は後ろを振り返ると、扉から暗がりを出ていく。


 階段を上がりながら地上に戻りながらも神官の男は常に考え事をしていた。


 チッ、不快な野郎だ。

 神聖国をぶっ壊す?舐めてんのか。

 ここは俺の故郷にして、宝だ。確かに、力を貰ったのは感謝はしている。


 だが、それとこれは違う。

 今の俺は、かの八源厄災を超えるほどの実力を備えている。

 あんなただの火の粉なんぞにこの国を潰されてたまるか。

 彼奴を殺して俺が炎の八源厄災として生まれ変わり、この神聖国の王となってやる。


 だが、まだだ。

 まだ力を蓄えて限界まで力を付けて殺し合いをしよう。


「ふふふ…」


 神官の男の不敵な笑みが、静寂に包まれる白色の塔に響き渡った。


 ―――


 本当に苦しそうだったので、魔力回復ポーションにてジェンドマザーを復活させる。


「………」


「睨むなよ、ごめんって」


 さて、あの魔力の塊を対処したのはいいが…、神官の男はどうしようか。

 白色の塔に近づくにつれて、神聖結界は強くなっていきフェルとジェンドマザーの動きは鈍くなるし、俺とダーグだけじゃあの男を倒せるか分からない。


「神聖結界をどうにかする必要がありそうだな」


「ふむ、じゃあ結界を上書きをするか?出来るか分からないが…」


「結界の上書き、か」


 結界の上書きは上書きされる方の結界より強く性能がいいものを張らないといけないし、相性がいい魔法を使わないといけない。


「神聖魔法に有効的なのは闇魔法だが、ダーグは結界は貼れるか?」


「世間体では闇魔法操るイメージがあるが、俺は武器等に纏わせるくらいしか出来ないぞ?」


 ふむ、ならどうすればいいか…。


 …いや、違うな。無いなら作ればいいんだよ。


「いっちょ、闇結界を作ってやるか」


「無いものは作る、か。ノアらしいな」


 さて、早速取り掛かろうとするか。


 俺たちは身が隠せる洞窟を近くで見つけて、闇結界の開発に取り掛かった。


 ―――


 ピエロ面の長髪男は白色の整った街並みを堂々と闊歩する。

 その歪な差が不気味さを醸し出し、街ゆく人々が徐々に離れていく。


『あれ、俺は…』


「あ、おじさん。やっと起きた」


 ピエロ面の長髪男の頭の中で声が響く。

 そして、逆に子供のような無邪気な声がピエロ面から聞こえてくる。


「おじさんの体、僕が乗っ取っちゃった」


『は?乗っ取った…?』


「うん!でも安心して、世界一の魔法使いになれるよ」


『どうゆう…ことだ…』


「――僕が、世界中の人間をコロスからさ」


 ピエロは唐突に両手を天に掲げる。

 そのふたつの掌中から現れたのはビー玉ほどの小さい玉。


「これはね…、世界を滅ぼす魔法さ」


 天に向かって放たれたその小さくも力強い魔法は100メートル程上空を飛ぶと、劈く炸裂音と共に破裂した。


『あ、ぁなんて事を』


 数瞬後、目の前に現れた景色は全てを消し去ったあの魔法が霧散するところであった。

 整った白色の綺麗な街並みが一瞬にしてガラクタへと変貌する。


 少しして、巻き込まれた人間は自分の身に何が起こったかを理解する。


 そう、それは人間では抗うことの出来ぬ「天災」のせいなのだと。


 腕が千切れた人間や下半身がない人間、頭を吹っ飛ばされて直に死ぬ人間でさえも、等しく平等に一瞬にして脳が「仕方ない、諦めろ」と指示を送った。


「ふふ、この感情…!人間が死ぬ瞬間に抱く恐怖ッ!これほどまでに美味いものがあるだろうか!!」


 ピエロ面の長髪男は狂ったように叫び散らす。


 だが、それを咎めるものはいない。


「いたぞッ!撃て!」


 警備団が諸悪の根源を見つけ、魔法攻撃の指示を部下に出す。


「死んで」


 だが、警備団は自分の死すら感じることも出来ずに力尽きる。


「さぁ、今すぐ殺してやるからね…。…!」





 ―――――――――

 読み方は焔環えんげんのヘレイムシングです。傍点とルビが同時に使えないので紹介しました。


 ※この章に名前を付けるのを忘れていました。今の章は「8章 神聖国編」です。

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