第103話 古より蘇る大地の化身 その伍

「おい、何を格好つけておるのじゃ。早くこの獣人族たちを引かせてくれ。こう囲まれてると落ち着かん」


「あ、バレた?」


 フェルには…、いやジェンドマザーにも気づかれていたか。


「ノア?大丈夫か?」


「ん?あぁ、気を抜いてて派手に飛ばされたけど、特に問題は無い。回復もしたしな」


 確かに、この里長の攻撃は早すぎて見えなかったが、軽いパンチだった。

 お陰で口内を出血するだけで済んだしな。


「なかなかかっこよかったよぉ、ノア!怒りで目の前が見えなくなる戦闘狂バトルジャンキーみたいで!」


「お、分かってるじゃん。ジェンドマザー」


「さ、里長!」


 誰も動けなかった中、ヴァレットが1人里長を心配して近寄る。


 里長の右の肘から先が切断されていて、大量出血している。

 自業自得な訳だが、ここで死なれちゃ困る。


女神の祝福セレスティション・ブレッシング


 魔法を唱えると無くなっていた右腕が再生されていき、次第に復活した。

 そして、意識も同時に戻ってきた里長は右腕の調子を確認しつつ立ち上がる。


「いきなり襲ってすみません。わざわざ腕も治していただき、感謝致します」


 うぉ、なんか急に礼儀正しくなったな。

 いや、これが素なのか?


「皆の者、我はこのお方に破れた。今この時からこの者たちの里への滞在を許可することにする」


 お、手間が省けたな。

 まぁ、この里の血気盛んさからしてどちらにせよ戦うことにはなっていただろうけど。


「さぁ、皆様は私の部屋に来てください。娘の話も聞きたいので」


「そうさせてもうよ」


 俺たちは滞在許可を貰い、里長の家に向かうのだった。


 ―――


「ま、じかよ…、なんなんだ?あの人間」


 里長があんな簡単にやられるなんて…。

 しかも、あの人間は気づいた時には傷は無くて元気であった。


 あの里長のパンチを食らって、だ。


 里長が本気じゃないとしても、平気で鉄が歪み岩が碎ける程の威力はあるはずだ。


「くそ、ヴァレットはお手柄か…」


 …はぁ、俺は何を1人で意地張ってるんだろうな。


 もういいかもしれない。

 あの頃のことを謝っても。


 ―――


 里長の家は巨木の裏にあり、他の家の数倍は大きい家に住んでいた。


「さぁ、座ってください」


 家に入った俺たちは椅子に座るように促され、その通りに寛ぐ。


「里長はそれが素なのか?」


「えぇ、そうですよ。私は仮にも里の長ですので、侵入者には強気でいないと威厳が損なわれてしまいますからね」


 なるほど。

 獣人族は性格的にもこういう事を許容するリーダーはリーダーとしてやって行けないのかもしれない。


「早速本題なんだが、大地の化身については何処まで知っている?」


「はい、まずはその事を占った獣人に来てもらいましょう。アースター、こちらへ」


 そうしてやってきたのは、角が生えている獣人族だった。


「私はアースターと言います。私のスキルは「先時覗見せんじしけん」といい、未来を覗き見ることが出来ます」


 凄いな…。

 占いと言うより、予知の方が近いスキルだな。


「それで、何を見たんですか?」


「はい、見た光景は大地のように巨大な体を持っゴーレムのような容姿をした怪物で、その姿がまるで大地の化身のようでした。残念ながらいつ現れるのかが分かりませんが、来るのは確実だと思います」


 占いじゃなくて、覗き見れるんだな。

 それで見た光景が「巨大なゴーレムが里を襲う景色」か。


「うん、多分だけど八源厄災の1人だね。私が当時聞いた噂と合致する点が多い」


 ジェンドマザーがそう言うなら、恐らくは本当に八源厄災の1人なんだろうな。

 さて、敵の正体はモヤが晴れて綺麗になったが、その大地の化身にどう対抗…、いやどう倒すか考えないとな。

 ジェンドマザーが聞いたというのはフェルが生まれる前だと言う。

 それは大地の化身とやらが、ジェンドマザーと同じもしくはそれより多く生きている化け物だということだ。


「実は、この里に伝説があるのです」


「伝説?」


「えぇ、それはここからずっと北の海岸線に大地を斬り、海を割る剣があるという伝説です」


 ほう、まるでRPGのような展開だな。

 だが、今は情報が何も無いため、それを取りに行ってもいいかもしれない。


「お、いいじゃねぇか。早速その伝説の剣とやらを取りに行こうぜ」


「そうだな、行ってみるか」


「そうですか、あくまで伝説ですが…。それが本当なら戦いの時に有利になるに違いません。ぜひ行ってきてください」


 よし、伝説の剣取りに行くか。


 ―――


「まさか、里長が敗れるとは思いませんでした」


「あぁ、俺もだ。あのパンチは本気だったはずなんだが、あの人は吹っ飛ばされただけでダメージはなさそうだった。殴った感触が少し変だったから何か魔法での薄い結界などで身を守っていたと思うんだが…」


「薄い結界…?そんなことできるわけないじゃないですか。里長が無意識に力をセーブしていたんじゃないんですか?」


「はっ、まさか」


 人間とは脆弱で力がない弱っちい種族かと思っていたが、俺の腕を一瞬のうちに切断した後に即座に欠損した部位を回復するほどの魔法を使うとは、人間も捨てたもんじゃないな。


「今はあの人たちに任せるしかないな。大地の化身なんかに里を壊させてたまるか」





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