第117話 恐ろしく速い手刀

 ゴッスがゆらゆらと空中で揺れながらも目的の場所へ一直線に向かっていく。


 そして、やってきたのは1つの洞窟であった。


「ここにイミテスゴーストが…」


 入口は子供1人がギリギリ入れるような小さな穴だが、奥には大きい空洞が続いている。


 魔物が身を隠すならうってつけのところだな。


 俺は背を縮ませて小さい洞窟の中へと入っていく。

 中は真っ暗で見えずらかったので、神聖魔法を使って辺りを照らす。


「わっ、お前らがイミテスゴーストか」


 明かりが照らす洞窟の奥に、イミテスゴーストらしき魔物が、5匹ほど並んで怯えるように身を寄せあっている。


 それじゃあ、早速イミテスゴーストを服従魔法でテイムしていくか。


「え?なに?」


 俺が魔法を使おうと近づこうとしたら、ゴッスが何やら訴えかけてきていることに気づいた。


「油断、するな?」


 その言葉を発したと同時にイミテスゴーストたちは魔法を唱え始めた。

 イミテスゴーストが唱えているのは全て上級魔法で、こんな小さな洞窟で放たれると不味いことになる。


「気は抜いていたが、油断はしてないぞ」


 数秒後、イミテスゴースト5体から放たれたのは土系統の上級魔法だった。


 それらは俺目掛けて飛んでくる。


反逆の大鏡リベレクション


 だが、大鏡にその全ては吸われて、代わりにに放った本人を狙う土系統魔法がすれ違うように出てくる。


「な?」


 土系統の上級魔法は跳ね返って炸裂した。

 イミテスゴースト5体は己の放った魔法でその場で気絶してしまった。


「取り敢えず4体テイムしよう。あと一体は逃がしてもいいが…」


 もしイミテスゴーストが群れで生活する魔物だったら1体残されたこいつが可哀想になるな。


魔力の譲渡バフ・リタリア


 1体残すことにしたこいつには俺の魔力を分け与えてあげた。

 1体だけでも生きれるほどに強化はしてあるから大丈夫だろう。


「じゃあな、なんかすまんかった」


 洞窟内でたった1体気絶するイミテスゴーストに申し訳なさを抱きつつも俺はみんなと合流をする。



「すげぇなぁ、流石はノアだぜ」


「うん!流石だよ!」


 この2人は割と素直に褒めてくれるから嬉しいな。

 俺もたまたま見つけたようなもんだから、胸張って「おう!」とは言えないが…。


 しかし、テイムした魔物と意思の疎通が出来るというのは相当な利点だと思う。

 例えば空を飛ぶ魔物をテイムすれば空からの情報を受け取れるし、海の魔物は海の情報をリアルタイムで受け取れる。

 昔から存在はするテイム魔法、またの名を「服従魔法」はかなり有能な魔法のようだ。


「お、ノアたちじゃないか。イミテスゴーストは…。その様子だと捕まえたようだな」


「おう、きっちり4人分だ。さて、ここからが問題だな」


 そう、誰が誰に真似て神聖国内に入るか、だ。


「黒づくめの2人組が定期的にこの正門を出入りしている。その黒づくめの人間を気絶させて衣装を全て奪って真似て入れば良いと思うのじゃ」


 なるほど、黒づくめなら顔をあまり見られることは無いし、もし見つかったとしても中身が真似た顔なら不信がられることはないだろう。


「いいねその案。黒づくめの人には申し訳ないけどね」


 そして、俺たちは数時間その場で気配を消して待機していた。

 そして、遂に黒づくめの2人組が正門から出てきたのだった。


「つけるぞ、くれぐれも気づかれないようにな」


 そう言いつつも黒づくめの2人組を追いかける。黒づくめの2人組はフェルの言っていた方角とは違う北方向へ向かって駆け出していた。


「…ふむ、この先には獣人族の里がある。何故か神聖国が我たちが獣人族の里に行っていたことを知っているようだ」


「…まぁ、とにかくあの二人を捕まえよう」


 俺たちは着実に黒づくめたちに近ずき、ダーグが手刀で意識を落とした。

 黒づくめの2人組は両方ともぐったりと倒れ込み、無防備な姿を晒す。


「あ、2人とも女性だったのか。ならこの2人はフェルとジェンドマザーだな」


 イミテスゴーストはあくまで外見を変えるだけで、その人物そのものをコピーする訳では無い。

 取り敢えず、フェルとジェンドマザーがこの2人の変わりとして神聖国に入り込めるな。


「4人分集めて、4人でわざわざ行くことは無いだろう。我たちが先に先行しているから、ノアたちも黒づくめが出てき次第潜入してくれ」


「了解、偵察は任せたぞー」


 ―――


「おい、なぜ戻ってきた?忘れ物か?」


 …しまった、この人間の声を聞いておけばよかった。

 我のアホ…。


 フェルは自分の先を見据えた行動が出来ていない自分を叱責しつつも、打開策を頭の中で練り上げていく。


「はぁ、全くお前はいつもそうやって黙りやがって。通れ」


 …打開策を練る前に勝手に解決して、それを利用して正門から堂々と入ろうとする2人。


「あ、待て待て。流石に知り合えといえど確認は必要だ。顔を見せてくれ」


 そう言われるとフェルはフードを少したくし上げ顔を見せる。

 門番はその顔を見ても何も不審がらずに、本人確認を済ます。

 次にジェンドマザーも確認するが、バレるはずもなく門番はスルーする。


「さっ、行っていいぞ」


 正門から堂々と神聖国に入る2人。

 だが、フェルもジェンドマザーも入った瞬間に不快感を感じた。


「…微弱な神聖結界が張られているのか。我たちは魔物だから拒絶反応が起こっている訳か」


「ちょっと不快だけど、まぁ気にしなければ大丈夫でしょ」


「そうじゃな。さて、先ずはこの国で一番偉い奴を偵察に行くぞ」


 2人が目指すのは神聖国の中心に聳え立つ巨大な白色の塔であった。







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