7章 獣人編

第97話 素晴らしきこの世界

「あ、オーウェンにフェルにノアじゃん。どうしたの?3人で」


 学校の寮に戻ってきた俺たちは廊下でウロウロしてなにか落ち着かないカルトと出会った。

 まさかの偶然を装ったカルトだったが、誰が見てもバレバレの演技で笑いがこぼれそうになる。


「…あぁ、ちょっとした旅行にな」


「…神聖国へ」


「余計なこと言うな」


「どうしたのー?」


「なんでもない、うん」


 見ての通りカルトにも心配かけちゃったようだな。

 だって、わざわざ寮の廊下で待ってるくらいなんだから。


「はい、これ」


 俺がカルトへと手渡したのは途中の街によった時に買った豚ズラのキーホルダーである。

 しかし、あの街は魔物のキーホルダーが色んな種類売ってて凄かったな。

 自分たちの敵である魔物をキーホルダーにするなんて、逆にセンスがあると感じた。


「…豚ズラ?」


「あぁ、可愛いだろ。お土産だ」


 あの丸っこいボディはなんとも可愛げがある。

 他にも色々買ってきたが、他のみんなにも適当に配っていくか。


「…ありがとう!!!」


 おぉ、そんなに喜んでくれるとは思ってもいなかったな。

 こんな喜んでくれるなら買ってきたかいがあったっていうもんだ。


「じゃ、俺は自分の家に戻るよ」


 俺はカルトへ別れを言って、自分の豪邸へと帰るのだった。


 帰宅して足を踏み入れる。

 1週間程度、家を開けていただけでなんだか懐かしいような気分になるな。


「お帰りなさいませ」


 訓練をしているのか日に日に動作にキレが増す使用人一同だが、毎回そんなことしなくてもいいのにな。

 最初の頃はこの挨拶が嫌で、何回か嫌がったが、全く聞く耳を持たなかったので、諦めたのである。


「あ、そうだ。シェーリンの自室へ案内してくれ」


「分かりました」


 俺はひとつ試したいことがあったので、シェーリンの自室へと足を運ぶ。

 ふむ、まだ殺風景のままでなんだな寂しい光景だな。

 まぁ、給料が入ったら自分好みへと変えてくれるだろう。


 俺は椅子に座り、シェーリンは俺が座ったのを確認すると向かいの椅子へ腰掛けた。

 俺より先に座っちゃ行けません、なんて指導を行っているのだろうか?


 まぁいい。本題だ。


「さて、アルトルから聞いたが、空腹感や脱水症、幻覚などが未だに軽くだが続くと聞いたが、本当か?」


「えぇ、そうです。ライフスターブ…、ライタブ中毒の症状です…」


 なるほどな。


 さて、俺がシェーリンに行いたいのは神聖魔法で中毒症状が消えるかどうかの実験だ。


 魔浄の聖域はオーウェンの乗っ取られていた時に受けた傷や古傷などを治していた。


 そこで俺は考えたのだ。

 魔浄の聖域とは魔なる者の浄化だけではなく、魔ではない者を対象に使うと健康に戻るのではないか?と考えた。


「少しじっとしていてくれ…」


 集中力を高めていく。

 神聖魔法は少し複雑で集中状態じゃないと通常運転をするには少し厳しい。

 これも練習が必要だな。


「よし、魔浄の聖域」


 シェーリンを対象に光が収束していき、やがてその光は霧散する。


 シェーリンの顔へと視線を向けると未だ窶れた顔をしているが、顔色はだいぶ良くなったようだ。


「あ、あれ?常に続いていた症状が…?」


「お、成功してるようだな。いえーい」


 シェーリンは手を差し伸ばすと、わけも分からずと言った顔で俺とハイタッチする。

 これで、アルトルの助手としてちゃんと務まるようになったかな。


「………」


「まずはアルトルにご飯を作ってもらったらどうだ?もう満足に食べても問題は無いと思うぞ」


「…はい!!!」


 おー、いい声だ。

 治って良かった良かった。


 ―――


 ノア様の顔はよく見えない。


 常に軽い幻覚症状に襲われている私は、視界に何かしらの異常が常に発生しているためにノア様の顔をちゃんと拝見したことは無いのだ。


 …そして、これからも。


 そう思っていた時期が私にもありました。


 ノア様は何かしらの神々しい光の魔法を私に使うと、その光は私に集まってきて体の中に入っていきました。

 その光はなんだか暖かくて、まるでノア様に抱擁されているようなそんな気分でした。


「あ、あれ?常に続いていた症状が…?」


 え?幻覚は?

 空腹状態は?脱水症状は?


 あれ…?


 治った…?


「まずはアルトルにご飯を作ってもらったらどうだ?もう満足に食べても問題は無いぞ」


 そうだ!まずはアルトルさんのご飯を…!


「…はい!!!」


 私は急いで食堂に駆け出した。

 こんな晴れやかな気分なのはいつぶりだろうか。

 あぁ、ご飯が待ちどうしいのはいつぶりだろうか!!


「お、なんだか元気がいいな今日は」


「はい!ご飯をお願いします!」


「…おう、任せておけ」


 早速出てきた料理をパクリ。

 このスープのような茶色い汁をご飯にかけて食べるノア様が考案された「カレー」という料理を食べて、驚愕した。


「う、うまい!?」


「お、おう。うまいか」


 思わず視線をアルトルさんに何回も向けながらもカレーを食べ進めていく。


 そして、最後の一口。


 完全に満腹の状態になった。


「はぁー、美味しい…」


 しかし…、ノア様ってあんなにかっこよかったんだなぁ…。

 あれでまだ15歳とはとても思えない。


 落ち着いて冷静に周りを見渡すと今まで見えてこなかった世界が私を魅了する。


「あぁ、この世界。最高」


 私は幸福感に満たされて、食堂で眠りについた。


「こんなところで寝やがって…。まぁ、その頬に垂れる雫に免じて今回は許してやろう」

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