8章 神聖国編

第112話 闇

 ゴッシブルが未来永劫の古魂の大領域エタニティ・エンソウルフィールドを命を懸けて張った。

 その大結界は邪悪な者を全て通さず、その土地の植物を効率よく育たせる獣人族の領域。


 ゴッシブルが言った通り、獣人族全員の魂は元に戻り全員が誰1人の欠損もなく生存している。

 だが、ゴッシブルが齎したものは大結界だけでは無く、里は完全に破壊され更地になっていた。

 あの発展具合に戻すには何年も時間がかかるだろうな。


 だが、誰も死んでいない。


 死んでなければ、何度もやり直せる。


「ノアさん!どうもありがとうございます」


「いいよ、チェリアの故郷でもあるしね」


 俺は今、獣人族の里の復興を手伝っている。

 もうすぐ夏休みが終わってしまうけど、流石に何もせずに帰るというのは気が引けたのだ。


「しかし、古魂のゴッシブルが私たちのせいで癇癪を起こしてしまったとは…」


 俺は、起こったこと全て話すことにした。

 ゴッシブルが何故攻め込んできたのかを説明し、納得は出来てはいなかったようだが理解は出来たようだった。


 まぁ、確かに理不尽な話である。

 自分の御先祖様がやめてしまった儀式がすごく重要な儀式で、今更になって火の粉となって今の時代を生きる獣人族に振りかかったのだ。


「そうだな。だが、悪い奴ではなかったよ」


「そう、ですか。確かに俺が戦った時は穏やかな話口調でした」


 あぁ、本当にそうだ。

 古魂のゴッシブル、安らかに眠れ。


 ―――


 風の八源厄災、か。

 ノアはそろそろ気づいているだろうな。


「死、雷、水、土、全て倒したきた。たったの半年で…」


 間違いなく、この世界で1番八源厄災と戦った者だな。

 それが名誉か不名誉かは分からないが、な。


「フェルー、もうそろそろ帰るぞー」


 …あんな普通な感じの子供が、八源厄災を倒し回ってると言っても誰も信じないだろうな。


「今行くのじゃ」


 ―――


「ノアさん、ありがとうございます。貴方に会えていなかったら、俺たちの里は本当に終わっていた。ありがとう」


 ヴァレッドがそう言って見送ってくれる。

 俺たちがゴッシブルを倒したのだが、それを信じてくれない獣人族も一定数いるから、見送りは俺たちと関わっていた少数の獣人族だ。


「この里の長として、改めてお礼を言いますよ。ノアさん、ありがとうございます」


「今度はチェリアを連れてくるよ。ここまで半月もかかるからそれが何時になるか、分からないけど」


「そうですか、是非また来てください」


 復興の為に数日泊まったが、もうなんだか離れるのが寂しくあるな。


「あぁ、また来るよ」


「じゃあなぁー!里長〜」


 そう言えばダーグは里長と仲良くなっていたな。

 今度来る時はダーグも連れてこようか。


「さよなら!ノアさんー!」


 ヴァレットのその声が森に響き渡った。


 ―――


「…ノアさんたちに果てしなく苦しい未来が待ってる」


 仮の部屋に戻ってきたら、アースターがそんな不吉なことを言ってきた。


「…見たのか?」


「えぇ」


 去る前に言っておきたかったが、あの人たちの移動速度はとてつもなく速い。

 今追って行ったところで追いつけなさそうだな。


「どんな景色を見たんだ?」


「世界が暗闇に覆われる景色が映ったわ。そこに巨大な闇が現れ、ノアさんたちに襲いかかる」


「なるほど…」


 巨大な闇…、この世界が暗闇に覆われる景色…。

 一体何が起ころうとしているのだろうか。


 ―――


 俺たちは10日間をかけて、王国に戻ってきた。

 既に王立魔剣学校は夏休みが終わって普通に講義が始まっている。

 俺たちが出発する前にノルザさんに言っておいたので、問題は無いと思う。


 そして、俺は豪邸に1度戻ってきた。

 チェリアに話すことがあるからだ。


「ノア様!おかえり!」


「お、チェリア〜、ただいま」


「ノア様、おかえりなさい」


「あぁ、ただいま。少しチェリアを借りるぞ」


 俺はチェリアの自室に案内してもらって、部屋に入ると椅子に座る。


「なん、ですか?」


「…里が全部潰されてしまった。すまない」


 …チェリアの顔が驚きに変わる。


「そうですか、でもノア様はその潰した人を追い払ったんですよね」


「あぁ、その人は命を懸けて獣人族の里に強力な結界を張った」


「ふふ、よく分からないですけど、私は大丈夫です!」


 その笑顔は朝日の様な眩しさを感じた。


「…私の家族のことを聞かせてください。私は小さい頃、何も言わずに攫われて奴隷になっちゃいました。だから、聞きたいです」


「あぁ、いいぞ。まずは里長なんだがな?俺がチェリアのご主人様だって言ったら無茶苦茶ブチ切れて…」


 俺が話終えるまで、チェリアの笑顔が絶えることは1度もなかった。

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