第114話 串焼き

 私はクレランス。


 ダークエルフの奴隷で、ノア様に仕えている。

 私は主に戦闘の奴隷として貴族やはたまた普通の一般人などに仕えてきた。

 その仕事の殆どは殺人や暗殺などの暗い仕事だ。


 だけど、ある日私はしくじってしまった。

 ある者を殺そうとしたら、返り討ちにあい、命からがら逃げ切ったのである。

 それからその当時の雇い主に解雇され、私は奴隷市場にて売られるようになった。

 そして、私が展示されて少し経った時にエルフが私を買った。


 そのエルフも奴隷なようで、帰る途中ご主人様のノアという人間のあれこれをずっと聞かされた。


 そして、ノア様に会ってびっくりした。


 今まで私を買っていった者たちはみんな私を生き物扱いしてくれなかった。


 それがどうだろう、このノア様は自室を与え、仕事を与え、給料を与え…、兎に角もう滅茶苦茶なのである。

 こんなんだったら、私の知り合いのダーグエルフの奴隷を全員使用人にして欲しい…、なんて思ってしまう。


 だが、私が連れてこられて最後、もうノア様には奴隷を雇う気はないらしい。

 まだ部屋はかなり余っていて、何人も住めそうな感じがするのだが、恐らくやらせる仕事がないのかもしれない。


 そんな偶然にも私はノア様に雇われて、幸せな生活をしています。


 ―――


 ジェンドマザーは悠久の時を生きるスライムだ。

 その時間の感覚は人間の感覚より何十倍もズレている時がある。


「あ、あのー、大丈夫ですか?」


「んぅ?あ、チェリアちゃん!どうしたのかな?」


「もう1週間も出てきてないので少し心配で…」


「あら、もうそんなに経ってるのか」


 人間と同じ時間軸で生きてちゃやっぱ感覚がおかしくなっちゃうね。


 でも、遊び相手が居ないのが原因だと私は思う。

 あの夏休みの時、なんだか時間が長く感じたもの。


「あ、チェリアちゃん!どこか探検しに行かない?」


「えっ…、でもここを出たら怒られちゃうだろうし…」


「私が全部引受けるよ。さっ、探検しに行こ!」


「じゃぁ、そう言うなら…」


 遊び相手を見つけたジェンドマザーがチェリアを肩に乗せて街に繰り出した。


 街は雪が降っているというのに人で賑わい、その寒さも吹っ飛ぶような活気で溢れていた。


「串焼き…」


「お?串焼き食べたい?なら私が買ってあげるよ!」


 ジェンドマザーは意気揚々と串焼きの露店へと近づいた。


「おっちゃん、串焼きくれー」


「おう、何本だ?」


「んー、5本!」


「あいよー」


 ふむ、それで人間はお金と交換するんだったよね。

 そう言えば、ノアに金色のやつ貰ってたな。


「はい、5本だ…よ、ってなんで金貨…」


「あ、あれ?これ使えないの?」


「き、金貨を両替なんて出来ねぇぞ!」


 ジェンドマザーはせっかくチェリアにかっこいいところを見せるチャンスを失う。


「くそぅ…、ノアの奴騙しがったなぁ…」


「誰が騙したって?はい、おっちゃん」


「お、ノアじゃねぇか。サービスしとくぜ?」


「サンキュー、また来るよ」


 ジェンドマザーはその華麗に買い物をするノアの姿を見て感動を覚えた。


「かっこいいね!颯爽と現れてお金を払ってくれるなんて」


「そんなこと言ってないで、串焼き食おうぜ。冷めるぞ。はい、カルトの分もあるぞ」


「わーい!」


 ジェンドマザー、チェリアのパーティはノア、カルトを引き連れて白銀に染る王国を探索するのだった。


 ―――


 エマ、オーウェン、エミリート、レオの4人は雪が降りしきる街を歩いていた。


「しっかし寒いなぁ」


「あぁ、全くだ」


 軽く雑談しながらも、目的の露店へ歩みを進める。


 この4人、つい先程までは寮にいたが全員暇なこともあり街に繰り出してきたのだ。

 そして、目的の露店、つまりノアが最近毎日行ってるという串焼きの露店へと興味が湧いてみんなで行くことにしたのだ。


「なんでわざわざ寒い中で串焼きなんて…」


「エマは分かってないな。こういう寒い日に熱いものを食べたらより一層美味しくなると思うぞ」


「そんなもん?」


「あぁ、そんなもん」


 歩いて歩いて、露店を見つけた4人。

 そこには串焼きを買った直後であろうノアたちがいた。


「あれ?みんな何やってるの?」


「ノアが、すごく美味しいって言うから来たんだよ」


「うん、凄くいい匂いがする」


「お、そうだったのか。…いいこと考えた、みんなこれから暇か?」


 それぞれがその質問に反応し、その答えは全員暇だ、という答えだった。


「じゃあ、今からうちの家に集合!串焼きパーティします!」


「いえーい!」

「パチパチ」

「さっすがー!」


「そして、今からあの串焼き屋の店主を一日だけ雇ってきます!」


「いいぞー!」

「さいこう!」


 ノアは串焼き屋の店主に10金貨(串焼き屋の半年分の売上に値する)を渡して無事、雇うことに成功したのだった。


「フェルー!だらけてないで降りてこいー!使用人たちももう仕事は終わっただろー!パーティだー!」


 ノアは豪邸に入るなり、いきなり大声でみんなを集める。

 そうして、この豪邸にいる使用人や住人を食堂に呼んだ。


「んじゃあ、グラス持ったか?」


「「「おー!」」」


「カンパーイ!」


「「「カンパイ!!」」」


 総勢17名の串焼きパーティは日を跨いでも尚勢いが衰えることなく、盛り上がり続けたのだった。







 ―――――――――

 総勢17名の内訳

 Sクラス

 ノア、フェル、カルト、エマ、オーウェン、エミリート、レオ

 住人

 ダーグ、フェル、ジェンドマザー、アウレナ

 使用人

 チェリア、フルティエ、アルトル、セリア、シェーリン、クレランス

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