第93話 命の渇望
さて、問題の神聖国なのだが結構な距離がある。
具体的に言うと、俺がエリーゼの森から王国に来た時くらいの距離があるため、時間がかかることが予想される。
「空中を身体強化の魔法で走れば良い。もっと急ぐならノアの限界突破:電光石火も使っても良いしな」
まぁ、確かに。
その方が効率的かもしれないな。
「じゃあ、それで行くか」
俺は限界突破:電光石火をフェルは疾風迅雷を使って、神聖国へ一直線で走り出した。
―――
「はぁ…はぁ…、なんでノアたちが神聖国…に…?」
オーウェンは自室に戻ると、悪魔を抑えながら思考を続けていた。
「まサか、俺を消すたメに…」
オーウェンは無意識のその言葉が自分自身の口から出たことに驚愕する。
「何、を言ってるん…だ?」
静寂の中、オーウェンの吐息だけが響き渡る。
「コロし、にいかなケれば」
自身の愛刀を手に持ったオーウェンは立ち上がった。
目的地は神聖国。
「ノアたち」を殺す為に。
―――
「ふぅー、流石に1日走り続けるのは厳しいな」
「軟弱者め、我はなんともないぞ」
「そりゃあ、生きてきた年数が違うからな」
「ふは、言うではないか」
無駄話をしつつ、俺は神聖国の行く途中にある小さな村に立ち寄った。
辺りはもう真っ暗で、野宿でもいいかと思ったが、お金もあるので宿に泊まることにした。
「宿代1泊10銀貨です」
「…高いな」
「何か言いましたか?」
「いえ、何でも」
「じゃあ、これは鍵です」
この程度の宿は王国なら5銀貨ぐらいなのだが、なんか高いなぁ。
まぁ、ここら辺で泊まるとなったらこの宿しかないし、多少高くても客は入りそうだもんな。
俺は渡された鍵の部屋に入り、ベットに寝転ぶ。
「あの店主やりおる」
「でも、ノアは金持ちなんじゃろ?別にいいじゃないか」
「まぁな。さぁ、明日も早く起きて神聖国目指すぞ」
俺たちは備え付けられたシャワーを使って体を洗って、直ぐに寝てしまった。
数時間後、辺りが完全に静まり返った時に俺は違和感を感じて、起きた。
「気づいたか、なにか来てる」
「あぁ」
ほぼ完璧に近い精度で気配を消して何かが近づいてきている。
寧ろ、精度が高すぎて違和感を感じるほどだ。
この違和感がなければ俺は気づかなかっただろう。
「俺ら以外を狙っている可能性はあるが…。撃退するか?」
「ふむ…。いや、逃げよう。無駄に戦う必要などない」
「了解」
俺とフェルも同様に気配を消して、宿屋から飛び出る。
外にいる気配は少し揺れ動くのを感じたので、恐らく動揺をしたのだろう。
これで、俺たちを狙っているっていうのは確信に変わったな。
しかし、俺を狙うやつ…か。
俺には心当たりはないが…。
まぁ、いいか。
俺たちのスピードにはついて来れないだろう。
あと3分の2くらいだな。
面倒事も何故か付きまとって来てしまったから、さっさと神聖国に行こう。
―――
「キヅカレタカ」
まさかただの人間に
人間にしてはかなりやる部類のようだ。
既に彼方へと移動してしまった標的を見て険しい顔をするオーウェン。
「チッ、コレジャア転移シテモ意味ナサソウダナ」
寝ているにもかかわらず気づかれたのだ。
恐らくもう狙い目はないだろう。
先に神聖国で待ってるか?
いや、あまり神聖国に近づきすぎると私が危ない。
「サテ、ドウシタモンカ」
―――
「うむ、流石について来れないようじゃな。しかしなんじゃったんだ、あいつは?」
「俺に聞かれても。先生こそなにか恨みを買ったんじゃないのか?その性格だし」
「ふん、分からん。そうかもしれん」
まぁ、いいや。
考えてもわからなさそうだし。
兎に角、今は神聖国に向かおう。
―――
「シェーリン、皿洗っといてくれ。無理そうなら、休んでいても構わない」
豪邸の厨房にて、使用人たちのご飯を作った後に、シェーリンとアルトルは後片付けをしていた。
アルトルは食材をしまって行くが、シェーリンはかなり具合が悪そうにしている。
「…無理そうだな。1回厨房を出ようか」
シェーリンに肩を貸して、食堂の椅子に座り、お茶を出す。
「言いたくなければいいのだが、ライフスターブについて教えてくれないか?なにか情報があればご主人様がなにかしてくれるかもしれない」
「…はい。ライフスターブとは煙草の名前です。1回吸ってしまうと酷い中毒症状が出て、数時間吸わないと幻覚症状や脱力感、魔力の欠乏など、色んな症状が出てきます。特に酷いのが、空腹感と脱水症状が現れることです。それで、命(ライフ)を渇望(スターブ)という名前が自然と着きました」
命を渇望…か。
だが、シェーリンはかなり痩せていつも体調が悪そうにしているが…。
「…えぇ、こんな体なのはその中毒症状を無理やり治すために、こんな体になってしまいました。もう吸わなくても大丈夫になったのですが、まだ少し脱力感や幻覚症状が現れることがあります」
「そうか…」
ご主人様に何か案が無いか聞いてみようか。
俺はシェーリンの教育係兼師匠としてなんとかしてやりたい、そう思った。
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