第104話 古より蘇る大地の化身 その陸

 今はヴァレットを除いた4人で北の海岸線を目指している。

 北の海岸線はこの里から数日の距離だという。

 里長の命令だとしても里の獣人族はあまり俺たちを快く受け入れられないという目をしているので、その日のうちに行くことにした。


「しっかし、ここら辺にはまじで魔物がいねぇなぁ。こうも長い間戦ってないと体がなまっていきそうだぜ」


「確かに里に近づくにつれて魔物の数は減っていったな。これも大地の化身とやらの仕業か?」


「仕業って言うよりかは、結果的にそうなってるんじゃないかな?私が森に住んでる弱い魔物だとしたらそんな化け物が迫ってくる森には居たくないもん」


 そりゃあ、そうか。

 魔物たちは大地の化身から逃げているから、こんだけ安全地帯になってるんだな。


「徒歩続きだが、もう少し頑張ろうぜ」


「お、そうだな」


 俺たちは北の海岸線にあるという伝説の剣を目指すのだった。


 ―――


「ヴァレット、勝負しないか」


 猿の獣人族、エドウィンが木剣を2本持ってきて唐突にヴァレットに話しかけた。


「え…?いいけど」


 その奇妙な行動に少し違和感を感じつつも、エドウィンの勝負を引き受けることにする。


 このエドウィンという男は、昔からプライドが高く何かと俺に突っかかってきていた。

 その頃の俺は小さくて何も分からずに、エドウィンに惨敗していた。


 なぜ俺に突っかかってくるのか、おれは後に分かったことだが、俺が里長の息子であることが気に入らなかったらしいのだ。

 エドウィンの親は里長とライバルのような関係で、そしてその2人は里の中でも最強と謳われる2人だった。

 そして、その後に里長を決めることになり勝負をして、エドウィンの父親が負けたのだった。


 恐らく、それらの理由で俺に突っかかってきていたのだった。


「倒れた方が負けだ」


「あぁ、分かった」


 何年前だったか忘れてしまったが、あの時初めて俺が勝負に勝った時以来だな、エドウィンと勝負するのは。


 それからはまるっきり俺に勝負はしかけてこなくなり、言葉での攻撃が増していったっけか。


「始め」


 エドウィンは猿の獣人族の特徴でもある手足の強さから、時には足で剣を持ってトリッキーな動きによって俺を翻弄しながら攻め込んでくる。


(懐かしい、な)


 俺はその変則的な軌道を全て打ち払い、後方に後退する。


 今思えば、エドウィンは悔しかったのかもしれない。

 いつも下に見ていた俺が勝負に勝って、プライドが傷ついたのかもしれない。


 俺は急加速して、エドウィンを真正面に捉えると木剣を思いっきり振り下ろす。


 エドウィンはその攻撃に対して避ける選択肢を取り、横にステップを出そうとしている。


 俺は振り下ろす気のなかった木剣を横ステップ中の無防備なエドウィンの脇腹を叩く。


 子供だから、その感情が整理できなくて歪んでしまい、俺に言葉で攻撃をするという方法を選んだのかもしれない。


 エドウィンは脇腹を抑えながら倒れる。


 もう立ち上がるのは厳しそうだ。


「ヒール」


 俺の回復魔法では効果はそこまでないとは思うが、痛みを引かせることくらいは出来ると思う。


「………」


「…俺の勝ち、だな」


 沈黙が続く。

 静寂の中、エドウィンは俯く。


「…凄い、ヒールだな。痛みが消えた」


「あぁ」


 木剣を2本持って、この場から立ち去るエドウィン。


 だが、急に後ろを振り向いて頭を下げた。


「今までごめん、意地張ってた。あの時、努力を積み重ねた美しいお前の剣技が羨ましかった。そして、今もその剣技は美しかった」


 …あぁ、エドウィンはこんなことを思っていたんだな。


 思えば、子供の頃からなにもエドウィンの事を分かっていなかったのかもしれない。


「じゃあな」


 俺は振り帰ろうとするエドウィンに走っていき、肩に腕を乗せた。


「…?」


「これから一緒に訓練しにいかないか?」


 エドウィンの口角が少し上がったのが俺には分かった。


「あぁ、行こう」


 ―――


「しかし、娘はそんなことになっていたとはな…」


 里長バイアトスは5年前にいなくなった娘チェリアの現状をしって、深いため息をつく。


 娘は5年前、この森で狩りを習っていたところ、いきなりいなくなった。

 テレパシーで探ったところ王国に向かっている最中だということがわかった。

 5歳になるチェリアがいくら獣人族の血が混じっているとはいえ、その距離を移動出来るとは到底思えなかったため、恐らく人間に攫われたのでは無いかと憶測を立てた。


 俺はすぐさま取り返しに行こうとしたが、仮にも里の長であるものが、里を空けるなどあってはならなかった。

 里には頼れる者が多かったが、その者にチェリアの捜索を願おうにも、その者が何かしら怪我や最悪の場合死んでしまった時にご家族に申し訳ないし、俺の私情でそんな危険なことをさせれないと判断して、諦めた。


 だが、チェリアは奴隷にはなってしまってはいたが、とてもいい生活をしているようだ。

 ノアさんは10歳のチェリアにも大人と同額の給料を渡していると言っていたし、変にこの里に住んでるよりかはそちらの方がいいのではないかと思ってしまう。


 だが、しかし娘の姿が見たい…。見たいが…!この里からは離れられない…。


 どうしたものか…。





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