第99話 古より蘇る大地の化身 その壱

「大地の化身、か。ヴァレットはその正体は把握しているのか?」


「いや、俺は分からない。占い師が物凄い剣幕でこのことを話すもんだから、チェリアがその時期に帰省しないように知らせないと、と思って直ぐに里を飛び出してきたからな」


 なるほど、だからチェリアを探していたわけか。

 しかし、大地の化身…か。

 フェルに聞いてみるか。


「俺の先生が、そういう厄災とか詳しいからその人にこのことを話してもいいか?」


「あぁ、情報が得られるなら尚更大丈夫だ」


 そうか、なら聞いてみるか。

 俺は念話を使ってフェルに問いかけてみる。


『今、応接室に獣人族の客が来ているんだけど、獣人族の里に「大地の化身」が迫っているらしい。先生は大地の化身が何者か分かるか?』


『ふむ、大地の化身か。聞いたことがないな。その呼び方から察するに八源厄災だろうが…』


『分からないか?正体が分かれば戦いやすくなると思ったんだが』


『まさか戦うつもりか?』


『あぁ、だってチェリアの故郷に危険が迫っているんだ。故郷が無くなったら寂しいだろ?』


『…ノアらしいな」


 …フェルも知らない八源厄災、か。


 兎に角、準備だな。

 まずは獣人族の里とやらに行かないと行けない。


「すまない、先生も知らなかったようだ。だが、恐らくその正体は八源厄災と言われるこの世の頂点に立つ8つの生物のうちのひとつだと思う」


「八源厄災…」


「あぁ、だから俺たちが行ってそいつらをぶっ飛ばしてやろうと思う」


「「え!?」」


 ヴァレットとチェリアはすごく驚いた表情になり、口をあんぐりと空けている。


「なんだ?嫌なのか」


「い、いや!びっくりしただけだ。俺のパンチを平気で受け止める程の強者が来てくれるのはありがたい」


「で、獣人の里はどこにあるんだ?」


「あぁ、ここから半月程度かかる」


 半月…?つまり行き来で1ヶ月…。


 夏休み終わっちゃうじゃねーか!


 ―――


「大地の化身…か」


 フェルはいつにもなく真剣な顔で、考え事をしている。

 右腕にはちゃんとお菓子を持っているが…。


「心当たりがないといえば嘘になるが…」


 確か、八源厄災で文献にて話が乗っている者は現在7種いる。

 八源厄災と言っておきながら、昔の文献には登場しない者が一体いるのだ。

 そいつが獣人族の里を襲おうとしている者、かもしれない。

 だが、何故歴史に登場せずじまいだったその者がいきなり出現したのか…。


「おやおや、フェルちゃん。なんだか険しい顔をしているねぇ」


 ノックもせずに入ってきたスライム女を目の前にして、顔を顰めるフェル。


「なんじゃ、また縛られたいのか」


「それもありだね。あれ意外と…、ゴホン。なんでもないよ」


 未だに人化が上手くいかず、肌色と水色が混じったような色の肌をしているジェンドマザーは近くにあった椅子に座る。


「お主は、大地の化身という者を知っているか?」


「大地の化身、ねぇ。知ってるよ、君が生まれるずっと前に少しだけ聞いた覚えがある」


 君が生まれるずっと前、という言葉に不快感を感じながらも、それを指摘すると長くなると察したフェルは話の続きを求める。


「で、どう言うやつなんじゃ?」


「戦ったことは無いけど、大海の化身と対になる者とか呼ばれてたかなぁ?私も当時はそれなりに力を使って暴れ…いや遊んでたから、憶測でそう呼ばれてたのかもしれないね」


「それだけ?」


「うん。かなり昔だから忘れてるだけかもしれないけど、今持ってる情報はそれだけ」


 まじか…と落胆しつつも割とデカい1個ではないか?と思うフェル。


 このジェンドマザーというお巫山戯スライム馬鹿変態女は仮にも我の数倍は軽く生きている正真正銘の化け物だ。

 あの時はオスカーという男に操られていて、機械的な動きしかできずに我らがボコしたが、もしもこやつが本気で我らを殺しにかかってきたらすぐに殺されてしまう程に力の差は空いてると感じる。


 そんな者と対になる者…。


 それが弱いはずがない。

 少なくともジェンドマザーが言う大昔に生きていた奴であるのならば尚更だ。


「私が手伝って上げちゃおっかにゃぁ?」


 チラチラとこっちを見てきて腹立たしいが、事実このスライムの力を借りなきゃ、厳しそうだ。


「…頼む」


「あ、あれ?そんなんだとこっちが調子狂うなぁ。いつもみたいに「お前なんかに頼むか、スライム女がっ」って言っててくると思ったのにぃ」


「はいはいありがとうございます、変態スライムクソ馬鹿女。じゃあ多分ノアのことだからすぐに行くと思うから、準備しておれ」


「悪口が加速するね!?」


 フェルとジェンドマザーはそれぞれ旅の準備に取り掛かり始めた。


 ―――


 さて、いつものように空間収納に色々詰め込んだからもう準備万端だ。


 今回はいつもの3倍くらい長い旅路になると思うから、なるべく色々詰め込んでみた。

 ベットや結構大きめなテントなどなど、普段なら絶対持ち歩けない物を持って行けるってのは凄いことだ。

 空間収納様々だな。


 今回の旅のメンバーは、「フェル、ジェンドマザー、ノア、ヴァレット、ダーグ」の5人だ。


 チェリア自身は行きたがっていたが、流石に危険なのでお留守番をしてもらう。


 フルティエもかなり行きたそうにしてたが、セリアの監視や後輩の教育など色々やることがありすぎて、1ヶ月も空けられると厳しいものがあるためお留守番だ。


「さっ、パパッと行ってその大地の化身を倒してくるか」






 ―――――――――

 ※タイトルを変更しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る