第108話 古より蘇る大地の化身 その拾

 1日かけて辿り着いた北の海岸線から全力でUターンすること半日、俺たちは獣人族の里へ戻ってきた。


 だが、そこには全てが更地になった獣人族の里であったところだった。


 そして、その里の中心には全長数百メートルを優に超えるほどに巨大な土色のゴーレムが立っていた。


「先生とジェンドマザーは大地の化身の動きを止めに向かってくれ。俺とダーグはまずは負傷者の救助だ」


 俺は早急に飛び出して、気配感知を使い瓦礫の下に埋もれている者や息絶え絶えの者などに回復魔法を使い、救助していく。


 大地の化身が動き出す前に逃げきれたであろう獣人族の集団が、森から1キロほど離れた場所に固まっているので、そこに救助者を集めていく。


 ダーグも順調に救助出来ているようで、残りはあと2人となった。


 気配はあの大地の化身近くから反応がある…、ということはあれと戦ったってことか。


 気配のする方へ近づくとそこには里長が倒れていた。


 取り敢えず回復魔法をかけて、大地の化身から遠ざける。


 ダーグも最後のひとりを救助出来たようで猿の獣人族を抱えている。


 取り敢えず、この2人を起こして話を聞こう。


 ―――


「君が大地の化身なんだね、私初めて見たよ」


 はるか昔の過去にその噂を聞いてから現在まで、一向にその姿を見せなかった大地の化身。


「君は、喋れないのかな?」


 だが、攻撃しても話しかけてもその巨体を動かすことはなく、直立不動でその場を動かない。

 まさに大地の如くだね。


「ふむぅ…。でも黙ってちゃわからない…」


 腕に魔力を収束させて、それら全てを発散させる。


「よッ!!!」


 ジェンドマザーから放たれたのは無数のボーリング玉と同等くらいの大きさの水球であり、それらが一斉に大地の化身の顔に向かって突撃する。


「これで喋る気になったか…って、無傷ってマジ?」


 私は結構本気で放ったつもりなんだけどなぁ…。

 はぁーは、攻撃は通らないしつまんないなぁ、大地の化身は。


「うむ、どうしたらいいのか」


 フェンリルも同様にこの土の塊に困り果てているようで、頭を悩ませる。


「全くだよ、こんな美人が話しかけてあげてるのにさ」


「………」


「これはノアを待つしかないね」


「そうじゃな、取り敢えず下に降りるぞ」


 ―――


 2人を抱えて避難所へと運んできた。

 取り敢えず、横にさせて状態を見る。


「ヒールはかけたが…、起きないな」


 外傷は見当たらない。

 となると、精神攻撃とかそういうヒールではカバーしきれない部分が傷ついてるとか?


「キュアオール」


 …ふむ、状態異常でもないのか。

 見た目は何事も無いかのように健康的で、呼吸もちゃんとしている。


 だが、起きない。


「ノア、こっちの猿の獣人族も起きないぞ」


 …大地の化身と戦った者だけが、こうなるのか…?

 つまり、このただ起きない症状は大地の化身のスキルか?


「大地の化身を倒さないと起きない、かもな。ダーグ、2人と合流するぞ」


「了解だ」


 俺たちは急いで、獣人族の里跡地へ戻ってきた。

 するとそこには棒立ちで動かない大地の化身と困っているような表情をする2人がいた。


「あ、ノアー。この木偶の坊ったら全然動かないんだよ?」


「あぁ、ジェンドマザーがかなり強力な魔法を放ったが無反応だった」


 無反応…、なんで動かないんだ?

 なにか動けない理由が…?


「取り敢えず逃げ遅れた獣人族は全員避難させた。だが、里長と猿の獣人族…、この大地の化身と戦っていたと思われる者たちは健康体そのものだが、ずっと眠ったまま動かない。恐らくこれが大地の化身のスキルなんじゃないかと思う」


「…その人たちは外傷も無く、状態異常でも無かったんだよね」


「え?あぁ、そうだが…」


「もしかして、魂を抜かれたのかも?中身感情が抜かれても、外側は息をし続ける。だから健康体だけど動かないのかも」


 魂を抜かれた、か。

 一理ありそうだ。


 その仮説からいくと、大地の化身は戦った者の魂を吸い取るスキル、か?


「ん?だが、なんで2人は魂を抜かれてないんだ?戦ってたんだろ?」


「分からん、同格だからじゃないのか?」


 同格だから…か。

 ジェンドマザーがこの前、スキルは絶対的な力と言っていた。

 つまり同格とかそんなものは関係ない気がする。

 それはジェンドマザーが間違ってるのかもしれないし、本当に同格だからという理由かもしれない。


「考えても分からないな…。里を潰し回った巨大ゴーレムが今は棒立ちで鉄壁と化して動かなくなった理由が…」


「ジェンドマザー、大地の化身は今後もこうやって巨大オブジェクトとして居座り続けると思うか?」


「うーん、それは考えずらいかなぁ。大地の化身は何かしらをしたくて獣人族の里を襲ったんでしょ?じゃあ、ここまで来て棒立ちになる原因はあっても理由はないと思う」


 考える俺たちに朝日が差し込んでくる。

 そう言えば夜中もずっと走り続けてきたんだっけか。


 休むことも大事だな。

 都合いいことに大地の化身は何故か棒立ちして動かないし。


「一旦、避難所へ退いて作戦を練ろう」







 ―――――――――

 魂、星幽体、幽霊体は紛らわしいですが、全部別物です。

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