第107話 古より蘇る大地の化身 その玖

 佐藤真薔薇はあるひとつの夢を叶えることにした。

 七十路になってしまった彼の最後の夢、それは自分自身が作ったダンジョンを誰かに攻略して欲しいという物だった。


 彼はその奴隷生活にて魔法の極地へと至った為に、賢者とも呼ばれるほどに力と権力を持っていた。

 その力を大いに奮い塔を建設し、強固な結界を貼り、並大抵の者では侵入すら許されないダンジョンを作ったのだ。


 塔は3階層あり、1階層には魔法耐性が高いキメイラを召喚する魔法陣、そして2階層には物理耐性が高いブラックドラゴンを召喚する魔法陣。


 物理と魔法、その両方が試されるダンジョンを作ったのだった。


 3階層、たった2体の魔物。

 ダンジョンというには少々、いやだいぶ小さいが、真薔薇は満足していた。


 そして、最後に彼は鍛治師としてもその才能を見せていた為、ダンジョンの報酬として刀を作り上げた。


 その刀はとてつもなく切れ味がいいが、持ち主の魔力を吸ってしまうという、RPGにあるような一長一短の刀だった。


 そして、次に真薔薇は置き手紙を書いた。


「零主還藤、これは私の人生の夢と憧れが詰まった刀である。持ち主の魔力を吸うが、とてつもない威力を誇る。ここまで来れた方なら零主還藤も使いこなせるだろう。


 そして、最後に…。


 私の友人である上辺輝に伝わらないであろうが、感謝を書き記したいと思う。


 次元が違っても、歳が離れても君のことは尊敬しているよ。


 あの時、BOに私を誘ってくれてありがとう」


 その後に、歴史の舞台からは賢者サトウの名前は消えることになる。


 だが、彼の残したゆめは今なお生きている。


 ―――


「ふむ…、サトウ、か。どこかで聞き覚えがあった気がするんじゃが…」


 サトウなんて名前は日本人だといっぱいいるからフェルは聞き覚えがあるのかもしれないな。


 取り敢えず、獣人族の里で伝説の剣と呼ばれていた零主還藤を手に入れたし、あとは「大地の化身」の出現を待つだけだな。


 アースターさんによれば出現する時期は分からないとの事。

 占いとは言ってるが、未来を覗き見するだけなので、正確な時期や時間が分からない。


「いつ来るか分からないってことは、1年後かもしれないし、1秒後かもしれないってことだよなー」


「確かにそうだなー」


 まぁ、1年後には来るかもしれないけど、1秒後には流石に来ないだろ。


「待て、地面の奥底から強力な魔力が感知出来た。来るぞ!」


 おい!まじで1秒後にきやがったのかよ!


「先生、場所は!」


「…これは獣人族の里の真下じゃ」


 ―――


「落ち着いて里の外へ逃げろ!動けない者は動ける者と協力するんだ!!」


 くそ、まさかノアさんたちが帰ってくる前に「大地の化身」が来てしまうとは…。


 嘆いてる暇はない。


 俺だけでも足止めをしなければならない。


「よぉ、里長。調子はどうだい?」


 こんな状況にもかかわらず呑気なことを言って来るやつなんて1人しか居ない。


 そう思い振り返ると、そこには案の定、猿の獣人族のエグハートがいた。


「おい、呑気なことを言ってる場合じゃないだろ」


「はっ、お前こそ強張りすぎだ。リラックスしたらどうだ?」


 …確かにそうだな。


 里長である俺が最後の砦だ。

 そんな奴が恐怖して、本来の動きが出来ないなんて笑われる。


「…ふっ、猿は猿らしく木登りでもして見学してろよ。俺1人でぶっ飛ばしてきてやるからよ」


「おぉ?言うじゃねぇか、犬のくせによぉ」


「ふ、2人とも!喧嘩してる場合じゃないでしょ!」


 そう話しかけられて声のする方に視線を向けるとアースターがいた。


「お、おいおい。なんでアースターが…、はやく逃げろ!」


 アースターは俺の言葉を無視して抱きついてくる。

 そして、急にキスをされた。


「絶対死なないでよー!」


 …どいつもこいつも俺の事を心配しやがって…。


 俺はいい里長になれたのかなぁ…。


「ひゅぅ〜!あついねえ」


「煽るのはそこら辺にしろ、もうすぐ来るぞ」


 中心の巨木が地面と一緒にとてつもない力によって盛りあがる。

 そして、数百メートルあった巨木は倒されて、そこから出てきたのは巨大なゴーレムであった。


 その巨体は巨木を超えるほどの大きさを誇り、耳が張り裂けんばかりの大咆哮を辺り一体に響かせる。


 その体は茶色1色に纏われており、まさにアースターが言っていた通りの「大地の化身」がそこに現れたのだった。


「チッ、デカすぎるだろ…」


「怖気付いたか?なら俺が最初の一撃を貰うぜ!!」


「馬鹿言え!それは里長ある俺の仕事だッ!」


 2人の小さな獣は体の何百倍もあるゴーレムに挑むのであった。



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