第120話 狂い燃える炎、相対すは正義の心 その弐
神官の男が放った特別巨大な魔力の塊は北東方面…、王国側へと一直線に向かって飛んでいく。
速度は俺たちの足で追いつけるレベルの速さだが、最初より少しづつ速くなってきているから予想より早く王国に着くと予想出来る。
「チッ、どんな密度だよ…」
この魔力の塊に干渉しようとすると、変化を恐れるように拒絶される。
「ふむ…、この魔力の塊が地面に被弾したら本当に王国を丸ごと飲み込んで更地にしてしまうだろうな。あの神官の男も世界で指で数えれるほどの強者であろう」
感心している場合ではないが、確かにこの魔法を見るとそう思ってしまうのも仕方ないくらいに、あの男の放ったこの魔力の塊は異常なのだ。
「何か、案がある奴はいるか?」
「………」
そうりゃあ、沈黙だろうな。
流石にこの途方も無い魔力の塊に対する答えはなかなか見つからない。
「さて、本格的にやばくなってきたが…」
「ノアの
「確かに出来るかもしれない。だが、あの密度の魔力を反射出来るのかも分からないし、出来たとしても神聖国内やそれらの付近に着弾することは間違いない。それじゃあ、意味が無い」
無関係の人間を多量に死なせたら、俺は人間ではなくなる気がする。
死に対して何も思わなくなってしまうような、そんな感じがするのだ。
だから、それだけは俺の選択肢にはない。
「…もしかして、この魔法って炎系統の魔法なのかな?」
「そうだろうな、炎が形を形成しているからな」
「なら、私がどうにか出来るかもしれない」
あぁ、そうか。
そうだった、魔法には「相性」があるんだった。
そんなことを気にする機会がなかったから学んでいたが、すっかり忘れていた。
「土は雷に強く、雷は水に強く、水は炎に強い…、試してみる価値はあるな」
ジェンドマザーが徐に魔力の塊の軌道上に立ち塞がる。
「私が何の八源厄災か知ってる?」
「あぁ。当たり前だろ?」
「ふふ、行くよ!
―――
「おじさん、夢はある?」
「夢、かぁ」
ピエロ面の長髪男と男の子は魔法について語り合ったあと、話題は夢についてに変わっていた。
ピエロ面の長髪男は少し考えたあと、何かを諦めたように語り始める。
「私は世界一の魔法使いになりたい、そう子供の頃に願ったよ。だが、私には才能がない。子供の頃からもそうやって周りから言われ続け、大人になってからも魔法の研究なんてせずに働け、そう言われる。周りの人たちが言いたいことは理解はしてる。だけど、理解出来たとしてもそれを捨てることは出来ない、だろ…?」
ピエロ面の長髪男はこんなことを将来有望である男の子に話しては行けない、そう感じたが、話し始めた時には次々に言葉が綴られて、やがて全てを言いきってしまう。
「…あ、あぁ。すまない、こんな話…」
「魔法、使いになりたい?世界一の」
ピエロ面の長髪男は男の子から予想もしてなかった言葉が出てきて驚く。
世界一の魔法使い、か。
私の子供の頃の夢だ、そりゃあなりたいし、なれるならなっている。
「あぁ、なりたい…な」
「じゃあ、僕に体を預けて。世界一の魔法使いになれるよ」
「体、を…?」
…あれ?俺は…、何をやっていたんだっけ…。
「体を、さぁ」
あぁ、そうだ。
世界一の魔法使いになるんだった。
「世界、一の…、魔ほぅ…」
ピエロ面の長髪男は気を失い、力なく地面に倒れ伏せる。
「その感情、実に美味い…。嫉妬、憎悪、嫌悪…、ふふふ、最高」
いつの間にか立ち上がったピエロ面の長髪男は路地裏から光の射す大通の方へ歩き出す。
そこには既にあの男の子の姿は消えていた。
―――
空から、まるで海が落ちてきたかのような、そんな光景が目の前に広がる。
大量の水は大海を表現するように、一筋の炎の玉を怒りを込めて包み込む。
だが、大海の中、未だに燃え続ける魔力の塊は海をものともせずに、再び王国に向かい始めた。
「ジェンドマザー…!」
「分かってる!正直
魔力の塊の軌道上を跳躍で後ろに後退して、ジェンドマザーが魔力を練り始める。
「
水の加護は水系統魔法の威力を少し上げてくれる補助魔法だ。
効果は心許ないが、ないよりはマシだろう。
「大海の悉くよ、私に集まりて力となれ。ネプチューンよ、私に大海の怒りを。放つのは全てを呑み込む大災害、大海の怒りに触れて」
フェル以上の凄まじい魔力の全てがジェンドマザーに集まっていく。
その姿はまるで、大海の如く。
「
大空に現れたのは全てを飲み込まんとする大渦巻だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます