第106話 古より蘇る大地の化身 その捌
さて、2階に上がってきた訳だが…。
ここではどんな魔物が出てくるんだ?
「2階層へよく辿り着いた。2階層はドラゴンである。心して立ち向かいたまえ」
その声と共に召喚されたのは黒色のドラゴンだった。
「ブラックドラゴン、か」
ドラゴンのことは本でよく見ていた記憶がある。
ドラゴンは色でその強さが変わっていくらしく、1番弱いのが緑色のドラゴンであるグリーンドラゴン、そして、1番強いのがゴールドドラゴンだ。
そして、このブラックドラゴンはゴールドドラゴンの下に位置するドラゴンであり、かなり強いと思われる。
ブラックドラゴンは俺たちを虫を払うようにして拳を薙ぎ払った。
その動きに合わせて俺たちは回避行動を取り、俺は回避する瞬間に剣で拳を切りつけた。
後方に跳躍して、ブラックドラゴンの出方を観察する。
しかし、切った感触が硬すぎて切れた感じがしなかったな。
もしかして、斬撃が通らないのか?
「
ダーグの神速の一撃はブラックドラゴンの首にヒットしたが、その黒い鱗は少しも傷ついてはいなかった。
一方、魔法で迎撃しているフェルとジェンドマザーの攻撃に対して、ブラックドラゴンは嫌がるようにして炎のブレスを吐いた。
「…なるほど、今度は物理に対して耐性を持った魔物ということか」
ならこっちのもんだな。
俺は深く集中して魔法を練り上げる。
「5連アクアストーム!」
放たれた魔法はブラックドラゴンに直撃すると、そのブラックドラゴンの絶叫すらもかき消して、致命傷を与えた。
そして、そこにフェルとジェンドマザーの魔法の追撃によってブラックドラゴンは一瞬にして沈んだのだった。
「ブラックドラゴンも倒すか、よくやった。3階層に来るがいい」
1階層は魔法への耐性があるキメイラ、2階層は物理に耐性があるブラックドラゴン。
まさにRPGだな。
そう言えば、俺の前世の友達にRPGが無茶苦茶好きで集めまくってた佐藤真薔薇って奴がいたなぁ…。
最近は会ってなかったけど、あいつは話しやすくて良い奴だったな。
流石にそのサトウとは違うよなぁ。
しかし、サトウという男はこの世界に来て、自分が作ったダンジョンを攻略されることを願っていたんだろうか。
「よし、3階層に行くか」
階段を上り、3階層にやってくるとそこにはサトウという男はいなかった。
「…ふむ、サトウという男はどこにいるのやら…。この結界を作った人物ということは相当の術者じゃぞ」
3階層を見渡すと、中央に何やら刀が飾ってあるのが見えた。
そこには風化してボロボロになった置き手紙と結界で守られていたのか、新品同然の日本刀が置いてあった。
「よくぞここまで来た。その刀は力ある物に相応しい刀だ」
その声と共に、俺はその日本刀を手に取り、鞘から刀を取り出す。
「零主還藤…」
峰のところには漢字でそう書かれていた。
この日本刀の名前だろうか。
「それが伝説の剣か?」
「わからない…」
俺は日本刀を構えて、使い勝手を試すために振り抜いた。
スパッ!
その瞬間、斬撃が飛び出して塔の結界ごと切り裂き、その先にある海を割った。
「や、やべぇ…」
「とんでもない代物じゃな…」
「なんか凄いことはわかった」
振った俺ですらぽかんとその光景を見てると、何か不快感が襲ってきた。
「ぐっ!なんだこれ…!」
この刀、俺の魔力を吸いやがった。
「魔力を吸う刀…か。妖刀の類であろうな」
絶大な威力を誇るが、持ち主の魔力を吸う日本刀か。
「零主還藤、いい名前だな。俺が使ってやるよ」
―――
佐藤真薔薇、15歳。
両親は真薔薇が幼いうちに2人とも無くなっており、祖父母の家で青春を過した。
そして、そんな彼を虜にしたのが、「RPG」であった。
レベル1からスタートして、色んな魔物と戦って、色んな街を巡って、そして最後に世界に悪を振りまく魔王を倒す。
そんな単純なゲームなのだが、真薔薇はそこに楽しみを見いだして、憧れを持っていた。
そして、高校1年生の夏休み直前にある男と出会う。
その名は上辺輝。
彼はVRMMORPGという真薔薇のRPGとはまた別のジャンルのゲームを愛していた。
真薔薇は自身が産まれる前の旧世代のRPGを集めに集めていたが、輝は新世代のVRMMORPG、その1本をやり込んでいた。
ジャンルが似ている、ただその共通点だけで2人は友達となり、夏休みになった瞬間に真薔薇はVRMMORPG、輝がやっている当時流行っていた「ブレイブオンライン」をやり始めた。
そして、夏休み後半。
2人は
だが、真薔薇は不慮の交通事故にあい、齢15歳にしてこの世を去った…。
かに思えたが、真薔薇は事故の寸前に異世界転移していたのだ。
目の前の死からは逃げられたものの、異世界に来て待ち受けていたのは奴隷としての日々だった。
真薔薇は例に漏れず強大なスキルと魔力を持っていたため、隷属魔法を付与され毎日働かされた。
そして、遂に魔法の究極へと至った真薔薇は隷属魔法を自ら解き、逃げ出したのだ。
今まで生きてきた時間と同じくらい奴隷として使われてきた真薔薇だったが、悲しんではいなかった。
むしろ、その顔は新しいおもちゃを買い与えられた子供のように無邪気に笑っていた。
夢にまで見たRPGのような世界。
そして、開放された真薔薇は世界を歩き回った。
帝国や神聖国、獣人族の里などまるで自分がRPGの主人公になったかのように振る舞い、まさにロールプレイングだった。
そして、年月が経ち真薔薇は七十路を超えていた。
―――――――――
佐藤真薔薇の過去はもう少し続きます。
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