第109話 古より蘇る大地の化身 その拾壱
避難所に戻ってきて数時間、各々が仮眠や休憩をしながらも誰1人も警戒は解いてはいなかった。
大地の化身は未だ動かずに里跡地の中心に居座っている。
このまま動かないで欲しいと思うが、それは有り得ないだろうと心のどこかで察していた。
「仮説をふたつほど立ててみた。聞くかい?」
ジェンドマザーがそう言って話しかけてくる。
ジェンドマザーは休まずに考えていたらしく、こういう時は頼りになるな、と思う。
声に出したら調子に乗りそうなので言わないでおく。
「1つ目、本当にただ出てきただけ。という説」
「ちょ、それは…」
「あー、ほらほらちゃんと聞いてねぇ。八源厄災がなぜこの世に存在しているかノアは知ってる?」
八源厄災が存在している理由…?考えても見なかったな。
「何故か、それはこの世界の均衡を保つため。この世界は不安定な魔素という物質できている。この魔素という物質があるために、私たちは魔法を使えているのだけど、その魔素は魔物の発生も促しているわけ。魔素は時に、世界を脅かすほどに強力な魔物を作ってしまう時がある。それを駆除するのが私たち八源厄災の役目でもある。それらの理由により、大地の化身はその使命に駆られてただ出てきただけっていう説」
なるほど、一応筋は通っている訳か。
「ん?だが、世界を脅かす程の魔物なんているのか?」
「んまぁ、私がそうと睨んでるのは魔物じゃないんだけどね」
魔物じゃない?異世界から渡ってきたスキル持ちの人間か。
確かに…、スキルというのはとても強力で、世界を脅かすほどのスキルがあるのかもしれない。
そんなスキルを持った人間がこの世界に来ていてもおかしくは無い。
「なるほどな。それで2つ目の説は?」
「2つ目は、獣人族の魂を燃料にして動く説、かな。私はこれが一番濃厚かと思ってる」
「魂を燃料に…、なぜそう思ったんだ?」
「まず最初に、大地の化身という八源厄災は獣人族と密接な関係にあるっぽいね。昔の獣人族は偶像崇拝で、大地の神と呼ばれる物を崇拝していたらしい。死体を土に埋めて、大地の神に体を預けると死後素晴らしい世界に行ける、とね。死体を地面に埋めるなんて考えられないよね」
ふむ、それで大地の神と密接な関係にあったというわけか。
文字通り魂レベルの関係性が。
「だが、最近になって獣人族はその風習をやめたみたいだ。最近と言っても1000年くらい前だけどね。その期間、一切魂の供給がなかったため、腹を空かせて出てきた…。ってところかな。どう?」
前者より後者の方が現実味があるな。
「つまり、獣人族をあの大地の化身に近づけると魂を抜かれるって訳か」
「確実にそうとは言いきれないけど、9割方そう思う。だから1キロ程度離れたくらいじゃやばいかも…」
そう言葉を濁すジェンドマザーの声が、いつの間にか静かになった避難所に響き渡る。
静寂の中、森にいる鳥の声だけが木霊する。
「まさか…」
「うん、そのまさかだね…」
もう、そこにいる獣人族全員は魂を吸われたあとであった。
―――
大地の化身、それは大地の神ガイアから神力の一端を借り受ける者。
その者の名前は古魂のゴッシブル。
悠久の時を生きた化け物が、腹を空かして地上に這い上がった。
その姿はまるで災害。
ゴッシブルは全ての獣人族の魂を奪い取り己の腹を満たさんと動き始めた。
―――
「クソっ!どうやって獣人族の魂を吸い取ったんだ!」
急いで里跡地に向かうと、そこには表面が現在進行形でひび割れていき、今にも動き出しそうな大地の化身がいた。
「3連サンダーストーム!」
腕から放たれた雷を纏った嵐は大地の化身に着弾するが、一切のダメージを感じさせない大地の化身の無反応っぷりを見るとノアは驚きの表情を見せる。
「クソっ、魔法が効かないのか?それとも相性か?」
その間にもパキパキと表面がひび割れていき、剥がれ落ちた表面が地面に落っこちてくる。
次第に表面は全て剥がれ落ちて、そこには全身を黄褐色の装甲を纏った巨大なゴーレムがいた。
『なかなかいい魔法だ』
大地の化身はその穏やかな声とは裏腹に、その巨体から放たれたとは思えない拳の速度で狙いを定め殴りつける。
何とか回避して、魔法を放っていく。
効かないかもしれないが、あの巨体のあの拳の速度を見ると迂闊に近づいて切りつけれない。
そもそもあの巨体と比べるとアリほどに小さい零主還藤が決定打になりうるとは思えない。
「お前は八源厄災なのか?」
魔法を話しつつも会話にて弱点が分かるかもしれないし、相手の気が紛れるかもしれないと、話しかける。
『あぁ、私は八源厄災が1人。古魂のゴッシブル。大地の神ガイアから神力の一端を借り受ける者だ』
やはり、八源厄災だったか。
そして、大地…、つまり土の八源厄災だな。
「なぜ今更になって出てきた?腹が減ってたか?」
『はははは、そうだ。魂の供給が無くなっておったからな。私の方からわざわざ喰いに来てやったのだ』
チッ、話してるとこっちの気が紛れてくる。
しかし、こいつを倒すにはどうしたらいいか…。
『私を倒そうとしているのか?ははは、諦めろ、私は万が一にも死にはしない』
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