第118話 欲望、芽生え
「はぁーあ、全く警備団の奴らめ。私の公演を邪魔するなんて」
ピエロのような不気味な仮面を被り、髪を肩まで伸ばした派手な衣装を身にまとっている男は路地裏に座り込むと、警備団への愚痴を口に零す。
「私の魔法の公演を少しでも聞けば奴らも私の凄さが分かるはずなのだが…、奴らは少しも私の声を聞こうとしない」
男は人差し指を体の前に出すと指先から炎系統の魔法をボッと発動させて、その炎を見つめる。
「…フレアミート、私が初めて開発した常に一定の火力を保つ炎系統低級魔法…」
火力を一定に保つというのは瞬間的な火力を出すよりも精密な動作を要求されるから難しいとされる。
だが、私はそこに着眼点を経て、誰でも一定の火力を保てるようにする魔法の下地を作ろうとした。
だが、私の魔法の才能では遠く及ばず、低級魔法止まりとなってしまった。
「気づいているよ、私は才能がない…」
「そんな、ことはないと思うよ」
声のする方へ視線を向けると、そこには5~6歳だろうか?それぐらいの男の子が立っていた。
「君は…、そう言えば公演を見ていたね。どうだい?私の魔法は」
「凄いと思う」
男の子の顔は初めて見たその時からずっと無表情である。
恐らく子供ながらお世辞を言っているのだろうが、顔はコントロール出来ていないのだろう。
子供ながらにその心遣いは、逆に悲しくなるところがあるな。
「僕にも魔法を教えて欲しい」
「ほう?魔法に興味があるのか。流石私の公演を見に来ただけはあるね。さぁ、何から教えようか」
お世辞だとしても、こう言われると嬉しいところがあるな。
「フレアミートから」
「ほう!なら教えよう!」
不気味なピエロ面の長髪の男と小さな男の子、そのおかしな2人組は路地裏にて魔法の講義を始めた。
―――
白色の塔へと続く正門からの一本道を黒づくめの2人組が歩いていく。
その光景は珍しくはないようで、街の人たちはその2人組を見ても特に気にせず、いつも通りの生活をしている。
「お腹空いたかも…」
ぎゅるぎゅるとお腹を鳴らして、本当にお腹がすいてるんだぞ、と訴えかけているようにフェルに伝える。
「…私たちは数ヶ月食べなくとも生きていけるだろう」
「…でもさぁ…、食べる喜びを知っちゃったからぁ…」
数ヶ月間の間、ずっとアルトルのこの世のものとは思えないほどに美味しい料理を食べてきているジェンドマザーは、食べる喜びを知り、食べることに意欲的になっていた。
ジェンドマザーは耐えられるほどの空腹感でも、なにか入れないとお腹がなるようになってしまっていた。
「アルトルの料理が美味しすぎるのがいけないんだ。日に日に上手になってきて、最近さアルトルの料理を食べることが一日の楽しみにもなってるからね」
「その気持ちは分かる。彼奴は料理の才を持っているとしか思えないほどに、誰もが満足できる料理を提供する」
ジェンドマザーの話に乗ったフェルだが、その話のせいでアルトルの料理のことを思い出して、フェルまでも空腹感に襲われる。
「ご飯、食べに行こう」
「おぉ!いこいこ!」
白色の塔へ行く目標は何処へやら、美味しそうな料理を探し始めた2人であった。
―――
フェルとジェンドマザーが正門から侵入して1時間後、黒づくめの2人組が出てきた。
フェルが言うには10時間強毎に出てくると言っていたが、今回はかなり早かったな。
「行くぞ、ダーグ」
「了解、任せろ」
2回目ということもあり、スムーズに身ぐるみを剥がしてイミテスゴーストの力を借りる。
「む?また忘れ物か?最近の影は忘れ物が多いな」
影…?
あぁ、こいつらの所属してある部隊か?
「まぁ、いい。顔を見せてくれ」
俺はすっとフードを上げて顔を見せる。ダーグも同じようにフードを上げる。
「ふむ、おっけーだ。通れ」
意外とザルだなぁ…。
まぁ、神聖国内に侵入する人なんてほとんど居ないだろうから門番も気を抜いてるのかな。
「取り敢えずふたりと合流しよう」
ふたりは…、なんで街にいるんだ?
偵察するとか言ってたような気がするが…。
ふたりの気配を辿り、着いたのは料理店だった。
「いらっしゃいませ、お席は…」
「あ、すみません。待たせてる人がいるんでそこの席に座ります」
店内を見渡して、1番端の4人席のところでバクバク飲み食いをしているふたりを見つけた。
「よう、出される料理を偵察してるのか」
「ノ、ア!」
「ごほっ!ごほっ!うぅ、おえぇぇ」
ジェンドマザーが食べ物が変なところに入ったのか、噎せ始めた。
「全く、何やってるんだよ。食べたら行くぞ」
「腹が減ったから食べたのだ。金は持ってない」
「ここまで堂々としてる無銭飲食犯は初めて見たよ」
飲食店でまさかの金貨を払うことになり、フェルを睨むがそんなことは気にしないといった風に口笛を吹いている。
「ほら、さっさとあの白色の塔へ行くぞ」
腹が脹れて移動がしずらくなったジェンドマザーを横目に、俺たちは白色の塔へと向かうことにした。
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