第94話 悪魔王
「ここが、神聖国…か」
荒野に佇む白い街、その違和感がなにか不気味さを醸し出している。
「うむ。兎に角何処かから忍び込もう」
俺たちは気配を消して、神聖国を囲う塀を乗り越えて神聖国内に入り込んだ。
街並みは白を基調とした綺麗な街で、住んでいる人は特に変わりはなく、王国内で見た人並みと比べて変な様子はない。
「これなら普通に街を歩いても問題はなさそうじゃな」
「いや、一応外套を着ておこう。用心しておいて損は無いからな」
俺たちは外套を装備して、街を見回ることにした。
ご飯を食べたり、洋服屋や商店街は特に変わりはなく普通であった。
「図書館でも行ってみるか。なにかこの国の情報が分かるかもしれない」
近くを通りかかった図書館に入り、本を見ていく。
そして、魔法書の欄にて神聖魔法のことが乗っている本を見つけた。
「…これが、神聖魔法か」
ドガンッ!!
「なんだ!?」
いきなり図書館が崩れ始めた。
そして、近くにいるものすごい気配。
その気配の方へ視線を向ける。
あの男は…。
「…オーウェン…?」
「ノアっ!逃げるぞ!」
俺はフェルに抱えられると、そのまま神聖国を後にした。
―――
「きゃぁー!なに!?」
「何が起きたんだ!」
「誰か助けてー!」
絶叫が木霊する図書館内にてオーウェンを乗っ取っている悪魔は顔を険しくする。
「チッ、逃ゲ足ダケハ速イ奴ラメ」
しかし、この神聖国…。
噂には聞いていたが、本当に国全土に微弱な神聖結界が貼られているな。
数十年生きた程度の悪魔なら一瞬で蒸発するレベルだから、人間からしたら微弱では無いのかもしれないがな。
「…神聖魔法ノ使イ手ガ来タラ面倒ダ。早クアイツラヲ殺ロシニ行コウ」
足に力を込めると、一瞬のうちに神聖国を後にする。
目指すはノアとフェルだ。
―――
「ほら、そろそろ降りたらどうだ」
「待ってくれ、今神聖魔法の構築の仕方を見てる。もう少し抱えててくれ」
神聖国を飛び出して、数分。
未だ荒野をひた走る抱えられて本を読むノアとフェル。
「チッ、もう来てるぞ。早く覚えんか」
「………」
ノアは集中タイムか。
仕方ない、我が時間稼ぎをしてやるか。
「気配隠蔽くらい使って、岩場に隠れておれ。時間を稼いでやる」
「…おう。任せた」
ノアが岩場に隠れて、数分後。
悪魔はフェルを見つけて、荒野に降り立つ。
既に、オーウェンの面影は薄くなり、肌は所々黒く変色している。
「モウオニゴッコハ終ワリカ?」
「ふは、つまり我は逃げる側だったわけか」
「ソウダ、オ前ハ逃ゲ惑ウ弱々シイ人間ダ。ソシテ俺ガソノ人間ヲ殺ス悪魔デアル」
フェルはなんの前触れもなく、悪魔に突進する。
拳に嵐を纏わせて、悪魔に狙いを定める。
「人間ニシテハヤルナ。ダガ、軌道ガ丸見…」
だが、フェルが放ったのは左から鋭く顔に刺すように放ったハイキックであった。
その一撃と共に後退をして距離を保つ。
「…フェイント、カ。シカシ、私ハ痛クモ痒クモナイゾ」
「…ほう?そりゃあ良かった」
「ダガ、私ニ一撃食ラワストハヤルデハナイカ。ソノ一撃ヲ評シテ、我ノ名前ヲ教エテヤロウ。我ノ名前ハ「アルカルハ」。
ふむ、悪魔王か。
オーウェンが抑えていられる程度の弱々しい悪魔かと思ったらオーウェンの方が凄かった、ということか。
…軽く見積っても1000年は生きている正真正銘の化け物だな。
「………」
「ハッ、恐レオノノイタカ。悪魔王ナド中々オ目ニカカレルコトデハナイゾ?」
「言ってろ」
フェルは踏み込んで、思いっきり近づいて拳の打ち合いをしながら思考を始める。
肉弾戦は実戦経験が無く、素人も同然だが、無理やりスピードを上げて追いつかせている感じか。
魔法は未だ撃って来ていないが、撃たせたらやばそうじゃな。
「鬱陶シイ」
フェルのスピードに対応出来なくなってイラついたアルカルハから放たれたのは風系統魔法。
軽く避けて、距離をとったフェルは風系統魔法の着弾地点に視線を送る。
そこにはクレーターが出来ていてまるで小さい隕石が落ちてきたかのようだった。
なるほど…。
ノアとほぼ一緒くらいの威力が出るようじゃ。
流石に悪魔王と言ったところか。
いや、この場合ノアの方が異常と言うべきか。
「もう終わりか?」
「チッ、チョコマカト」
今度は数発連続で風系統魔法で放つ。
だが、それを何回か繰り返すとアルカルハは肉弾戦に切り替えてきた。
魔力量もノアと一緒くらいか?
いや、総量はノアの半分くらいしか無いな。
悪魔は魔力の扱いが上手いと聞くが、ここまで魔力の消費を抑えてあの威力を放てるのか。
『おい、まだか?我の方は大丈夫だが、神聖国から数百人の人間の塊がこっちに向かってきてるぞ。あまり時間は無いかもしれないのじゃ』
『…あと数分だ。神聖魔法の構築をまだ理解出来てない』
『分かった』
「おい、悪魔。続きと行こうじゃないか」
「フッ、人間ノ癖ニ言ウデハナイカ」
アルカルハとフェルの肉弾戦は更に激しさをまして行くのだった。
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