第113話 白銀の王国
日本の夏より、比較的涼しいこの世界の夏が終わりを告げ、秋も通り過ぎて、冬になった。
この世界の冬は雪がかなり降り、子供が雪で遊ぶ光景が王国を彩る。
白銀に染った王立魔剣学校は、もうすぐ冬休みにさしかかろうという時期だった。
「ふっ、ふぅっ」
取り敢えずここらで筋トレは一旦休憩だ。
しかし、かなり筋肉がついてきたな。
前世では筋トレをそんな時間は確保出来なかったから、不健康まっしぐらだったけど、この世界では健康だと自分でも自覚出来る。
「ノアー!遊ぼ…、きゃあ!」
ノックもせずに入ってきて、悲鳴を上げて扉を思いっきり締めるカルト。
そう言えば、上半身裸だったな。
汗を拭いて、服を着て扉奥にいるであろうカルトに話しかける。
「入ってきていいぞー」
「は、入るよー!」
カルトはよそよそしく部屋に入ってきて徐に椅子に座った。
「どうしたんだ?」
「いや、ね?今から街に探索に行かない?」
探索、ねぇ?
俺は前世では彼女なんて1人もいなかった。
でもこれは、何となく分かる。
これは、デートだ。
彼女の好意には何となく、伝わってくる。
やはり、改めて鈍感系主人公なんて存在はしないんだろうな、と思う。
彼女がいなかった俺ですら、好意を抱いてるのことに気づいてるのに。
「あぁ、いいよ。探索って言ってもどこ行くんだ?」
「えっ、えーと!買い物とか!」
…カルトのやつ、考えてなかったな。
「分かったよ。行こうか」
俺はカルトを連れて街に向かった。
―――
私は、チェリア。
ノア様の使用人で、普段はお掃除をしているけど、剣の訓練もちゃんとしている。
普段はフルティエさんが、訓練に付き合ってくれるけど、たまにノア様が来てくれることがある。
ノア様は日に日に強くなっているように感じて、ノア様に勝てるビジョンが全く見えない。
けど、戦ってて楽しいからそれで満足してる。
勝てないのは悔しいけどね。
「あ、あれ?フルティエさんは今日はミニスカートなの…?」
「チェスで負けてしまいました。私はノア様のキスを望んだので、ノア様は私のミニスカートを望まれて、それで負けて…。クソッ…」
フルティエさんの方は日に日にノア様に積極的になっている。
ちょっとモヤモヤする気がする。
「さっ、そんなことは置いておいて、今日も訓練をしましょう。動かないと寒くて凍えそうです」
それなら服を着たらどうなの…?
と思ったが、チェリアは訓練に集中することにした。
ノア様に最近教えて貰った魔法、使わせてもらいます!
「身体強化:雷」
「ほう?属性身体強化ですか。よく覚えましたね」
集中して、制御を。
速すぎてもダメだし遅すぎてもダメ、ちゃんと自分に合った速度の調整…。
「行きますっ!」
「えぇ、来てください」
もう100回以上フルティエさんと戦ってるから、もうそろそろ勝たないと!
「ここっ!」
速さを活かした、突きの突進を繰り出して、接触の直前、木剣を引いてフルティエさんの後ろに回り込む。
「はぁっ!」
頭に狙いを定めて、木剣を思いっきり振り下ろす。
接触まで3秒、まだフルティエさんは気づいてない。
接触まで2秒、まだ尚フルティエさんは動かない。
接触まで1秒、いきなり動いて振り下ろした木剣に打ち合い、弾かれる。
…なんであそこからあんな早くガード行動に移行出来るんだろう。
早すぎて、勝てる気がしない。
「お!フルティエとチェリア!俺も混ぜろ!」
そう言って豪邸の2回から飛び降りてきたのはダーグさんだった。
この人もたまに飛び入り参加してくる。
このダーグさんもフルティエさんを凌ぐほどに強いのだ。
私の周りはなんでこんなに強い人ばっかりなのだろう…。
「あっ…」
その後、ダーグさんに秒殺されて気を失った私であった。
―――
「シェーリン、スープの調子はどうだ?」
「はい、完璧です」
厨房で忙しなく動き回る2人は、シェーリンとアルトル。
シェーリンは窶れ顔がどんなのか忘れるほどにふわふわとふっくりになり、自身も最近太ってきたと思っているほどに健康的であった。
「しかし、変わったな」
アルトルが作業をしながらもシェーリンに話しかける。
「え?献立変わりました?」
「なんでそうなる。献立なんて一言も言ってないだろ」
「あら?」
「シェーリン、お前が変わったって言ったんだよ」
シェーリンはふむ、と手を顎に当てて考える。
そして、自分の体を触りながら話を続ける。
「確かに、体は変わりましたね。最近太ってきてやばいんですよ」
「ふっ、まぁそういうことでいい。痩せるより太っていた方がいい。その方が綺麗だ」
「なっ…」
シェーリンは不意打ちの一撃により、とてつもないダメージを受ける。
一方、アルトルはなんでもないかのようにずっと作業を続けている。
(こ、この人のこういうところが、心臓に悪いんですよね…)
アルトルはそのまま思ったことを言っているだけだが、それがシェーリンの心には刺さっていた。
体だけではなく、心も変わったシェーリンはアルトルの隣で仕事を出来ることを幸せに思いながらスープの味見をする。
「あっちぃ!!」
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